営業権の税務のポイント

営業権については、税務上の取り扱いについても理解しておきたい。税務面は専門家に任せることもできるが、経営者が知識をつけることでM&Aをスムーズに進めやすくなる。

ここからは買い手と売り手に分けて、税務の基礎知識やポイントを解説していこう。

売り手側(譲渡企業)の税務

売り手側の税務については、M&Aのスキームによって営業権の取り扱いが異なる。

事業譲渡によるM&Aでは、取引価額を対象にした消費税と、譲渡益を対象にした法人税が発生する。法人税については、「譲渡金額-取得価額」の金額が課税所得とみなされ、ほかの収益などと合算する形で税額が計算される。

一方で、営業権を含む形で株式譲渡をした場合は、その取引価額に対して消費税が課されることはない。法人税については「譲渡金額-株式の取得価額」が課税所得となり、事業譲渡と同じ形で税額が計算される。ただし、これは法人が株式譲渡を行った場合であり、個人による譲渡では所得税(税率20.315%)が課される。

なお、営業権を単体で譲渡するケースでは、税務上の取り扱いは事業譲渡と同様になる。

買い手側(譲受企業)の税務

買い手側の税務もスキームによって異なるため、事業譲渡と株式譲渡に分けて解説しよう。

M&Aにおける事業や営業権単体の譲渡は、消費税法上では課税取引に該当する。そのため、消費税を含めた形で取引価額を計算し、M&Aの実施時に10%の税金を負担することになる(※税率は2022年5月時点のもの)。なお、日本では対価を受け取った者が納税義務者となるので、買い手から預かった消費税は売り手側が納付する。

また、事業や営業権単体の譲渡では、受け取った営業権を5年間で償却しなければならない。営業権の額は「譲渡金額-純資産」で計算し、毎年一定金額で償却を行っていく。

一方で、株式譲渡によって営業権を受け取った場合は、消費税の負担や償却が不要になる。買い手・売り手ともに税務は混乱しやすいポイントなので、営業権の取り扱いで悩んだら専門家に相談することを検討しよう。

営業権はM&Aの取引価額を左右する資産

営業権は目に見えない無形資産ではあるものの、将来性を重視したM&Aでは取引価額に大きく影響する。「営業権をどう評価するか?」は多くの企業が悩まされる部分なので、M&Aの当事者はできるだけ多くの評価方法を理解し、少しでも選択肢を増やしておきたい。

また、普段から営業権を意識した経営を行っておくと、M&Aの売り手側に回ったときに多額の利益を得られる可能性がある。そのため、会社や事業を売却する予定がある方は、本記事を参考にしながら営業権を高める努力を続けていこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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