習政権に対抗できる後継者選びが狙いか
一部では、李首相が次期国家主席となる可能性が議論されているが、現時点においてその公算は低いだろう。同首相は、2022年4月に開催された全国人民代表大会で来年退任する意志を明言しており、残された任期中に可能な限り経済の安定化を図ることを自らの使命と捉えているのではないだろうか。
それと同時に、習国家主席が3期続投する可能性が高まっている現在、李首相の狙いは習氏に対抗できる後任者を選択することにあると関係者は見ているようだ。
関係者筋によると、李首相の支持者の中には共産主義青年団(李首相や胡錦濤第6代国家主席などを輩出した有力組織でありながら、習政権下で勢力を失った若手エリートを育成する共産党の派閥の一つ)とつながりのある幹部や、「習国家主席が固執する毛沢東の社会主義ビジョンに根ざしたイデオロギー」を懸念する一部の共産党当局者などがいるという。
コロナ禍の経済悪化で生じた習帝国の「綻び」
真相はどうあれ、発足8年目にして習政権が大きな試練に直面していることは疑う余地がない。「習国家主席が退任するとは思えない」との意見が大半を占める中、権力集中への懸念や柔軟性、国際社会との協調性を欠く政策を理由に、習帝国の継続を望まない声もある。
風向きを変えた主要原因は、中国の成長の原動力である経済の悪化とされている。習政権は過度の規制とコロナ禍の影響で、不良債権や相次ぐ経営破たん、失業率上昇が経済を圧迫していたところに、中国最大の都市、上海を封鎖するという大失策を講じた。
2022年の中国のGDP(国内総生産)成長率は年間5.5%という政府の成長目標を大きく下回り、2%前後になるとブルームバーグ紙のエコノミストは予想している。この予想が的中すれば、1976年以来初めて中国経済の成長率が米国経済(予想2.8%)を下回ることになる。
習政権存続か終焉か
政府は経済の速やかな正常化に向け、減税や緊急融資、融資返済期限の延長など、数々の経済支援措置を講じているものの、一度生じた綻びを取り繕うのは容易ではない。
強権誇示の目的で講じた数々の戦略が、自らを窮地に追い込んだ感が日に日に色濃くなる中、習帝国の存続と終焉の行方を世界中が注視している。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)