この記事は2022年8月5日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「金融危機の予兆を示す「グローバルインバランス」」を一部編集し、転載したものです。
(IMF「World Economic Outlook」)
前回まで、国際収支統計をもとに日本における経済構造の変化を考察した。今回からは、より視野を広げ、世界全体における実物・金融取引構造の変化に関する原因や問題点を取り上げる。その初回に、「グローバルインバランス」について概説する。
グローバルインバランスとは、世界的な経常収支の不均衡を意味する。すなわち、経常収支黒字国における黒字幅と、赤字国における赤字幅の双方が拡大している状況だ。この問題点を直観的に理解するために、日本と米国の2国しかない状況を考えよう。
この場合、日本の経常黒字が拡大していれば、その裏で唯一の取引相手である米国の経常赤字もまた拡大しているはずである。この状況をISバランス(貯蓄と投資のバランス)の観点から考察すると、経常収支を通じて、米国の国内部門における超過投資の拡大を、日本の国内部門における超過貯蓄の拡大で賄っている状況である。
しかし、このかたちで長期間賄い続けることは不可能であるため、いずれこうした不均衡は是正されることとなる。
この2国間での考察は、国際マクロ経済を大幅に単純化したものだが、そのポイントである不均衡の是正については、実際に2008年の世界金融危機の際に観察された。
図表は、世界の経常収支の内訳を、経常黒字国と赤字国に分解したものである。2000年代前半から半ばにかけて、経常収支の不均衡は拡大を続けた。とりわけ米国では、家計債務が急速に積み上がるとともに個人消費が強まり、輸入が増えて経常赤字が拡大した。
一方で中国が経常黒字を拡大させ、国際的な存在感を高めていた。また、欧州においても、ドイツなどの経常黒字が拡大すると同時に、スペインなどでは経常赤字が拡大している状況にあった。このような不均衡は、世界金融危機を経て是正されることとなった。
世界金融危機以降は、世界的な不均衡が再度大きく拡大するような状況には陥っていない。金融規制の強化によって、2000年代のように家計債務が過度に積み上がっていないことなどが背景にあるとみられる。国際通貨基金(IMF)によれば、経常収支の不均衡は2023年以降、緩やかに解消されていく見込みである。
グローバルインバランスは、マクロ経済・金融市場におけるゆがみを反映する。持続不可能な不均衡の拡大は、いずれ大きな経済・金融危機を通じて是正される。こうした危機を予見するためには、グローバルインバランスを注視することはもちろん、各国における家計や企業のバランスシートなどの動向にも注意を払うことが重要である。
大和総研 経済調査部 シニアエコノミスト/久後 翔太郎
週刊金融財政事情 2022年8月9日号