周りが思っているほど、富裕層の家計には余裕はない

Bさんのような「時価総額がそれほど大きくはない上場企業のオーナー経営者」の場合、周りが思っているほど、家計に余裕があるわけではないようだ。Bさんの話に入る前に、まずは「時価総額がそれほど大きくはない上場企業のオーナー経営者」の主な特徴を確認していこう。

<時価総額がそれほど大きくはない上場企業のオーナー経営者の主な特徴>

(1)資産の大半(イメージとしては8〜9割)が自社株であり、個人資産額は良くも悪くも自社株(≒自社の業績)パフォーマンスに強く連動している

(2)役員報酬は上場企業の社長にしては、相対的に低い

(3)上場間もないベンチャー企業ゆえに、内部留保はできるだけ成長投資にまわすことになり、無配当であることが多い

(4)(2)と(3)の特徴により、周りが思っているほど収入が高くないことが多い

(5)IPOをする際に、原則として、保有株式の一部を売り出すので、そのタイミングで億単位の現金を手にすることが多い

Bさんは、このすべての特徴が当てはまる上場企業オーナー経営者だ。自社株を除く金融資産1億円も、その多くがIPO時の売り出しで得た現金である。(2)と(3)の特徴もきれいに当てはまっているので、上場企業オーナー経営者であるのに年収は1,500万円“しか”ない。一般的には十分な金額かもしれないが、Bさんからすれば物足りない水準だろう。そのため、「役員報酬にプラスして、あと2,000万円ほど、資産収入を生み出せたらうれしい」というわけだ。

しかし、Bさんは(1)の特徴にも当てはまってしまっている。会社を大きくしていくつもりのBさんは、今のタイミングで自社株を売却するつもりはなく、そもそも売る気があったとしても簡単に現金化できるものではない。したがって、いま動かせる資金は最大1億円だ。極端に言えば、「本当は資産30億円の超富裕層なのに、金融資産1億円/年収1,500万円のプチ富裕層になってしまっている」のだ。

「証券担保ローン」と「不動産担保ローン」の“二刀流”の資金調達方法を提案

それでは、月2,000万円ほどの資産収入を生み出すために、どのような選択肢があるのだろうか。筆者がBさんにアドバイスをしたのは、レバレッジを活用して、ほとんど持ち出しなしでキャッシュフローを生み出す方法だ。具体的には「証券担保ローン」と「不動産担保ローン」の“二刀流”である。

証券担保ローンとはその名の通り、保有している有価証券を担保に差し出して資金を借り入れる方法だ。Bさんにおいては、自社株を担保に入れて、担保価値(この比率は“LTV(Loan to Value)”と呼ばれている)の範囲で資金を借り入れることができる。仮にLTV50%を認めてくれれば、10億円の自社株を担保に入れることで、最大5億円まで借りられる。なお、個別銘柄を担保に入れる証券担保ローンを「シングルストックローン」と呼ぶ。

借り入れた資金の使用用途は原則自由であるため、資産運用にまわしても問題はない。Bさんは安定的なインカムゲインの構築を希望しているので、米ドル建ての個別債券(社債)で運用するのがよいだろう。円建て債券では利回りがほとんど出ないためだ。もちろん、米ドル以外の外貨建て債券もこの世にはたくさんあるが、リスクの大きさやレパートリーを考えると、米ドル建て個別債券が最もバランスがよいだろう。

追い風も吹いている。米国の長期金利はこの1年で大きく上昇し、それに伴い、個別債券(社債)の利回りも上昇しているためだ。銘柄にもよるが、ある程度の信用リスクを取れば、利回り5〜7%の債券ポートフォリオを構築するのはそこまで難しくない。唯一の懸念は「こんな円安局面で日本円を米ドルに替えて大丈夫か」という部分だろう。円高リスクが高まっていることは、事前にBさんとしっかりと擦り合わせる必要がある。

仮にシングルストックローンで5億円(金利1%)を調達できたとすると、単純計算ではあるが、

・5%利回りポートフォリオでキャッシュフロー1,500万円
┗5億円×5%=2,500万円
┗2,500万円×80%=2,000万円(20%源泉分離課税の想定)
┗2,000万円−500万円=1,500万円(500万円は金利返済分)

・6%利回りポートフォリオでキャッシュフロー1,900万円
┗5億円×6%=3,000万円
┗3,000万円×80%=2,400万円(20%源泉分離課税の想定)
┗2,400万円−500万円=1,900万円(500万円は金利返済分)

を実現できる。為替リスクはあるものの、Bさんにとっては検討に値するソリューションだろう。実際、Bさんは主幹事証券を含めて、プライベートバンク複数社に声をかけて情報収集を進めている最中だ。

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