本記事は、西内孝文氏監修の『金融機関を味方につける!事業計画書の書き方・活かし方』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
Q 事業計画書には、どんな活用法がありますか?
A 事業計画書は社内で活用する方法と、社外で活用する方法に大別できます。社内で活用する目的としては、「社員全員に先々の事業計画に関してコンセンサスを得るため」ということに集約されます。
事業計画書は数年前から現在までの事業活動を振り返り、また、この先数年かけて取り組む事業活動を見通すことに意義があります。
社外での活用は「融資を受けるため」に集約されます。
●行動面の意思統一を図る
事業計画書の作成は決して経営者一人のアタマのなかだけで行われるものではなく、一人一人の社員の参画があって初めてできること。もっといえば、社員一人一人の参画があって初めて意義のあるものになります。
あらためて述べると、コンセンサスとは「意見の一致、合意」という意味を持ちますが、事業計画書では、これまでの事業活動の振り返りに関して社員全員のコンセンサスをとり、今後の事業活動についてもコンセンサスを得ていることが欠かせません。
事業計画書と同種の書類に経営計画書があります。いずれも法定された書類ではないので、中小企業では策定していないところも多く、策定している中小企業は独自の視点から作成しているでしょう。
傾向としては経営計画書のほうが損益はもちろん資金繰り面などのいわゆる経営数値について多くのスペースを割くケースが多く、その場合は経営責任のない一般社員まで正確に伝え、コンセンサスを得る必要があるのかという疑問が生まれるかもしれません。
一方、事業計画書に書かれてある「事業」は、一人一人の社員が「何を行うのか」を示している点で、社員に直接関わってきます。それだけに、社員全員が共有する必要性が高いのです。
事業計画書を毎期作成・見直しを行っている中小企業では、毎期の冬の時期に各部署での振り返りを始め、春の新年度にはその期の事業計画書をまとめ、新事業年度のキックオフ・ミーティングのように発表会を開くところもあります。数百人・数千人規模の大きな会社になると、社内発表会といってもビッグイベントになり、総務部はそのために右往左往するような大変さがありますが、数十人規模までの中小企業では物理的に1カ所に集まりやすいこともあり、新年度初日の夕方に1時間ほどの時間をとって行うケースもあるようです。
「よし、今年度はこの事業計画書のもと活動していこう!」
と社員のコンセンサスが得られれば、どんな企業でも、気持ちを新たに、よりスピーディに事業活動に邁進できます。
●金融機関の融資担当者との絆を深める
社外で活用する方法としては、主に金融機関の融資担当者への説明のために用います。一般の民間銀行でも融資の相談に来た企業に対して、融資担当者が、
「決算書とは別に、事業計画書としてまとめているものがあれば見せてください」
と確認するケースが少なからずあります。
融資案件の内容が新規事業に伴う設備投資であれば、どのような新規事業なのか、銀行の担当者は理解する必要がありますし、融資を受ける企業としても新規事業について説明し、理解を得る必要があります。もちろん、通常の運転資金ではなく、新規事業に関わる案件であれば、手続きなどを担っている国の補助金制度の活用を提案することもあるでしょう。
もっとも、設備投資ではなく、人員の増強に伴う人件費の増額や設備の更新・修繕に伴う費用など運転資金で対応するケースでも、銀行の担当者には融資先の事業内容を理解する必要があり、企業としては理解してもらう必要があるのは同じです。
●金融機関の融資担当者も、上司に説明できる材料がほしい
銀行の融資担当者としては、融資の案件内容をその銀行の所定の用紙にまとめ、上司に稟議を諮はかります。その稟議文書を作成する際に、融資先企業の経営者との面談だけではうろ覚えになってしまっている面もあります。その点、事業計画書という1枚の書面があるだけで稟議書類の作成がスムーズに進み、決裁もスムーズに行われます。案件について担当者が上司から説明を求められた際にも、的を射た説明ができるのです。
もちろん、そうした民間の銀行が中小企業に融資を実行する際は、信用保証協会を活用するのが一般的です。すると、信用保証協会側でも、「なぜ、その資金が必要なのか」を説明している事業計画書が必要になります。
また、民間の銀行ではなく、公庫をはじめとした政府系金融機関に融資を申請する場合にも、事業計画書は必須といっていい書類です。
この補助金の申請や公庫の融資の場合、それぞれの制度に規定されている事業計画書のフォーマットがあるケースが多く、資金を調達する企業としてはそれぞれのフォーマットに応じた事業計画書を提示します。その際にも、自社でもともと作成してある事業計画書から必要な箇所を転記・移記すればいいことも多く、企業にとっては重宝します。
このように、事業計画書は社内外で活用されます。昨今、コロナ禍からの脱却に向けて、国や自治体は補助金・給付金制度を拡充し、企業としては補助金や融資などの需要も高まっています。それだけに、事業計画書の〝活用の幅〟は広がっているといえるでしょう。
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