コスト削減に有効な5S
そこで、コスト削減の対策として「5S」の実践を推奨することになる。
5Sとは、ローマ字表記した際の頭文字が「S」となる5つの単語「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ」を示す言葉だ。これらの単語に沿った活動を行うことで、ムダを減らして生産を効率化することを目指す。
語感だけでも、それぞれの単語が意味するところを何となく想像できるだろうが、以下で詳しく解説する。
1つ目のS:整理
第1に「整理」とは、必要なものと不要なものを区別し、職場からムダをなくすことを意味する。一般家庭で言うところの「断捨離」のビジネス版のような考えで、もしかしたらこれが最も「効率化」のイメージに近いかもしれない。
例えば、あらかじめ備品や原材料などを「不要」と判断する基準を設けておき、それに合致したら廃棄したり売却したりする。
一見、もったいない気もするが、使わない物を溜めこんでしまうと、保管スペースの制約から本当なら次に必要になる物を入れられなくなったり、場合によっては追加で費用をかけて保管スペースを確保したりしなければならなくなる恐れがある。
2つ目のS:整頓
次に「整頓」は必要な物を誰もがすぐに取り出せるようにしておき、いざという時に探すムダをなくすことを意味する。
これは日常業務を効率化する意味合いが強い。「ちりも積もれば山となる」で、社員が「あれは確か…ここじゃないか…」と探し回る数分、数十分の積み重ねが、余分な人件費を生む。また、見つからないので発注することになれば、経費が重複してかかることになる。
・数万冊を探しやすく配置する図書館
このような事態を回避するには、それなりの頻度で使用する可能性のある物を素早く取り出せるよう、置く場所や保管の方法を工夫すれば良い。図書館や書店の棚を思い出してほしい。数万冊、数十万冊という蔵書は、大分類、中分類、小分類によって置く棚が決まり、さらに1冊1冊に個別の番号も振られているため、棚の前まで行っても見つけやすい。
もちろん、図書と違って多様な物品を扱う企業では、同レベルで厳格な管理は難しい。しかし、大分類、小分類で分けて置く場所を決めるぐらいなら、できないことはないだろう。これに加え、段ボール箱で保管するなら、箱を開けなくても中身が分かるように外側に品目を書いておくと、探す作業もスムーズになる。
そして何より、職場のメンバー全員がその仕組みを把握できることが重要だ。スーパーや図書館でお目当ての物を探しやすいのは、規則に従って分類され、みんなが理解できるよう表示してあるからである。職場でも、どのように分類したかを周知することで、探すムダは削減できる。
3つ目のS:清掃
3~5番目の項目は上記1、2番目の項目と比べると、生活習慣や意識付けに近いところがあり、効率化やコスト削減から程遠い印象があるかもしれない。
3番目は「清掃」。職場のゴミや汚れを取り除くことだ。誰だって、キレイな職場と汚い職場の2択なら、キレイな職場で働きたいと思うはずだ。衛生面の改善により、従業員が働く際のモチベーションを高める効果があり、もしかしたら生産性の向上につながるかもしれない。
これに加え、製造業では品質管理面で清潔さが必須になる。なぜなら、作業場にあるゴミは製造過程で混入し、製品に問題が出る可能性もあるからだ。そうなると、コストを削減するとか、効率を上げるとかいった以前の話として、自社の信用を保つためには絶対に疎かにしてはいけない項目とも言える。
大きな会社なら清掃業務を専門業者に外注することもあるだろうが、中小企業では自分たちで清掃するケースが一般的だ。せっかく社員自身がやるのなら、漫然と作業的にさせるのではなく、上記のような意味合いをしっかりと伝え、より良い製品や職場環境をつくる一環であることを意識させるべきだろう。
4つ目のS:清潔
4番目は「清潔」で、これまでに出てきた「整理」「整頓」「清掃」を徹底することを指す。
上記の話をまとめると、身の回りの物を必要か不要かで仕訳し、それらをメンバーみんなが把握しやすいように保管するほか、日ごろの掃除も抜かりなくこなすことで、職場環境の改善や業務の効率化に加え、品質を保つ意識付けまで行えるということだ。
5つ目のS:しつけ
最後は「しつけ」だ。これも4番目と同じような話だが、これまでの「整理」「整頓」「清掃」「清潔」の実践の習慣付けを目指す。
4番目の「清潔」との違いが分かりにくい。清潔では1~3番目の項目を実行し、しつけでは、それを自然に継続できる風土を社内に根付かせるということになる。
5Sを単なる心掛けではなく、コスト削減に向けた方策として捉えた場合、一過性の取り組みに終わってしまっては意味がない。この「しつけ」を掛け声に終わらせないため、例えば5Sを推進する責任者を職場ごとに決めたり、それらの責任者が部門横断的に集まって議論したりできる仕組みを設け、実効性を持たせてはいかがだろうか。