本記事は、内海正人氏の著書『上司のやってはいけない! 令和版』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

やってはいけない!
リモートワーク中の部下を「さぼっている」扱いする

リモートワーク,在宅ワーク
(画像=snowing12/stock.adobe.com)

会社は、労働契約を締結する際、従業員に対し、賃金や労働時間の他に、就業の場所に関する事項等を明示しなければなりません。労働条件の明示、従業員に対し就労の開始時にリモートワークを行わせることとする場合には、就業の場所としてリモートワークを行う場所を明示しなければなりません。

このことを上司であるあなたは理解していなければ上司失格です。何を根拠にリモートワークを行うことができるかを理解しましょう。そして、社員がリモートワークを行うことを予定している場合、自宅やサテライトオフィスなど、リモートワークを行うことが可能である就業の場所を明示することが望ましいのです。

社員が専らリモートワークをする場合など、業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合、就業の場所についての許可基準を示したうえで、「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能になるのです。

当然のことですが、会社に出社する社員と公平な取り扱いをするのが原則です。

業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点からリモートワークの制度を導入する場合、その趣旨を踏まえ、時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすることも有効です。この場合、上司であるあなたは、リモートワークを行う社員に、リモートワークの趣旨を十分理解させるとともに、リモートワークを行う社員に対する時間外・休日・深夜労働の原則禁止や会社による許可制とすることなどを、就業規則などに明記しておくことを理解しましょう。そして、残業などには決められた上限があるので、これを守れない部下にはリモートワークを許可しないなどの対応が必要となります。

さらに、リモートワークにより長時間労働が生じるおそれのある部下や、休日・深夜労働が生じた部下に対して、注意喚起を行うことが有効です。具体的には、上司が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告を表示するような方法があります。これをせずに、「さぼっている」ことばかりにフォーカスするマネジメントは部下にとって「信頼関係を築くことができない」という結果を招いてしまいます。また「自宅だから残業をつけてはいけない」という感覚は捨てるべきでしょう。

やってはいけない!
リモートワーク導入で部下を不適切に評価する

リモートワーク導入時に多くの会社で頭を抱えていることが、人事評価についてです。リモートワークを導入した場合、会社側である上司は、仕事の評価が難しいとして、社員は、自分の仕事が適切に評価されているのか不安に感じるようです。

社員の業務評価については、会社全体で十分に話し合ってルールを明確化しておく必要があります。一般的には勤務態度や時間などは評価の中心にはおかず、成果物での評価を実施するやり方が、リモートワークの評価には合致していると考えられるのです。代表的な評価制度として、職務目標を上司と部下で話し合い、その達成状況に応じて評価を行う「目標管理制度」があります。目標管理制度では、半期ごとなど期間を決めて、その都度ごとに、その達成状況の確認や内容の見直しを行う制度です。これがリモートワークの評価に合致していると考えられます。

今後、リモートワークがもっと普及していくことを考えると、成果重視の評価体制を採用していくことは、必ず必要になってきます。評価の基準や意識づけを行い、会社や組織として見直すことをぜひ行ってみてください。

また、リモートワークを実施している人と実施していない人の評価が公正に行われるよう、上司と部下のコミュニケーションの徹底、特に上司の意識啓発を行っていくことも重要です。もし在宅勤務で部下が「正しく評価してくれない」と言ってきたなら、自分の出した成果をメールでマネージャーにアピールしなさい、と指導します。思うような成果が出なかったときも、どんな点に苦労したのか、どのように改善したのかといったプロセスをアピールすればいいのです。

一方、マネージャーは、身近にいないからわからないではなく、プロセスが不明なら事後のコミュニケーションによって確認することが大切です。このような報告とコミュニケーションを義務づけるように指示して問題を解消することが制度の弊害を乗り越えることとなるのです。

リモートワークの評価に関しては、定量部分に関しては、成果を重視して、アウトプットを評価することを基準に行いましょう。協調性、責任性などの定性部分については、オンライン上のコミュニケーションを中心に評価することになりますが、ここは、リモートワークだから特殊なものということではなく、通常勤務もリモートワーク勤務も同じ基準で問題ないと考えられます。

やってはいけない!
リモートワークを導入して業務が非効率になる

ビジネスマン,リモートワーク
(画像=Monet/stock.adobe.com)

リモートワーク導入のメリットは「満員電車に乗らずに済む」「通勤時間が短縮される」「社員の働く場所が自由となる」「転勤がなくなる」「家族との時間が増えた」などの様々なメリットが挙げられますが、一方で、「業務の生産性が落ちる」「社員同士のコミュニケーションが希薄になる」「仕事とプライベートのさかいがあやふやになる」などのデメリットも多くあります。

そこで企業と従業員、双方にとって失敗せずにメリットがあるリモートワークの導入方法についてポイントを解説します。

(1)業務時間を明確に

在宅ワークなどでは業務時間に対する考え方が曖昧となり、超過勤務や生産性が落ちるリスクが発生します。そこで、管理者と従業員の双方で何時から何時までを業務時間とするかを都度明確にし、労使双方での時間管理の基準を共有することが重要となります。

(2)定期的な報告、連絡、相談を徹底する

リモートワークの場合には、管理者と従業員の双方による報告、連絡、相談が一番のカギとなります。お互いに決まった時間に必ず行うということが業務管理においては重要となります。

1日の中で「いつ」「だれから」「どの方法で」報告や連絡を行うかを明確に設定し、徹底をすることと、ときには管理者から従業員に対して相談をすることもコミュニケーションとしては重要となります。

(3)コミュニケーションツールを活用する

現在は、従来の電話やメールといった連絡ツールだけでなく、Zoom、Skypeやチャットワーク、LINE WORKSといった複数のメンバーとリアルタイムに情報やツールを共有することができるコミュニケーションツールが発達しており、これらを活用すれば各地でばらばらに活動するテレワーカー同士でのミーティングなども実施可能となるので、オフィス勤務よりも効率的なコミュニケーション創出が可能となります。

やってはいけない!
リモートワークのコミュニケーションで認識の相違が発生する

リモートワークでのコミュニケーションは難しいですか?

上司「これをこうして欲しい」
部下「はい、わかりました」

このようなマネジメントであれば、リモートワークであろうが、実際のオフィスでのやり取りだろうが、間違える差が少ないと考えられます。しかし、私自身も含めて、多くの現場で「伝えたことと異なる成果物があがってきた」「頼んだことの一部が抜けていた」などというミスが増えているのです。確認のため、メールが何回も行き来して、実際に打ち合わせを行えばものの数分もかからないで解決することが、解決に数十分もかかることが多くあるのです。

これは、「伝え方」の問題でもあるし「受け止め方」の問題でもあります。上司側は「伝えたつもり」であり、部下の受け止め側は「理解したつもり」で進んでしまうからではないでしょうか?

特に発信側である上司は「伝える」ことと「伝わる」ことの違いを認識しないといけません。実際にオフィスでは、部下が少しの疑問について「ちょっといいですか?」と言って気軽に尋ねることができます。ここで「伝える」から「伝わる」になり、物事が正しい方向に向かうのです。しかし、リモートワークでは、この「ちょっといいですか」ができませんし、言える環境ではありません。このちょっとしたコミュニケーションの環境の変化が「伝わる」ことの阻害要因となっているのです。

では、どうすれば伝わることになるのでしょうか? それは、指示の出し方に問題がないか検討してください。例えば長文のメールの場合、ポイントが何なのか? 部下が把握しきれない状況や、文章内にそのポイントが埋もれてしまう可能性が出てくるのです。

仮にリモートワークの環境にプリンターがなければ、画面のみでの判断で、じっくりメールも見ないかもしれません。そのような中で業務を行うため、エラーが発生するのです。それよりも、指示の出し方を箇条書きにまとめ、5W1Hを意識して文章を作成し、文章を短く書くことを意識しましょう。さらに部下に対し「疑問点があれば気軽に問い合わせること」を書き添えましょう。これで、わかりやすく、かつ、気軽な問い合わせもOKというメッセージになるのです。

=上司のやってはいけない! 令和版
内海正人
1964年神奈川県生まれ。人事コンサルタント・社会保険労務士。日本中央社会保険労務士事務所 代表。総合商社の金融子会社にて法人営業・融資業務・債権回収業務を行う。その後、人事コンサルティング会社を経て、日本中央社会保険労務士事務所設立。2017年9月社会保険労務士法人 日本中央社会保険労務士事務所 代表社員に就任し、現在に至る。人材マネジメントや人事コンサルティング及びセミナーを業務の中心として展開。現実的な解決策の提示を行うエキスパートとして多くのクライアントを持つ。著書に『会社で活躍する人が辞めないしくみ』『会社のやってはいけない!』(ともにクロスメディア・パブリッシング)などがある。

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