資産運用を始めるにあたり、まずはじめに考えるのは、投資可能な資金のうち、どれぐらいを現金として残すかという問題である。現金は元本割れがなく、安全資産であると言われるが、現金比率が高すぎるとインフレが進んだ時に資産が目減りするなどのリスクがある。本記事では、この現金比率の基本的な考え方と適切な比率の決め方、また比率を高めるべき局面などを紹介する。

目次

  1. 資産運用における現金比率とは
  2. 資産運用における現金の比率は何割にするのがよいか
  3. 日本や世界における平均的な現金比率
  4. 現金比率が高いことによる運用上のリスク
  5. 運用における現金比率を高めるべき場面
  6. 運用における適切な現金比率を求めるために重要な考え方
  7. 運用における現金比率の調整にあたっておすすめの投資先
  8. 投資先や比率についてはプロに相談
  9. まとめ:お金の色分けを元に、適切な現金比率を決めよう
  10. 運用における現金比率についてよくあるQ&A

資産運用における現金比率とは

資産運用における現金の比率はどうすべきか?高すぎると思わぬ問題も
(画像=sergey_p/stock.adobe.com)

資産運用においての現金比率は、投資可能な資金の内、現金で保有している割合(%)を言う。別の言い方をすれば、投資に回せるすべての資金でポートフォリオを組んだ時、株式や債券などの投資資産に回していない現金や預貯金の割合のことだ。

たとえば、投資に回せる金融資産が1,000万円である場合、現金比率が10%というのは、ポートフォリオの内90%が株式・債券等で、10%が現預金で保有されている状況である。

現金比率は投資の自由度を表す指標にもなる。一般的に、現金比率が高ければ投資の自由度が高く、逆に低ければ投資の自由度は小さい。

現金や預貯金は非常に流動性の高い資産である。物やサービス、または株や債券などの他の金融商品を購入するとき、現金があれば即座に対象のものを購入できる。

株や債券など、他の投資資産はこうはいかない。何かを購入するにはまずは株・債券を売却する必要がある。また、これら金融商品の価額が購入時より下がっていれば、誰でも売却するのをためらうはずだ。

つまり、資産運用における現金比率は、すぐに他の資産に交換可能なお金がどれぐらいあるか、という目安でもあるのだ。

資産運用における現金の比率は何割にするのがよいか

資産運用における現金の割合はどの程度が望ましいのだろうか。ここでは一般的によく言われる目安と、実際の日本の現金比率の平均を紹介する。

基本は「年齢=現金比率」

一般的に、個人投資家の場合、現金比率は年齢と同じにすべきだと言われることが多い。これは、年齢が若ければ投資の運用期間が長く確保できるし、損失が出ても今後の収入でカバーできる可能性が高いためである。

20歳→20%
30歳→30%
40歳→40%
50歳→50%
60歳→60%
70歳→70%

しかし、この比率はあくまで目安である。実際は資産額や家族構成、性格などを考慮し、適切な現金比率をそれぞれで判断することなる。

世代ごとの平均的な現金比率

実際、日本の家計の現金比率はどの程度だろうか。金融広報中央委員会が発表した「令和3年(2021年)家計の金融行動に関する世論調査」によると、日本の家計資産における世代ごとの現金比率は次のようなものであった。

▽単身世帯と二人以上世帯の世代ごとの現金比率

 単身世帯二人以上世帯
 金融資産現預金現金比率金融資産現預金現金比率
20代179万円85万円47%212万円103万円49%
30代606万円400万円66%752万円380万円51%
40代818万円300万円37%916万円406万円44%
50代1,067万円486万円46%1,386万円577万円42%
60代1,860万円716万円38%2,427万円997万円41%
70代1,786万円675万円38%2,209万円959万円43%

単身世帯、二人以上世帯とも、日本では30代の若い年代の現金比率が最も高くなっている。40代以降は年代によらず、おおむね40%前後であることがわかる。

日本や世界における平均的な現金比率

世代ごとの現金比率の平均を紹介したが、日本の現金比率は世界の他の国々と比べ、高いのだろうか、それとも低いのだろうか。

日本人の現金比率は諸外国と比べて高い

2022年8月に日本銀行調査統計局が発表した「資金循環の日米欧比較」によると、日本とアメリカ、ユーロ圏の家計の金融資産構成は以下の通りである。

▽日米欧の金融資産構成

日本アメリカユーロエリア
現金・預金54.3%13.7%34.5%
債務証券1.3%2.6%1.6%
投資信託4.5%12.6%10.4%
株式等10.2%39.8%19.5%
保険・年金・定型保証26.9%28.6%31.9%
その他2.8%2.8%2.1%
※「日本銀行:資金循環の日米欧比較」をもとに筆者作成

投資先進国と言われるアメリカでは現金比率が13.7%と非常に低くなっており、ユーロ圏も34.5%であるのと比べると、日本の現金比率54.3%はかなり高いことがわかる。

現金比率が高いことによる運用上のリスク

日本は諸外国に比べ現金比率が高いが、資産運用をする上で現金比率が高いとどのようなリスクがあるだろうか。

インフレによる資産の目減り

現金や預貯金は安全資産と言われるが、リスクがまったくないわけではない。資産運用において、現金比率が高いことによるリスクの最たるものは、インフレリスクである。

一般的に、経済がうまく回っている時は、緩やかなインフレ状態になると言われる。

企業は商品やサービスの販売価格の上昇で利益が上がり、社員の給料が増え、消費者は物価上昇によって生活費は上がるものの、給料の上昇で吸収されるためよりモノを買うようになる。商品が売れるとさらに企業の利益は上がり... ...というサイクルで景気は良くなる。

日本銀行は2013年に「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという声明を日本政府と共同で出している。

仮に2%のインフレが起こると、今年は1ヵ月20万円で済んでいた生活費が、来年は20万4,000円かかることになる。期間が1年ならそれほど影響はないが、この2%のインフレが5年続くと生活費は約22万800円、20年後には約29万7,000円、40年後には約44万2,000円と2倍以上になる。

1,000万円の現金を持っていても、生活費が20万円の時の1,000万円と、生活費が44万円の時の1,000万円では、その価値はほぼ半減していることになる。これがインフレによる資産の目減りである。

長期的な円安による資産の目減り

ここまで説明したとおり、好景気の時は緩やかなインフレ状態になる。この場合は現金の価値は目減りするものの、給料の上昇も期待できるため、特に現役世代への影響は限定的である。

より問題なのは、好景気によるインフレではなく、長期的な円安によるインフレである。

円安の影響を最も実感するのは、海外旅行に行った時だろう。しかし、長期に渡る円安では、海外に行く予定がない人にも大きな影響がある。

日本は食料品から資源、工業製品に至るまで、海外から多くの物を輸入している。円安が進むということは、これら輸入品に関わるすべての物やサービスの価格が上がることを意味する。

こうして起こったインフレでは、給料が物価の上昇ほど上がるとは限らない。給料は変わらずに、身の回りの物の値段だけ上がって家計を圧迫することになるし、もちろん相対的に現金の価値も下がる。

現金比率が高いということは、インフレによって受けるこれらのリスクが高いことを意味するのだ。

運用における現金比率を高めるべき場面

現金比率が高いとインフレリスクに弱くなるが、運用においては現金比率を高めにしておいた方が有利になるケースもある。

大きなトレンドの転換が見込まれるとき

たとえば、相場が大きく上昇し、近い将来、大きくトレンドが転換することが見込まれる局面である。この場合、株式などは適当なタイミングで利益確定の売却を行い、資産全体の現金比率を高くするといった調整が必要になる。

現預金は相場が下降局面になっても資産が減ることはない。また、新たに投資資産を買うタイミングが訪れた際、すぐにその資産を購入することができる流動性の高さもメリットとなる。

直近大きな出費が見込まれるとき

近い将来、大きな出費が見込まれるときも、現金比率を高くしておくべき局面である。

たとえば、子供が来年大学に進学する、2年後に住宅購入のための頭金が必要、といったイベントがある場合には、その資金は現金で用意しておいた方が良い。

これらは、必ず必要になり、かつその額が決まっている資金である。投資資金の比率を高いままにしておくと、この資金が実際に必要になったタイミングで相場が暴落した時、損失が出ているのに換金しなければならなくなる。

直近に必要な資金であれば、インフレによる影響もそれほど大きくならない。したがって、必要額に応じて現金比率を高めておくことが大切なのだ。

運用における適切な現金比率を求めるために重要な考え方

現金比率の目安が「現金比率=年齢」であることは先に述べたが、適切な現金比率はそれぞれの家計の状況によって異なる。ここでは適切な現金比率を決めるための大切な考え方を解説する。

使う時期や使い道に応じて資産を分ける

お金は使う時期や目的に応じて、大きく3つに分けることができる。これを「お金の色分け」という。

具体的には、まず自分の預貯金、株・債券などの資産を棚卸しし、自分の資産全体を把握することから始める。その上で、資産全体を次の3つのお金に分類(色分け)するのだ。

備えるお金……日々の生活に必要なお金
守るお金……使い道が決まっているお金
残すお金、増やすお金……すぐに使う予定のないお金

<備えるお金>
1つ目の「備えるお金」は、何らかの事情で収入が減った際、またはまったく無くなった時に、日々の生活を支えるお金である。「緊急時資金」とも言う。

この「備えるお金」は、月々の生活費の3ヵ月〜1年分が目安となる。1ヵ月の生活費が20万円の家計であれば、60万円〜240万円ほどだ。共働きで夫婦とも安定した職業についていれば3ヵ月分でいいし、逆に家計の収入が不安定であれば6ヵ月〜1年分は貯めたいところだ。

備えるお金は、現金や預貯金で備えるべきである。万が一の時に備えるお金を、減る可能性のある資産にして運用するのは適切ではないし、何よりすぐに使えることが大切だからだ。

もしこのお金がなければ、家計の収入が途絶えると借金をしなければ生活が成り立たなくなる。一度借金をすると家計を立て直すのは大変だ。したがって、「備えるお金」は何よりも優先して貯めなければならない。

金融資産が少ない家計であれば、「備えるお金」が貯まるまで現金比率は非常に高くなるのが普通である。逆に、この資金が貯まってない段階で投資を考えるべきではない。

<守るお金>
使う目的と時期が決まっているお金は、その時に準備ができていなければ困ることになる。したがって、この資金は「守るお金」にあたる。具体的には、結婚資金、住宅ローンの頭金やリフォーム資金、子どもの教育費などが当てはまる。

「守るお金」は現預金で準備すべきものと、投資に回してよいお金がある。その判断基準は「いつ必要になるか」である。

1,2年後のイベントのためのお金は、流動性の高い現預金で準備するのが適している。一方、使う予定が5年以上先の資金は、投資に回すことも検討すべきである。ポートフォリオの現金比率が高ければ高いほど、インフレに対するリスクも高くなるからだ。

「守るお金」には「備えるお金」のような目安はない。ライフイベントは人それぞれだからだ。したがって、資金がいつ、どれだけ必要かは自分で見積もる必要がある。

住宅はどこにどれぐらいの規模の家が欲しいか、子どもの教育は公立か私立かなど、できるだけ具体的に計算しておこう。

<残すお金、増やすお金>
最後の「増やすお金・残すお金」は、総資産から「備えるお金」と「守るお金」を差し引いたお金である。

まず、「残すお金」は家族のために残したいお金で、子どもの結婚式や孫の教育費の援助などである。これらはすぐに必要になる資金ではない上、必要になる時期・金額もはっきり決まっていない。したがって、現預金ではなく、可能な範囲で投資に回すことを考えよう。

「増やすお金」は当面使う予定のないお金から、「残すお金」を差し引いたお金だ。「余剰資金」や「余裕資金」とも言われる。

「増やすお金」は多少減ったとしても将来のライフイベントに与える影響が少ないため、投資に回すことができる。さらに、当面使う予定がないお金は運用期間が長く取れるため、より積極的な運用を考えても良い資金だ。

以上のように、お金を使う時期と目的によって色分けし、それぞれどの程度投資に回せるかを考えることで、自分にとって適切な現金比率が決まってくるのである。

自分のリスク許容度を知る

自分の資産のうち、どの程度を投資に回すのか、また投資はリスクを低く抑えるか、積極的にリターンを狙うかなどは、お金の色分けに加え、個人のリスク許容度を考える必要がある。

リスク許容度とは、投資で損失を出してしまった場合、どの程度の損失であれば受け入れられるかという度合いである。

リスク許容度はさまざまな要因で決まる。以下はその一例である。

▽リスク許容度を決定する要因

年齢運用で損失が出ても、年齢が若ければカバーできる時間があるため、リスク許容度は大きくなる傾向がある。
家族構成家族が多ければ、支出が多くなり、また「守るお金」など必要なお金が増えるので、リスク許容度は小さくなる傾向がある。
資産資産規模が大きくなるほど、「ふやす資金」に回せるお金が多くなるため、リスク許容度は大きくなる傾向がある。
収入収入が大きいほど、投資で損失を出してもカバーできるため、リスク許容度は大きくなる傾向がある。
投資経験投資経験が少ない場合、投資で損失を出す可能性が高くなるため、リスク許容度は小さくなる傾向がある。
性格上記の項目でリスク許容度が大きくても、わずかでも資産が減ることに抵抗がある人は、リスク許容度は小さくなる。
※筆者作成

リスク許容度を決める要因の中で、性格は他の項目と違い、定量化が難しい。また、第三者からはわかりづらい項目でもある。

性格的に損失を許容できない人が、自分のリスク許容度を超える投資を行うと、大きなストレスとなることが多い。家計が単身ではなく夫婦で構成される場合は、投資の目的をよく話し合い、時にはリスク許容度が小さい方に合わせる努力も必要である。

運用における現金比率の調整にあたっておすすめの投資先

家計の適切な現金比率がわかれば、実際に現預金以外の資産を組み入れて現金比率を調整することになる。ここでは、組み入れ資産として、インフレリスク・為替リスクに対応できる資産を紹介する。

インフレリスクに対応するなら株式や不動産

好景気による緩やかなインフレに対応するのであれば、株式や不動産を組み入れることを考えよう。一般的に経済がうまく回っていれば、株価や不動産の価値も上昇するからだ。

不動産投資は少しハードルが高いが、不動産を対象にした投資信託であるJ-REITであれば、少額から不動産に投資が可能になる。

円安局面で恩恵を受けられる外貨建て債券

円安による物価の上昇に対応するには、資産を外国の資産に配分しておく必要がある。一口に外国の資産と言ってもさまざまな商品があるが、はじめにおすすめしたいのは「外貨建て債券」だ。

外国株式も円安局面で恩恵を受けられるが、株式自体値動きが大きいという特性がある。円安局面が進んでも、株価自体の価格が下がっていれば利益は相殺される。

一方、債券も値動きはあるが、株式ほど大きくはない。したがって、より「円安局面」というリスクに焦点を絞った商品と言える。

投資先や比率についてはプロに相談

お金の色分けやリスク許容度から自分に適した現金比率の決め方を紹介してきたが、仕事が忙しくお金の管理をする時間が取れない人や、実際に自分で決めた投資先や現金比率が正しいのか不安に思う人もいるかもしれない。

そういう時は専門家に相談するのも1つの選択肢である。

ZUUでは「ZUU Advisors」という資産アドバイザ紹介サービスを無料で提供している。利用を検討してみるのもいいだろう。

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まとめ:お金の色分けを元に、適切な現金比率を決めよう

資産運用における現金比率の意味と、現金比率が高いことのリスク、そして家計にとって適切な現金比率の考え方を紹介した。現金比率は年齢が1つの目安とされるが、それぞれのライフイベントとリスク許容度によって適切な比率は大きく変わる。まずはお金の色分けの考え方を元に、自分のライフプランをしっかり考えてみよう。

運用における現金比率についてよくあるQ&A

Q. 資産運用における現金比率とは?

A. 自分が保有する投資可能な資産のうち、現金や預貯金で保有している割合。株式や債券などの投資に回していないお金とも言える。

Q. 現金比率が高いとどんな問題がある?

A. インフレ時に資産が目減りするリスクがある。経済がうまく回っているときは緩やかなインフレ状態になり、将来的に同じ現金でも購入できる物が減ることになる。また、円安が進むと外国からの輸入品に関連するすべてのモノ・サービスの値段が上がるため、同様に現金資産は目減りする。

Q. お金の色分けとは?

A. お金を使う時期や目的によって、「備えるお金」「守るお金」「残すお金・増やすお金」の3つに分けること。お金を上手に色分けするにはライフイベントを明確にしておくことが重要になる。

Q. 現金比率はどうやって決めればいい?

A. お金の色分けを行い、現金で保有するお金と投資に回せるお金を検討する。実際に投資に回すお金と、どのような投資先で運用を行うかは家計のリスク許容度も考慮に入れる。