企業にとって経営会議は主要なマネジメント手段の一つです。しかし、社長の独り舞台に陥っている、もしくは時間ばかりがかかって何も決まらないといった会議も少なくありません。どうすれば会議の質を高め、マネジメントの質の向上につなげることができるでしょうか。

本記事では、経営会議の目的や話し合うべき議題、うまくいかない原因と理想的な会議を実現するための改革案、会議を円滑に進めるファシリテーションスキルなどについて解説します。

目次

  1. 経営会議とは?
  2. 経営会議がうまくいかない9つの原因
  3. 理想的な経営会議に近づけるための8つのチェックリスト
  4. 経営会議を意義あるものにするための改革案7選
  5. 経営会議の質を向上させるファシリテーションスキル
  6. 経営会議のあり方を改めて見直そう

経営会議とは?

<取締役会との違い>

経営会議取締役会
法的規定なし会社法362条
参加者会社によるが、社長や役員、事業部門長が一般的全ての取締役
内容経営方針や戦略・計画、重要課題、事業の進捗について議論・意思決定する・業務執行の決定
・取締役の職務の執行の監督
・代表取締役の選定及び解職

「経営会議」とは、企業の社長や役員らが集まり、経営方針や戦略・計画、重要課題、事業の進捗について議論・意思決定する会議のことをいいます。

似た言葉に「取締役会」があります。経営会議も取締役会も、どちらも取締役などの経営陣が集まる会議であることには変わりありませんが、「取締役会」は法律で参加者や職務内容が明確に規定されています。会社法では、取締役会は全取締役で組織され、「業務執行の決定」「取締役の職務執行の監督」「代表取締役の選定及び解職」を職務とすることが決められています。(会社法362条

一方、経営会議は法律で規定されたものではありません。あくまでも各社が任意で開いている会議であり、その内容や参加者についての法的な取り決めはありません。役員会議や重役会議などのように、会社によって呼び方がまちまちであるのも任意の会議体だからです。広い意味で「経営会議=社長や役員らが集まって行われる会議」と捉えればよいでしょう。

意義と目的

経営会議を開く意義や目的は、一般的には、経営に関する情報を共有して課題解決のために議論し、そして意志決定することです。

特に「意志決定」は最も重要です。最終的な意思決定がなされなければ、単に情報共有をして話し合いをしただけに過ぎません。最大の目的は、経営戦略・計画を推進していくために、どんな課題をクリアして何を実行するべきか、参加メンバーが一丸となって意見を出し合い、具体的な意志決定を行うことです。あくまでも成果を上げるための仕事の場として捉え、目的を明確に意識して生産性の高い議論を行う必要があります。

話し合われる議題

経営会議では、経営事項のなかでも特に重要度の高い議題について話し合います。ちなみに似た意味で捉えられる取締役会で話し合うべき内容は、企業統治のガイドラインである『コーポレートガバナンス・コード』に次のように明記されています。

【原則4-1.取締役会の役割・責務(1)】 取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきであり、重要な業務執行の決定を行う場合には、上記の戦略的な方向付けを踏まえるべきである。

引用元:東京証券取引所『コーポレートガバナンス・コード』2021年6月11日

経営会議でもこれと同じように、経営戦略・計画についての議題を取り上げて、今後について検討したり方針を策定したりするために話し合うことが求められます。

参加者や会議の時間

参加メンバーに決まりはありません。一般的には、社長や役員、事業部門長らが参加します。取り上げられる議題によっては、その業務に携わる責任者や担当者が参加することもあります。

<1開催あたりの取締役会の総所要時間>

出典:KPMGコンサルティング『「取締役会における審議・報告の現状」についてのアンケート調査結果2016』
出典:KPMGコンサルティング『「取締役会における審議・報告の現状」についてのアンケート調査結果2016』

所要時間については、統計データがあるわけではないので一概には言えません。ただ、上場企業の取締役会に関する調査(※)によれば、一度の会議開催あたり1~2時間が約半数を占めています(上図参照)。

KPMGコンサルティング『「取締役会における審議・報告の現状」についてのアンケート調査結果2016

会議を行う頻度

経営会議を行う頻度はどれくらいが適正でしょうか。先ほどと同様に、取締役会に関する調査を参考にすれば、1ヵ月に1回が最も多い頻度となっています。

参考:KPMGコンサルティング『「取締役会における審議・報告の現状」についてのアンケート調査結果2016

ただ、これはあくまでも取締役会の回数であり、経営会議とは違います。経営会議や役員会議は、取締役会に上程するために開催される場合もあるので、取締役会よりは開催回数が増えることが多いと考えられます。例えば住友林業では、取締役会を月1回開催する一方、取締役会の前に社長の諮問機関である経営会議を月2回開催する(※)としています。

住友林業ホームページ「コーポレートガバナンス

会議に必要な事前準備

経営会議の前に行う準備は以下のように4つの「P」に集約されます。

会議に必要な4つのP

Purpose(目的)
目的にない会議に意味はありません。特に経営会議は定期的に開催している企業が多いため、形骸化していることもすくなくないでしょう。

People(参加者)
会議の目的を果たすために必要な参加者を選定します。「必要ないけど参加した方がよい人」を呼ぶのは注意が必要です。会議の人数が多くなれば、発言しない人が増え、一部の人しか発言しない会議となってしまいます。

Process(進め方)
詳しくは後述しますが、アジェンダを作成し経営会議の進め方を予め決めることも大切です。会社が大きくなればなるほど、議論が必要な項目も多くなります。限られた時間のなかですべて議論するのは難しいでしょう。そのためには、アジェンダを作成し事前に議論する内容を整理し、時間配分も決めるのです。

Property(装備)
必要な会議室や資料などの装備を準備することも大切です。

参考:榊巻 亮『世界で一番やさしい会議の教科書』日経BP、2015年

経営会議がうまくいかない9つの原因

経営会議とは?意義ある会議を実現するための7つの改革案
(画像=kai/stock.adobe.com)

経営会議を定期的に開催しているものの、効果的な話し合いができていない企業もあります。ここでは、うまくいかない原因を9つ紹介します。

原因①:社長のワンマン会議になっている
原因②:発言しづらい雰囲気がある
原因③:そもそも経営計画があいまいである
原因④:経営会議で決まったことが実行できていない
原因⑤:活発な意見が出てこない
原因⑥:活気がないように感じる
原因⑦:取り上げる議題が多すぎる
原因⑧:時間ばかりがかかって何も決まらない
原因⑨:メンバーが集まりにくい

原因①:社長のワンマン会議になっている

社長がワンマンで実質的に経営を支配しているような企業では、経営会議も社長の独り舞台になりがちです。役員ら他の参加者も、ワンマン社長の指示に従うだけのイエスマンばかりになってしまい、結局社長が全て意志決定しているのと変わりありません。

社長のワンマン会議には、意志決定のスピードが速い、会議参加者に緊張感が生まれる、責任の所在が明確になりやすいなどのメリットがあります。一方で、斬新なアイデアや前向きな意見が生まれづらい、間違った経営判断があったとしてもブレーキが利きにくい、などの弊害もあります。

原因②:発言しづらい雰囲気がある

会議の場が発言しづらい雰囲気になっており、活発な意見が出にくくなってしまうことはよくあります。発言しづらい雰囲気になる理由は、社長や取締役などの立場にある人の発言力が強過ぎることにあるかもしれません。他の参加者は、「どうせ意見を出しても意味がない」と諦めてしまうからです。

また、参加者が他人の意見を否定しがち、参加人数が多すぎて緊張感がある、議題に対する事前の理解が足りない、といったことも発言しづらい雰囲気をつくり出す要因となります。

原因③:そもそも経営計画があいまいである

複数人のパーティーで登山を成功させるためには、リスクを見込んだ登山計画の準備が欠かせません。計画を立てずに山に登り始めれば、遭難してしまう恐れもあります。登山計画が決まっていれば、途中でルートを外れたりアクシデントに見舞われたりしても、話し合いながら計画を修正してゴールを目指すことができます。

経営会議についても同様です。経営計画を立案し、計画に沿って進捗状況を確認することで、出てきた問題を解決するための場でなければなりません。そもそも計画がない、もしくはあいまいであれば、会議の参加者は話し合いの目的を見失ってしまい、会議はうまく進まないでしょう。

原因④:経営会議で決まったことが実行できていない

せっかく時間をかけて会議をしても、決定した施策が現場で実行されないことがあります。その理由の1つとして、会議で出た結論に問題にあることが挙げられます。つまり、最終的に具体的なタスク(ToDo)にまで落とし込まれていないのです。

PDCAでいえば、P(Plan:計画)の部分を担うのが会議で、結論としてタスクまで落とし込み、すぐにD(Do:実行)に移行しなければなりません。経営会議では、誰が何をやるかを含めてタスクを明確にする必要があります。また、タスク管理ツールなどを用いて、決定したタスクの実行を管理することも有効です。

原因⑤:活発な意見が出てこない

忙しい中で時間を設けて一つの場に集まって話し合っても、活発な意見が出ないようでは会議の意味がありません。現状報告だけであれば、メールやチャットでもよいでしょう。

経営会議で活発な意見が出てこない原因については、事前の準備が不十分、社長のワンマン会議になっている、会議の目的が明確になっていないなど、さまざまなものが考えられます。また、参加者の関係性が良くないことが問題かもしれません。参加者全員が意見を出せず、建設的な議論ができない経営会議はうまくいっていないと言えるでしょう。

原因⑥:活気がないように感じる

会議中に意見や発言は出るものの、なにか活気が感じられないことがあります。その主な原因は、会議が説明や報告だけの場になっているからです。発言者は資料や数字を読み上げることに終始して、他の参加者はそれを黙って聞いているだけ。1人の発言が終わったら、別の担当者がまた読み上げる。そのような会議の進め方では、活気など生まれません。

そもそも資料を事前に配っておけば、会議の場で読み上げる必要はなく、始まったらすぐに議論やアイデア出しを行うことができます。会議の場では、資料を読み上げるだけの時間をなくし、議論に集中すべきでしょう。

原因⑦:取り上げる議題が多すぎる

会議の議題が多すぎると、時間ばかりがかかってしまい、参加者の集中力が途切れて一つ一つの議題に対する議論も浅くなってしまいます。議題は必要なものだけに絞ることが大切です。アメリカの作家カーネギーは、著書『道は開ける』の中で、印刷会社の社長が毎日の不毛な会議に悩んだ末に編み出した、以下の4つの質問を紹介しています。

質問①:何が問題なのか?
質問②:問題の原因とは?
質問③:問題解決にどのようなソリューションが考えられるか?
質問④:どのようなソリューションが理想的なのか?
参考:D.カーネギー『新訳 道は開ける』田内志文訳、角川文庫、2014年


著書の中の社長は、問題報告の際には、この4つの質問が書かれた書類を埋めて提出するというルールを設けました。その結果、自発的に問題を解決する社員が増え、社長に報告される問題が減り、会議に費やす時間が3分の1に削減されたのです。この4つの質問は、会議の議題を整理する方法として参考になるでしょう。

(8)時間ばかりがかかって何も決まらない

給料の高い経営メンバーを一個所に集めて、多くの時間を費やしておきながら何も決まらない。これはムダな会議の筆頭です。そもそも、会議は課題解決や意志決定の場であり、最終的な決定事項が得られなければ、会議を開催している意味はなくなってしまいます。そのようなムダな会議を改める対策は、会議の目的(ゴール)を明確にすることです。経営の神様と呼ばれるドラッカー氏は、次のように語っています。

会議は、懇親の場ではなく仕事の場としなければならない。会議の生産性を上げるには、事前に目的を明らかにしておかなければならない。目的が違えば、準備も成果も違うはずである。

引用元:P.F.ドラッカー『ドラッカー名著集1 経営者の条件』上田惇生 (翻訳)、ダイヤモンド社、2006年

会議のゴールは、「いつまでに、誰が、何をやる」というタスクを明確に決めることです。そして、会議時間中に必ずそのゴールまでたどり着くことを参加者に強く意識させることで、会議の効率は大きく上がるでしょう。

(9)メンバーが集まりにくい

経営会議の参加メンバーをあまりに増やしてしまうと、全員が参加できる時間帯が限られてしまい、同じ時間帯に集まることが難しくなってしまいます。また、開催頻度が高すぎる場合も、メンバーが集まらない要因になります。

プレジデント社がビジネスパーソンに行ったアンケートでは、「有意義な議論ができるための適正人数」について、4~6人と答えた人が48.9%、7~10人と答えた人が36.5%という結果になりました(※)。適正人数の範囲で会議を開催することが、メンバーも集まりやすく、有意義な経営会議にするポイントです。

※プレジデント・オンライン「会議参加の適正人数は4人から10人

理想的な経営会議に近づけるための8つのチェックリスト

経営会議とは?意義ある会議を実現するための7つの改革案
(画像=AndreyPopov/stock.adobe.com)

では、理想的な会議とはどのようなものでしょうか。ここでは、理想的な会議に近づけるためのチェック項目を8つ挙げました。これらを一つでも多く達成することで、経営会議を理想の状態に近づけることができるでしょう。

チェック①:時間内に議題についての結論が出ている
チェック②:会議前に準備されていた議題の全てに結論が出ている
チェック③:会議で出た結論に参加メンバーが納得している
チェック④:会議の結果、実現性のある経営計画が示されている
チェック⑤:不必要な参加者がいない、必要な人は全員参加している
チェック⑥:自由闊達な議論が展開されている
チェック⑦:全員が等しく発言している
チェック⑧:経営会議の結果、参加者のモチベーションが向上した

チェック①:時間内に議題についての結論が出ている

経営会議の役割は、議題に対して十分に議論して合意形成を経て、具体的にどのようなタスクを実行するか意志決定をすることです。意志決定ができなければ、それは会議ではなく単なる会合です。

加えて結論は時間内に出す必要があります。いくら結論が出たからと言っても、3時間や4時間など長い時間をかけていたのでは効率的な会議とは言えません。あらかじめ決めた時間内に、議題についての結論を出すことが会議の鉄則です。

チェック②:会議前に準備されていた議題の全てに結論が出ている

経営会議の開催に当たっては、事前に議題を準備しておく必要があります。そして事前にアジェンダを共有した上で報告資料を配布し、参加メンバーに議題を把握してもらいます。その上で会議当日は、準備した議題の全てに対してきちんと結論を出すことが大切です。

全ての議題に結論が出ずに、先送りばかりになってしまったら、それは議論の仕方に問題があります。また、時間内に議論をし尽くせなかった場合は、議題の数や時間設定に問題があると考えなければなりません。

チェック③:会議で出た結論に参加メンバーが納得している

会議は複数の人が集まって行うため、意見が食い違ったり対立したりすることは当然あります。しかし最終的には、それらの意見を擦り合わせて結論を導き出さなければなりません。

会議の参加メンバーそれぞれが、他のメンバーの意見に耳を傾けて理解し合いながら、お互いに納得できる議論の着地点を探していきましょう。途中で意見の対立や食い違いがあったとしても、最終的には参加メンバー全員が結論に納得できた状態で終えることが理想です。

チェック④:会議の結果、実現性のある経営計画が示されている

経営会議での決定事項は関係各所に共有し、具体的なアクションを実行していくことになります。裏を返せば、実現性のある計画を示すことが会議で得るべき結論ということです。

チェック⑤:不必要な参加者がいない、必要な人は全員参加している

経営会議に参加するメンバーは任意で決められますが、無意味に参加者を増やしていては、人的リソースのムダになり、会議の混乱を招く可能性もあります。反対に、必要なメンバーが参加していない会議も、その場で結論を得られなくなる可能性があるので非効率です。

メンバーを選定する際には、報告や議論をする上で特に必要ではないメンバーは参加させず、決裁権があるなどいなくて困るような人は必ず参加させることが大切です。

チェック⑥:自由闊達な議論が展開されている

会議の場が、発言量が少なく重苦しい雰囲気になったり、あるいは遠慮気味の発言ばかりになったりするようでは、十分な議論ができているとは言えません。誰もが自由闊達に意見を出し合い、議論が深まっていくような経営会議が行われることが理想です。そのためには会議の雰囲気づくりや進行など、ファシリテーションスキルが重要になります。会議に必要なファシリテーションの詳細については、後述します。

チェック⑦:全員が等しく発言している

誰か特定のメンバーばかりが発言するのではなく、経営会議に参加したメンバー全員が等しく活発に発言している状態が理想です。また参加者は、発言回数だけでなく発言している時間も等しくなるように心掛けましょう。特定の人がダラダラと発言をしていては、会議のテンポが悪くなり進行が遅れてしまうからです。

チェック⑧:会議の結果、参加者のモチベーションが向上した

経営会議で決定したタスクは、会社にとって重要な戦略の一環であり、具体的な実行計画です。経営改善につながることが一目で分かるほど具体的なタスクは、参加者だけでなく、実行する社員のモチベーションを向上させるかもしれません。問題解決に向かって具体的なタスクまで分解し、提示できる会議は理想的と言えるでしょう。

経営会議を意義あるものにするための改革案7選

うまくいかない会議、理想の会議について解説しましたが、どうすれば経営会議を意義あるものにできるのでしょうか。会議の質を高め、かつ効率的に行うための改革案を7つ提示します。

改革案①:議長は社長以外が務めて持ち回りにする
改革案②:参加メンバーを事前に厳選する
改革案③:アジェンダを具体的に作成する
改革案④:会議時間に制限を設けて厳守する
改革案⑤:経営会議の内容を社内に公開する
改革案⑥:議事録は必ず作成して詳細にまとめる
改革案⑦:決めた以上、必ず実行する

改革案①:議長は社長以外が務めて持ち回りにする

東証の調査によれば、上場企業の取締役会で、社長が議長を務めている割合は82.7%となっています(※)。経営会議の議長もこれと同様に、社長が務めていることが多いと考えられます。しかし、社長が議長を務めることが弊害にもなり得ます。

そもそも社長は、社内で一番強い決定権を持つ存在です。そんな社長が議長になれば、参加者に遠慮や忖度が生じてしまい、自由闊達な意見が出にくくなる恐れがあります。会議の議長を社長以外の参加メンバーが持ち回りで行えれば、このような問題を解消できます。

また、社長以外が議長を経験することで、会議への参加意識が強くなりますし、議長の気持ちが分かるようになるので、他のメンバーが議長を務めている時に協力して会議を成功させようという気持ちになるでしょう。

※東京証券取引所『東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2021

改革案②:参加メンバーを事前に厳選する

会議の参加メンバーは多過ぎず少な過ぎず、必要十分な人員で臨むことが大切です。メンバーを選ぶ時は、「会議の進行上、欠くことのできないメンバーに限る」というルールを定めましょう。具体的には、役員以外は議題を話し合うために必要な部門責任者だけに限るといいでしょう。

会議の参加メンバーを厳選することで、参加者に責任感が生まれて活発な発言が期待できるため、議論の質が高まります。

改革案③:アジェンダを具体的に作成する

会議でどんなことを話し合うか、事前に議題を決めただけではスムーズな議事進行はできません。会議の具体的な内容や進行予定が事前に把握できるように、詳細な「アジェンダ」を作成して共有すべきです。アジェンダが経営会議の成否を握っていると言っても過言ではありません。

アジェンダには、話し合うべき議題と、その時間配分を明確に記載します。議題は「○○について」など漠然とした表現ではなく、「下期予算を達成するための販売施策の決定」「A社買収に関する懸念事項の洗い出し」など、議論の具体的なゴールを想定させる文言で記載します。そして、遅くとも会議の前日までにはアジェンダを参加者に共有しましょう。

改革案④:会議時間に制限を設けて厳守する

経営メンバーの貴重な時間を有効に使うために、会議時間を明確に決めておくことも有効です。例えば、「議題Aに30分、議題Bに60分、議題Cに30分、全体で2時間」と決めてアジェンダに記載します。このように時間を制限することで、参加メンバーの集中力が高まり、質の高い議論ができるでしょう。もちろん時間内に結論を出すことが原則なので、例えば30分の中で最後の5分は結論を出すための時間に使うなど、議長が意識しておく必要があります。

改革案⑤:会議の内容を社内に公開する

1990年代以降のアメリカで注目されだした手法に「オープンブック・マネジメント」があります。財務諸表などを社員に公開することで、従業員の経営に対する関心を高め、組織の透明性や公平性を確保する取り組みです(※)。この考えに則って、経営会議の内容を社内に開示してみてはいかがでしょうか。

会議の内容の開示は、経営戦略の実現に向けて熱意ある議論が行われていることを社員に知らせることができます。また、会議の参加メンバーにとっては「社員に見られている」という緊張感が生まれることで、より活発な議論が期待できます。

※花澤裕二「オープンブック・マネジメント」日経クロステック,2002年10月9日

改革案⑥:議事録は必ず作成して詳細にまとめる

会議を行う際には、どのような話し合いを経て、何が決まったのかを議事録に記録することが大切です。議事録がなければ、せっかく時間をかけて決定した事項があいまいになったり、参加者間で認識のズレが生まれたりする可能性があるからです。

議事録を作成する際には、アジェンダに沿って、どんな意見が出て何が決まったのかを明確に記載しましょう。

議事録には、発言内容を一字一句書き起こす必要はありません。議題の中で出た意見を箇条書きで要約して記載する程度の詳細さがあれば、議論の流れを後から追うことができます。そして作成した議事録は、メールなどでできるだけ早く会議参加者や関係部署に共有します。

改革案⑦:決めた以上、必ず実行する

すでに触れたように、経営会議で決まったことは必ず関係各所に通達し、実行に移す必要があります。実行に移すために大切なことは、タスク管理の徹底です。エクセルやスプレッドシートでの管理ではなく、タスクの進捗管理に特化したツールを導入すると抜け漏れがなくなり、タスク完了までを追うことができます。

経営会議の質を向上させるファシリテーションスキル

経営会議とは?意義ある会議を実現するための7つの改革案
(画像=imtmphoto/stock.adobe.com)

会議の質を向上させるために有効なスキルとして、ファシリテーションスキルがあります。ファシリテーションの基本を知り、経営会議の品質向上に生かしましょう。

ファシリテーションスキルってどんなスキル?

ファシリテーション(facilitation)とは、《容易[軽便]にすること,便利化.》(『新英和中辞典』研究社)という意味です。会議の場でのファシリテーションとは、参加メンバーから意見を引き出してまとめた上で、限られた時間の中で合意を得られるよう、うまく舵取りすることを指します。会議でファシリテーションの役割を担う人を「ファシリテーター」と呼び、通常は議長と同じ人が務めます。

スムーズな会議進行に役立つノウハウ

スムーズな会議進行をするためにはいろいろな方法がありますが、大切なことは会議の前段階の準備です。つまり、前述した「アジェンダ」をまとめて事前に配布しておくことです。そして参加者はアジェンダをきちんと読み込み、不明点や疑問点、知りたい情報があれば、部下に確認するなどしてクリアにしておく必要があります。

この準備がきちんとできているだけで、当日の会議では余計な質問や状況報告をする必要がなくなり、ファシリテーターもスムーズな進行ができるようになります。

会議中は、ファシリテーターが時間を意識しながら議論を進行していきます。進行中はホワイトボードの活用が有効です。まず、話し合う議題と目的についてホワイトボードに大きく書き出すといいでしょう。

「Aプロジェクトの問題について」とあいまいな書き方ではなく、「Aプロジェクトの問題を解消するための対応策と予算、担当者」と具体的に書くことがポイントです。これが実行できれば、全員の意識がゴールへと向かうことになり、仮に議論が脱線しても軌道修正することができるのです。

会議での効率的な合意形成術

議論も終盤に差し掛かってきたら、ファシリテーターは合意形成に向けて意見をまとめるように促していきます。会議中の議論をまとめる際にも、ホワイトボードをフル活用しましょう。まずは似たような意見・発言に印をつけて、グルーピングしていきます。次にグループごとに見出しをつけて、各グループの意見を抽象化します。

その後、意見を整理します。効果的に意見を整理するための代表的な方法が「Tチャート方式」や「マトリクス方式」です。下記のようなフレームワークに当てはめ、出された意見をビジュアル的に分類する手法で、意見をまとめやすくなります。

Tチャートやマトリクス方式

最後に、その議題の結論を導き出します。多数の選択肢があって結論を出すのに迷ったら、一定の判断基準を持って決めるといいでしょう。例えば、「安・楽・正・早」というキーワードが役に立ちます。安全性・価格、容易さ、正確性・正当性、効率・スピードといった基準で、どの解決策を選ぶのか決める方法で、このような基準を設けることで結論を出しやすくなります。

ファシリテーションスキルを磨く方法

ファシリテーターのスキルは、次の4つに集約されます。

1. 場のデザインのスキル ~場をつくり、つなげる~
2. 対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~
3. 構造化のスキル ~かみ合わせ、整理する~
4. 合意形成のスキル ~まとめて、分かち合う~
参考:「ファシリテーションとは」日本ファシリテーション協会

これらのスキルを身につけたメンバーが経営会議のファシリテーターを務めることで、会議がスムーズに進み、より充実した議論ができるようになります。

ファシリテーションスキルを身につけるには、日本ファシリテーション協会のような専門の団体が主催している講座を受講するのも一つの手です。商工会や商工会議所、自治体、大学のビジネスパーソン向け講座などで、ファシリテーションに関する講座を無料もしくは低価格で開催していることもあります。また、『ファシリテーション入門』(堀公俊、日本経済新聞出版、2004年)などの本を読むだけでも十分に効果はあるでしょう。

これらを積極的に活用して学習し、ファシリテーションスキルについて理解すれば、あとは実践あるのみです。実際の会議でファシリテーターを務め、経験を重ねることでスキルがどんどん磨かれていきます。

経営陣のファシリテーションスキルを高めて業績アップを目指そう

経営会議に参加する役員や幹部ともなれば、部門会議や企画会議など多数の会議に参加する機会があるはずです。それらの会議の質を高めるためにも、できれば全ての役員や幹部がファシリテーションスキルを身に付けたいものです。

役員や幹部がファシリテーションスキルを身に付け、いろいろな会議の場を「ファシる」ことが、組織の力を最大限に引き出すことになります。それは結果として、自社の業績向上につながるのです。

経営会議のあり方を改めて見直そう

最後にもう一度、ドラッカーの言葉で締めくくりましょう。

会議には、成果をあげるものとあげないものの二つに一つしかないことを知らなければならない。

引用元:P.F.ドラッカー『ドラッカー名著集1 経営者の条件』上田 惇生 (翻訳)、ダイヤモンド社、2006年

経営会議は、社長や役員らが多くの時間を費やす業務の一つですが、それ自体は1円の利益も生みません。会議で話し合い、意志決定した施策が現場で実行されることで、はじめて利益につながるのです。

そのため、成果の乏しい非効率な会議は改めるべきであり、会議の進め方や参加者の意識を改革し、生産性を徹底的に高めた会議を実現しなければなりません。日頃の経営会議の成果に課題を抱えている企業は、本記事を参考に会議のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。