本記事は、西内孝文氏監修の『金融機関を味方につける!事業計画書の書き方・活かし方』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
Q 事業計画書の精度を高める方法について教えてください。
A 事業計画書の精度を高める方法はいくつかありますが、大きく次の2つがポイントとなるでしょう。
(1)他者からの視点でチェック&ブラッシュアップする (2)計画どおり進んでいるかチェック&分析し、修正を加える
●指摘事項を修正し、ブラッシュアップしていく
事業計画書の用途の一つに、「金融機関から融資を受ける際の資料」として提出するというものがあります。これは中小企業にとって「用途の一つ」というより、メインとなる用途といってもいいでしょう。この用途として事業計画書を使う場合、融資の面談の際に、担当者から、
「なぜ、この数字がこの年度に急増しているのですか?」 「この新規事業を進める際の資金的な裏づけはありますか?」
など、疑問点の確認や指摘できるところのアドバイスを受けるケースもあるでしょう。
添付した事業計画書を、担当者との面談の場で書き直すわけにもいきませんが、これらの指摘事項は今後、事業計画書をブラッシュアップしていくうえで大いに参考にしたいものです。自分で作成した書類の不備や不十分な点は、自分ではわかりにくいものです。ところが、他社・他人から指摘されるものは案外、見落としている部分が多く、〝勉強になる〟ものです。
また、前述のように事業計画書は一回作成したら「それで終わり」ではなく、毎年、作成し直し、社内で公表し、金融機関や顧問税理士など社外の必要なところに提出するものです。その際には年度替わりなどに応じて新規に作成し直します。そのとき、別の方法で事業を分析したり、役員や部課長などの個人レベルにまで落とし込んだアクションプランを策定してもいいでしょう。
●社員参加型の事業計画書づくりに取り組む
通常、事業計画書はトップダウンで策定するケースが多いのですが、ボトムアップでの事業計画書づくりに取り組む方法もあります。
ボトムアップ方式の場合は、まず自社の一般社員に「今年度、自分が担当する部署・事業で、こんな取り組みを進めたい」といったことを書いてもらい、それを担当部課長が実現度や予算感も勘案しつつ集約し、最後に役員レベルで1枚にまとめて公表するといったスタイルになります。
社員にとっては自分の行動計画を自分で計画することになり、できあがった事業計画書にも責任感を持ってコミットしやすいでしょう。
●「差分」を分析する気持ちを忘れずに
どのような方法で策定したとしても、精度を高めるには実際に行っている事業の経過と事業計画書に示されている内容との違い・差を的確に把握することが欠かせません。これを「差分分析」と呼ぶこともありますが、進捗度合い、数値などに関して、なぜ、このような差が生じているのか、プラスの場合もマイナスの場合もその因果関係を推論し、確かめておくことが大事です。
事業計画書において「精度が高い」とは計画どおりに事業が進んでいることです。計画より早く事業が進み、大きな成果が出ていればいいと思うかもしれませんが、たとえば、景気変動が事業にプラスの影響をもたらしたり、天災が自社の思わぬ需要に結びついたり、計画書に載せていない社債の発行によって資金に余裕ができたりなど、偶然に発生した事情による成果もあり得ます。いわゆる僥倖といわれるもので、思いがけない幸運によって業績が伸びても、手放しで喜ぶことはできません。
このことも考えれば、事業計画書については毎年度作成するにしても差分の確認と見直しは毎月のように行うべきです。修正する場合には、それまでの事業計画書を残し、新たな事業計画書をバージョンアップして修正し、新規に保存しておくこと。できれば旧バージョンの変更点について赤字で示しておくこともいいでしょう。そうすれば、どのように事業計画が変遷してきたのかもよくわかります。
●月次決算と同時期に進捗をチェックしよう
これは、自社の永続や成長に向けた事業計画の活かし方とも共通します。
たとえば、会計や税務を顧問税理士に依頼している企業では、通常、月次の経理データを顧問税理士に送り、不明点の質問に対する回答を行うと、数日後に月次決算書として報告を受けているはずです。その内容を見れば当年度の事業がどのように推移しているかは理解できるでしょう。できれば、そのときに事業計画書を振り返って確認し、事業計画そのものがどう進捗しているのかを確認します。
月次決算書では当年度のその月までの売上・費用・利益等のほか、資金(資本)の状況がわかります。事業計画が想定以上にスムーズに進み、売上・利益、さらに自己資金関係とも堅調に推移していれば、事業計画書において、たとえば「次年度に1店舗、新規出店する」という記述を「次年度までに1店舗出店するとともに、2店舗目の開設を具体的に検討する」と変えてもいいのです。
改訂のつど、金融機関の融資担当者に提出する必要はありませんが、社内的には「よりアクセルを踏むように事業計画書をバージョンアップした」ことを伝えます。
事業計画書は1枚の紙に表現されたものですが、まとめるにあたっては社員同士の話し合いを重ね、顧問税理士等にアドバイスを受け、場合によっては金融機関に書き直しを依頼され、それらの知恵が凝縮されてできあがったものです。
事業計画書そのものより、その労力と知恵を活かすというスタンスに立ち、バージョンアップを重ねる。この積み重ねが精度を高めることにつながっていくのです。
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