この記事は2022年8月5日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「今年の中国の成長率は目標達成が絶望的」を一部編集し、転載したものです。
中国は、2022年秋に5年に一度の共産党大会の開催が控えるなど政治的に重要な年を迎えている。コロナ対応を巡っては、徹底した検査と隔離を実施する「ゼロコロナ」戦略が採られており、当初は感染封じ込めに成功するとともに、世界で最も早くコロナ禍の克服が進んだように見えた。
しかし、感染力の強い変異株の出現に対しても同様の対応が維持されたため、欧米などの主要国ではワクチン接種を前提に経済活動の正常化を目指す「ウィズコロナ」への戦略転換が進むなか、中国の特殊性が際立つ展開が続いてきた。
こうしたなか、2021年末以降の中国では感染再拡大の動きが広がり、2022年4月からはコロナ対応を目的に上海市で約2カ月にわたるロックダウン(都市封鎖)が行われる異常事態に発展した。
上海市をはじめとするロックダウンでは、中国国内の供給網が大きく混乱するとともに、世界最大の貨物取扱量を誇る上海港の通関業務が停滞したことで世界的に悪影響が波及した。
その結果、中国の2022年4~6月の実質GDP成長率は前年比0.4%とほぼゼロ成長に鈍化するとともに、前期比年率ベースでは▲10.0%と試算されるなど、景気に急ブレーキが掛かった(図表)。
なお、2022年6月には上海市でのロックダウンが解除されるとともに、経済活動の正常化に向けた動きは前進しており、企業マインドも幅広い分野で改善するなど、景気の最悪期は過ぎつつある。
しかし、中国当局はゼロコロナ戦略の旗を降ろす気はなく、感染が確認されるたびに引き続き大規模な検査が行われるなど、経済活動に悪影響を与える懸念はくすぶっている。
前述のように、中国にとって今年は政治的に重要な年であるものの、当局が全国人民代表大会において示した成長率目標(5.5%前後)の達成のハードルは極めて高い。当局は景気下支えに向けて政策支援に動く姿勢を見せているが、米連邦準備制度理事会(FRB)など主要国中銀がタカ派への傾斜を強めるなか、仮に中国が金融緩和に動けば資金流出を引き起こすリスクも高まるなど、その対応は困難さを増している。
また、世界的な商品高の動きは中国でもインフレ圧力を招いており、雇用の回復が遅れる中で家計消費の足かせとなることも懸念される。世界経済が減速懸念を強めれば、外需を牽引役にした景気回復も難しくなる。その意味では、先行きの中国経済は極めて厳しい状況に直面していると捉えられる。
だが、14億人という人口の多さ故に、一部だけでも景気回復の動きを強めれば世界経済にプラスとなる可能性は高い。他方、人口減少局面に差し掛かる時期が早まる可能性も高まっており、過剰債務をはじめとする中国経済の課題の解決に向け、急速にハードルが上がることも予想される。
今後も中国経済の動向からは目が離せない展開が続くであろう。
第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト/西濵 徹
週刊金融財政事情 2022年8月9日号