本記事は、西内孝文氏監修の『金融機関を味方につける!事業計画書の書き方・活かし方』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
強み・弱み・機会・脅威を抽出し、「SWOT分析」に取り組む
SWOT分析については、言葉そのものはよく見聞きした方は多いかもしれませんが、実際にやっている中小企業はそれほど多くありません。中小企業の場合、「わざわざ、そんな分析をしなくても自社の強みや弱みなどわかっている」と思うからでしょう。
しかし、その強みや弱みを企業のみならず商品・サービスごと、また機会や脅威といった外部環境の複合的な尺度から検証するSWOT分析は奥が深い分析手法です。ワンランク上の事業計画書を作成するにあたっては、ぜひ取り組んでみましょう。
●自社の内部と外部を4つのアングルから検討する
SWOTとは、自社の内部と外部について示した次の要素の頭文字です。
S:Strength(強み) 自社や自社製品・サービスによい影響を与える自社内部の要素のことです。
W:Weakness(弱み) 自社や自社製品・サービスに悪影響を与える自社内部の要素のことです。
O:Opportunity(機会) 自社や自社製品・サービスによい影響を与える外部環境の要素のことです。
T:Threat(脅威) 自社や自社製品・サービスに悪影響を及ぼす外部環境の要素のことです。
これら4つのアングルから自社を捉え、まず、上の図表のように列挙してみましょう。さらにいくつかの分析手法があるのですが、その一例を示すと、次の図表のようになります。
自社の内部環境と、市場の状況や競合他社といった外部環境についてプラス面とマイナス面に分け、それぞれに抽出・分析し、改善の優先づけなどを行っていきます。その際には、おぼろげながらでもいいので、どんな改善を事業計画書に盛り込むかという目標と、どの段階までできたら達成といえるのか、という見込みを立てておきたいものです。
たとえば、前の例は「飲食店である自社の売上を伸ばす」という目標のもとSWOT分析を行ったものです。そのほかにも、「常に新卒を採用できる体制にする」「資金繰りに困らない経営を行う」などいろいろな目標があり、それぞれの目標に応じたSWOT分析を行うことができます。
●より深い分析を行うための3つの観点
実際の分析にあたっては次の観点が重要です。
第1の観点 適切な要素の抽出を行っていますか?
現状を知るのも事業計画書に落とし込むのも、上記の図表のようにマトリクスで見ていきます。
また、内部環境の強みと弱みという要素については、消費者の認知、ブランド、品質と価格、技術力やサービスのレベルといった観点で抽出していくといいでしょう。外部環境の機会と脅威という要素については業界の市場規模や成長性、周辺の環境、競合他社の状況、法律や制度の改変などから捉えてみます。要は一定の尺度・基準を設け、その観点から分析を進めていくのです。
内部環境と外部環境の要素ともにいえることですが、闇雲に抽出しても、どこから改善していけば最も効果的かがわからなくなってしまいます。その点、たとえば「消費者の認知、ブランド」であれば、「店そのものの認知度は高い(強み)」「新メニューの提案力に欠ける(弱み)」というように、先に挙げたような要素をもとに抽出するとわかりやすくなります。
第2の観点 適切にマトリクスを掛け合わせていますか?
マトリクスで表現したSWOT分析については、4つそれぞれの象限を〝たすき掛け〟するように掛け合わせて分析し、事業計画立案の糸口にします。これを一般に「クロスSWOT分析」と呼んでいます。
・強み×機会 たとえば、「機会を捉えて強みを最大に活かす方法はないか」と考えます。
・強み×脅威 たとえば、「脅威を回避するためにとれる、強みを活かした方法はないか」と考えます。
・弱み×機会 たとえば、「弱みによって機会を逃さないためにとれる方法はないか」と考えます。
・弱み×脅威 たとえば、「弱みと脅威によって受ける最悪の事態を回避する方法はないか」と考えます。 こうした一連の作業を経て作成した事業計画書は、まさに自社の事業の羅針盤になるでしょう。
第3の観点 ある事象が弱みにも強みになり、脅威が機会にもなることに留意していますか?
プラスとマイナスは、まさにコインの表裏です。たとえば「1日2組のお客様だけを受けていて宿泊料が高い旅館(弱み)」は「1日2組のお客様だけに対応しているため、その嗜好に合った付加価値の高いおもてなしができる旅館(強み)」ともなります。
また、「料金が高い」という弱みと「テイクアウト需要が増えている」という機会から「高級弁当を開発する」といったアクションが生まれるように、複数の計画・アクションが考えられるのがSWOT分析のよいところでもあります。
しかし、それは同時に分析上の弱点でもあります。「間違った」とまではいえませんが、複数の選択があるだけに、最良の選択は何かを判断しかねる可能性もあります。このことを考慮しつつ、分析を進めることが大切です。
それらの観点を踏まえたうえで、
・競合他社と比較した自社の「強み」は何か ・競合他社と比較した自社の「弱み」は何か ・事業環境がよい方向に変わる「機会」は何か ・事業環境が悪い方向に変わる「脅威」は何か
について考えていき、事業計画書に盛り込むようにしましょう。
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