この記事は2022年8月22日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「奥村組【1833・東証プライム】地震の激しい揺れを抑える「免震」のパイオニア 中計を推進し2024年度売上高2800億円へ」を一部編集し、転載したものです。
関西地盤の中堅ゼネコン、奥村組は、創業115年の歴史を持つ老舗企業だ。「堅実経営」と「誠実施工」を信条に、地震に強い免震技術やトンネル施工のシールド工法など、独自の技術を開発し高い評価を受けている。同社は株主還元に積極的に取り組む。前期(2021年度)の連結配当性向は51.5%であり、中期経営計画(2022~2024年度)の計画期間中は連結配当性向70%以上を基本方針としている。
▼奥村 太加典社長
「堅実経営」「誠実施工」を
信条に土木、建築事業等展開
奥村組の歴史は1907年、創業者の奥村太平氏が土木建築請負業を創業したことに始まる。「堅実経営」「誠実施工」を信条に土木事業、建築事業などを展開。事業を通じて社会に貢献することを使命とし、大阪のシンボル「二代目通天閣」の建設(1956年竣工)や、阪神・淡路大震災(1995年1月)で壊滅的な被害を受けたJR六甲道駅の早期復旧などを始めとする数多くの社会インフラの構築に携わってきた。
同社の強みの1つは、100年超の歴史で培った独自の技術力だ。土木分野においてはトンネル工事を得意とし、「シールドマシン」と呼ばれる筒状のトンネル掘削機で安全に地中を掘り進める「シールド工法」に強みを持つ。連結子会社の奥村機械製作がシールド機を設計・製作。機械と施工のノウハウを共有できる強みがあり、国内外の工事で同社のシールド機が活用されている。
「シールド工法そのものは欧州で開発された工法であり、当社は1965年に国内初の泥水式シールド工法の『OCMS工法』(*)を開発しました。泥水を地上の水槽からポンプを使って地中にある掘削機の先端まで送り、その泥水の圧力で前面の土砂の崩壊を防ぎながら掘り進めていく工法で、地盤の硬さや断面の径にもよりますが1日に約20メートル進むことができます。この工法の施工延長では当社はトップクラスです」(奥村太加典社長)
建築分野では、「免震のパイオニア」として知られる。免震技術は地震対策工法の1つであり、地盤と建物の間にクッションとなる免震装置を組み込み、地震の激しい揺れを抑える技術だ。
同社の技術研究所管理棟(茨城県つくば市)は1986年に竣工した日本初の実用免震ビルであり、同社の免震技術は共同住宅や医療施設、商業施設、文化財や美術品の展示ケースなどに採用されている。
「当社の東京本社ビルは、既存建物を免震化する免震レトロフィットの工事を行っています。建物の1階の柱頭部を切断して躯体をジャッキで支え、切り出した柱を引き抜いて、そこに免震装置を設置しました。2011年の東日本大震災の時、私はこのビルに居ましたが、わずかな揺れを感じる程度でした。万が一の大地震の発生時に自社の被害を最小限にとどめ、復旧支援に行くことが使命であると考えています」(同氏)
▼日本初の実用免震ビル「技術研究所管理棟」
「企業価値の向上」など
3つの基本方針に注力
同社の2022年3月期の連結売上高は2,424億5,800万円。現在、土木事業、建築事業、不動産事業等を展開。土木事業と建築事業を主力とし、近年はおおよそ土木4、建築6の比率で推移している。また、官庁工事と民間工事の比率は約4対6となっている。
同社グループは「2030年に向けたビジョン」を策定し、実現に向けた様々な施策を行っている。中期経営計画では、最終年度の2024年度の売上高2,800億円、営業利益190億円、連結ROE8%以上を目標とし、2022~2024年度の3年間で総額500億円規模の投資を計画している。
同ビジョンは、「企業価値の向上」「事業領域の拡大」「人的資源の活用」の3つを基本方針としている。
企業価値の向上では、生産性の向上、技術優位性の向上、ESG/SDGsへの取り組み強化を行う。業界上位グループの1社としてのポジションを確立し、成長軌道に乗っていきたい考えだ。
事業領域の拡大では、特に不動産事業と新規事業の拡大に注力する。不動産事業では、東京都心や神奈川県などで集合住宅を収益物件として運用している。
新規事業ではバイオマス発電事業に参入。北海道石狩市と福島県平田村にて木質バイオマス発電所を運営する再生可能エネルギー事業を展開している。
また、「夏秋いちご」の栽培・出荷・販売事業を開始。水産業への参入を目指し、トラフグ、バナメイエビの陸上養殖の実証実験を始めた。
人的資源の活用では、多様な人材の活躍を推進。2人の女性社外取締役が活躍しており、新卒採用でも女性社員の採用を増やしている。
大阪国際女子マラソンに協賛
テレビCMで認知度向上
同社はここ数年、認知度向上のための広報活動を展開している。2018年から大阪国際女子マラソンに協賛。「建設が、好きだ。」というコンセプトを基にテレビCMを製作し、マラソン中継番組内でもオンエアしている。
「マラソン選手のゼッケンに『奥村組』の社名が入るので、多くの方に当社を知っていただく絶好の機会となっています。CMについては、回を重ねるごとに認知度アップの手応えを感じています。建設投資の規模が大きい東日本での知名度向上のため、今後も様々な広報活動を展開していきます」(同氏)
▼テレビCM「建設LOVE!奥村くみ」シリーズの「LOVEで」篇(上)と「奥村記念館」篇(下)
(*)OCMS工法:Okumura Circulation Mechanical Shield
2022年3月期 連結業績
売上高 | 2,424億5,800万円 | 前期比 9.9%増 |
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営業利益 | 126億4,700万円 | 同 1.8%減 |
経常利益 | 140億1,200万円 | 同 5.2%減 |
当期純利益 | 125億4,100万円 | 同 21.9%増 |
2023年3月期 連結業績予想
売上高 | 2,480億円 | 前期比 2.3%増 |
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営業利益 | 84億円 | 同 33.6%減 |
経常利益 | 93億円 | 同 33.6%減 |
当期純利益 | 86億円 | 同 31.4%減 |
*株主手帳9月号発売日時点