本記事は、川﨑公司氏の著書『この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
相続人が認知症だったら成年後見制度を活用
相続人に未成年者がいるときと同様、重度の認知症の人がいる場合も、スムーズに遺産分割を進めることができません。この場合、遺産分割協議を有効に成立させるためには、「成年後見人」を立てなくてはいけません。
成年後見人は、被後見人の財産に関する法律行為について包括的な代理権を持ちます。相続人の意思能力がまったくない場合も、売買契約、消費貸借契約、賃貸借契約などの財産的な「契約」は、すべて成年後見人による代理が可能です。
遺産分割協議も、遺産という財産に関する相続人間の契約ですから、成年後見人が代理人となることで進めることができます。
成年後見制度には、「任意後見」と「法定後見」の2つがある点も押さえておきましょう。
(1)任意後見
任意後見制度は、本人の判断能力がある間に、将来に備えて「任意後見人」を選び、公正証書で任意後見契約を結ぶ制度です。
たとえば、被相続人自身が将来の認知症発症に備えて任意後見人を選任するようなときは、任意後見がふさわしいでしょう。任意後見制度は本人と任意後見人の間で契約を交わせるため、本人の意志を反映させやすいというメリットがあります。
(2)法定後見
法定後見制度は、本人の判断能力がすでに不十分な場合に、家庭裁判所によって後見人が選任される制度です。いざ相続が開始し遺産分割協議をしたいけれど、相続人のなかに認知症の人がいるようなときは法定後見制度を利用してください。
では、成年後見人を立てる手続きを説明します。
まずは、被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に「後見開始申立」を行い、誰を成年後見人にするかを選任します。
成年後見人になるために必要な資格はとくにありませんが、誰でもなれるわけではありません。家庭裁判所で審判を受けて選任してもらう必要があります。
申立てには、戸籍謄本、住民票、後見登記されていないことの証明書など公的な必要書類のほか、医師の診断書も添付します。加えて、本人の状況や申立ての目的、後見人候補者の状況などを記載した書類、本人の財産目録や収支状況を記載した書類などの作成も必要です。
これらの書類を家庭裁判所が精査すると、後見人候補者との面談による調査や、必要に応じて医師による精神鑑定が行われます。
後見開始の審判が下ると、選任された成年後見人が本人の代理人として法律行為を行うことができます。審判が下るまでの期間は事案の複雑さなどによって異なりますが、1カ月〜3カ月が目安です。金額は、申立費用と添付書類の収集費用を合わせて1万円~1万5,000円ですが、精神鑑定が行われるとさらに5万円~10万円かかります。
正式に後見開始となれば、後見人を入れて遺産分割協議を進めることができます。このとき注意したいのが「利益相反行為」です。
未成年者が相続人になる場合と同様、認知症の相続人と後見人である近親者の利益が相反する場合には、遺産分割協議についてのみ特別代理人を立てることになります。特別代理人の選任には家庭裁判所の審判が必要で、弁護士や司法書士が選任されるのが一般的です。
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