日本政府は、人々の幸福の実現を目指すためにさまざまな施策を行っている。そのなかの一つに「ムーンショット計画」がある。ムーンショット計画とは、野心的な構想や困難な社会課題の解決を掲げることで挑戦的研究開発を行うことができるというものだ。「挑戦的研究開発を行う」というと壮大なイメージを持つかもしれないが、実をいうとムーンショット計画はビジネスでも応用できる。
ここでは、国のムーンショット計画の取り組みとビジネスへの応用について解説していく。
目次
わが国が取り組むムーンショット計画とは
はじめに、わが国が取り組むムーンショット計画がどのようなものかを見ていこう。
ムーンショット計画の概要と導入された背景
そもそもムーンショット計画とは、月面着陸プロジェクト (アポロ計画)になぞらえて名づけられたものである。アポロ計画のように困難だが実現すれば大きな効果が期待される社会課題を解決するために野心的な目標を掲げ、実践することがムーンショット計画の目的だ。ムーンショット計画は、さまざまな分野において世界各国で導入されている。
日本で導入されているのが「ムーンショット型研究開発制度」。近年日本は、大規模自然災害、少子高齢化問題、地球温暖化問題への対処など多くの課題を抱えている。これらの課題は、解決が困難だが早急に取り組まなければいけない問題だ。従来のようなやり方では解決できない。解決のためには、破壊的イノベーションの創出や科学技術への挑戦、大規模な投資が必要。
そこでわが国では、9つのムーンショット目標を掲げ、それぞれの目標を達成するための研究や開発に大きな投資を行っている。
9つのムーンショット目標とは
ここからは、わが国が掲げている9つのムーンショット目標を簡単に見ていこう。
・目標1.身体、脳、空間、時間の制約からの解放
2050年までに複数の人が遠隔でアバターやロボットを操作し、生活や仕事ができるようになることを目指した目標だ。身体的、認知的な能力を最大限に拡張できる多数のアバターやロボットを開発する事業に投資を行う。この目標を達成することで、さまざまな年齢や価値観、背景を持つ人がライフスタイルに応じた生活を送ることができるようになる。
・目標2.疾患の超早期予測・予防
2050年までに臓器間の包括的ネットワークを確立し、疾患の超早期予測・予防ができるようになることを目指した目標だ。根本的な予測・予防方法を確立するために慢性疾患などの発症メカニズムを解明する研究に投資を行う。この目標の達成により慢性疾患などを予測したり予防したりができ、誰もが健康的に生活できる社会の実現が期待できる。また健康・医療産業の競争力を強化することも可能だ。
・目標3.自ら学習・行動し人と共生するAIロボット
2050年までに自ら学習・行動し、人と共生するAIロボットの開発を目指すという目標だ。少子高齢化の進展による労働人口の減少や災害時の対応など、あらゆる分野でのロボット開発に投資を行う。この目標の達成で労働人口の確保、月や小惑星などの地球外での活動、ビッグデータを用いた新たな技術や医薬品の開発などができるようになる。
・目標4.地球環境の再生
2050年までに資源循環技術の開発とその技術を用いた製品などを普及させることで地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現することを目標としている。世界が直面している温室効果ガス削減や海洋プラスチックごみ問題など環境問題の解決を行うための研究に投資を行う。この目標の達成で生産活動などを行いながらも環境問題の解決ができ地球環境の再生が期待できる。
・目標5.食と農
2050年までに微生物や昆虫などの生物機能をフル活用したり食料のムダをなくしたりすることで持続的な食料供給産業を創出することが目標だ。地球規模での食料生産システム構築に関する研究や開発に対して投資を行う。この目標の達成で将来世界的に人口の増加が起こっても、それに対応した食料の確保や地球環境の保全への貢献が期待できる。
・目標6.誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現
2050年までに一定規模のNISQ量子コンピュータを開発し、誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現を目標としたものだ。コンピュータは、これまでも発展をしてきたが、現代の技術ではその発展が頭打ちになる。そこで従来のコンピュータとはまったく異なる原理である量子計算を用いたコンピュータの研究・開発に投資を行う。
この目標を達成することで誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現ができる。材料開発やエネルギー分野、創薬分野、経済分野などあらゆる分野で革新の実現が可能だ。
・目標7.100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
2040年までに国民一人ひとりが、100歳まで健康不安なく人生を楽しむための医療や介護システムの実現を行うための目標である。健康寿命延伸医療や新世代医療などの研究・開発に対して投資を行う。この目標の達成により、何歳になっても健康不安なく人生を楽しむことができる社会の実現や人出不足でも質の高い医療や介護を受けられるシステムの実現が可能となる。
・目標8.気象制御による極端風水害の軽減
2050年までに極端な風水害による被害を大幅に軽減し、安全安心な社会の実現を目標としたものだ。風水害の被害は、地球温暖化が進む現代や未来において、さらに大きくなっていくことが予想される。しかし今までの堤防などの構造物での予防対策では不十分。そこで災害につながる気象現象自体を回避・軽減できる技術が必要になるため、これらの技術の研究や開発に投資を行う。
この目標の達成で災害に対する高精度の予測や回避・予防行動ができるようになり安心して暮らせる社会の実現が期待できる。
・目標9.こころの安らぎや活力を増大
2050年までに精神的に豊かで皆が活躍できる社会を実現することを目指すための目標だ。社会不安やコロナ禍の影響もあり自殺をする人やうつ病などのこころの病気を患う人も多い。そこでこころの安らぎや活力を増大するなど、こころをサポートするための技術研究や開発に対して投資を行う。
この目標の達成でこころの病気の予防や回復促進、暮らしやすい社会の実現が期待できる。また新しい産業の創出も可能だ。