特集「令和IPO企業トップに聞く 〜経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍という激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯や今後の戦略、課題を紹介する。

株式会社ラバブルマーケティンググループは、SNSマーケティングやDX支援などで企業のマーケティング活動を加速させる活動を行う企業だ。本インタビューでは、代表取締役社長である林雅之氏に同社の企業概要や日本経済の展望、今後の事業展開などについて、お話をうかがった。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

株式会社ラバブルマーケティンググループ
(画像=株式会社ラバブルマーケティンググループ)
林 雅之(はやし まさゆき)――株式会社ラバブルマーケティンググループ 代表取締役社長
立命館大学法学部を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。その後大手半導体メーカーの海外営業担当として、フランス・デンマークの営業拠点開設に奔走。2008年に株式会社コムニコを設立し、代表取締役に就任。日本におけるSNSマーケティングの第一人者として、セミナーやカンファレンスでの講演や書籍出版の実績多数。2014年に株式会社ラバブルマーケティンググループを設立し、専門性の高い複数の企業をグループに加える。
株式会社ラバブルマーケティンググループ
2014年7月、東京都港区で創業。「人に地球に共感を」をパーパスとし、現代の生活者の情報消費行動に寄り添うという、共感を重視した愛されるマーケティング(Lovable Marketing)を推進するマーケティング企業グループ。「最も愛されるマーケティンググループを創る」をグループミッションに、マーケティングの運用領域を主軸として事業を展開している。
2021年12月、東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場。主な事業内容はSNSマーケティング運用支援、SNS運用支援ツールの開発・提供、SNS検定講座の開発・提供、マーケティング運用支援、マーケティングオートメーションの導入など。

目次

  1. 情報の受け手側に喜ばれるマーケティングを心がける
  2. 共感を生むコミュニケーションが最重要
  3. 自社の強みを生かし、新たなマーケティングプラットフォームに対応していく

情報の受け手側に喜ばれるマーケティングを心がける

―― ラバブルマーケティンググループ様のカンパニープロフィール、現在の事業内容についてお聞かせください。

ラバブルマーケティンググループ代表取締役社長・林雅之氏(以下、社名・氏名略): 当社は、現在は子会社となっている株式会社コムニコを私が2008年11月に設立したところから始まります。2008年は日本ではSNSの黎明期で、FacebookやTwitterといった今やメジャーになっているSNSが、初めて日本語のインターフェイスを備えた年です。「2008年からSNSプラットフォームが重要なコミュニケーションの場所になる」と思い、SNSマーケティング事業を開始しました。当時東証二部に上場していたニフティ株式会社の子会社になった時期がありましたが、その後MBO(Management Buyout)を実施したタイミングで株式会社ラバブルマーケティンググループを設立し、それまで経営していた株式会社コムニコを子会社化しました。

ラバブルマーケティング(Lovable Marketing)グループという社名のとおり、我々は「愛されるマーケティング活動」を推進しています。マーケティング市場の規模は約6兆円といわれていますが、その中にはさまざまなマーケティング手法があり、情報の受け手側が不愉快に思うようなものや、見たくもないのに無理やり見させられるような広告やチラシ、しつこい営業電話のようなものもあるようです。

当社はパーパスとして「人に地球に共感を」を掲げていますが、マーケティングにおいて重要なのは、情報の受け手側に共感してもらうことや、受け手側が迷惑になるような活動をしないことです。その信念から、ラバブルマーケティンググループという社名にしました。この信念は採用活動を始め、月例会やキックオフMTG、全社会議などで共有しています。

当社を立ち上げる前にMBOを実施した際に、現在の株主である企業様からご支援をいただき、そのご縁から外部株主がつき、上場準備に入りました。上場は2021年12月で、2008年の立ち上げ時から上場を意識していました。ラバブルマーケティングというコンセプトを業界に広げていくことは非常に重要なミッションだと捉えており、マーケットで行われるすべての広告・マーケティング活動をラバブルにしていきたいと考えています。そのためにも知名度や影響力、会社規模などを拡大する必要があり、そのために上場は通るべき道だったと思っています。

―― 創業から上場に至るまでさまざまな変化があったかと思いますが、事業の変遷についてお聞かせください。また事業と金融の観点で、上場後に大きく変化したことは何でしょうか。

:当社の主力事業は創業から変わらず、SNSマーケティング事業です。創業当初はSNSマーケティングの啓蒙活動から始めなければならない時期で、広告関連会社でさえ「Twitterという名前は聞いたことがあるが、どんなものかわからない」といった状況でした。そのような状況の中で、いち早くアメリカ方面の動きを勉強して、「SNSというのはこういうもので、今後社会に浸透していく」ということを啓蒙しながら、「マーケティングにおけるSNS活用の可能性を探りませんか?」というアプローチを行っていました。

今でこそ「SNSマーケティング」という言葉は市民権を得ていますが、創業から数年は「そもそもマーケティングとして効果があるのかどうか」がわからなかったため、懐疑的な目で見られていたと思います。

事業の変遷をお伝えする際にはガートナーが提唱する「ハイプ・サイクル」を使ってご説明することが多いのですが、黎明期を超えてSNSが普及すると、今度は「SNSで何かがバズって商品が爆発的に売れるのではないか」といったような期待が過剰な時期に入ります。その頃からSNSマーケティングを取り入れる方が増えたのですが、まだ根本的な使い方を誰もわかっていなかったんですね。多くの企業さんが挑戦しましたが、うまくいかずに撤退していくということが数年続きます。

いわゆる幻滅期に入ったのですが、「使い方によってはうまくいく」という理解が広がり始め、プラットフォーム自体も普及し影響力を持ち始めたタイミングで、当社は上場準備を始めました。

まだ上場して1年なので会社として大きな変化は感じていませんが、SNSがコミュニケーションの起点になるという社会の状況はしばらくは変わらないと思いますので、引き続きSNSマーケティング支援事業が当社の主力事業となるでしょう。SNSの活用方法でいえば、個人がSNS上に持っている情報資産を、Web3といった新しいテクノロジーやプラットフォームにどうやって生かしていくかを考えなければいけません。そこでは当社がこれまでに築いてきたSNSの知見が生きると思いますので、しっかり注力したいと考えています。

金融面の変化ですが、当社はまだ規模が小さく、時価総額も大きくありません。そのため、上場会社の特徴の一つであるエクイティファイナンス(新株の発行によって事業資金を調達すること)はもう少し先かなと思っています。一方で、上場したことで会社の信用力は上がったと感じており、資金調達は上場前と比べてかなり有利に進められるようになったと思います。

共感を生むコミュニケーションが最重要

―― ラバブルマーケティンググループ様は「人に地球に共感を」をパーパスに掲げていますが、ビジネスを進めていく上で重視するポイントをお聞かせください。

:一つは「人」です。当社は決算資料などでもサステナビリティについてご説明してますが、SDGs(持続可能な開発目標)に基づく組織づくりという面では、一人ひとりが輝ける、働き甲斐のある組織を目指しています。

これは「誰も取り残されない社会」という面もありますが、それだけではなく多様化する働き方に対応するためのものでもあります。当社では「ハイブリッドワーク」と呼んでいますが、自由に働けるような環境づくりは非常に大切です。コロナ禍によってオフィスにメンバーが集まることの価値が相対的に低くなっており、副業を始める方やフリーランスとして活躍される方も増えています。

そのような流れの中での会社の価値を考えると、一人ひとりが「会社に自分の居場所がある」と感じてもらえるような、昔でいうサードプレイスのような役割が会社に求められるのかなと思います。そういった価値を提供できなければ人が根付きませんし、会社が永続的に活動していくこともできないでしょう。メンバーが働きやすいと感じ、会社に行きたくなるような環境を作り、演出することが重要だと思います。

また、共感を生むコミュニケーションも社会的に重要だと思います。例えば家を数日留守にすると、郵便受けがチラシやDMでいっぱいになることがあります。宣伝方法としてチラシやDMを否定するつもりはありませんが、それらすべてにしっかり目を通している方は少ないのではないでしょうか?そこには共感は存在しておらず、情報を受けた人の喜びもありません。

当社は「企業がSNSをオーガニックに運用して、有益であったり、喜んでもらえたり、評価してもらえたりするような、考え抜いたコンテンツを発信してファンを増やしていきましょう」という提案をしています。「共感」を重要視しながらコミュニケーション設計している会社さんはあまりないかなと思いますし、当社はそれを絶対に忘れないように社名にも反映させています。共感はマーケティングだけでなく、世界中で起きているあらゆる問題の解決につながると思いますので、当社がこだわるべきポイントだと考えています。

―― 激動の時代に上場された立場から、日本経済が直面している課題と今後の日本経済の動向について、ご意見をお聞かせください。

:直面していることだと、日本の大きな問題として人口減少が挙げられると思います。これはさまざまな業界の市場規模に直結するため、経済的なインパクトも極めても大きいといるでしょう。当社もマーケティングの対象者が減っていくことは、非常に大きな問題と捉えています。

そのような状況において、人が少ない中でも最大限の効果を出したり、組織の効率化を促したりするようなDXという流れは、非常に重要になると思います。

自社の強みを生かし、新たなマーケティングプラットフォームに対応していく

―― ラバブルマーケティンググループ様は、マーケティング分野の事業としてSNSマーケティング支援、DX支援などのサービスに強みがありますが、同様の事業領域を持つ企業が2023年以降の市場において成長するためのポイントは何でしょうか。

:SNSマーケティング事業でいえば、ガートナーのハイプ・サイクルでいう普及期に入ってきていると思います。期待値が過剰だった時代に参入したSNSマーケティング支援企業はかなり減ってしまいましたが、逆に普及期になってから参入したSNSマーケティング支援企業は増えていると思います。

その中で勝ち残っていくためには、特徴を研ぎ澄ます必要があります。例えば、最近流行しているSNSに強くなることや、ニッチではあるものの専門性の高い事業を展開することなどです。また、SNSに関わるすべての領域で高いクオリティーのサービスを提供することも重要です。このどちらかが、生き残るために必要な要素だと考えます。

当社は前身企業であるコムニコの創業期からSNSマーケティングを行っていますが、プラットフォームも時代に合わせて変化してきました。その変化に対して柔軟に対応しながら、お客様にサービスを提供させていただいており、この領域では老舗だと自認しております。そのため当社は、コムニコを中心にSNSマーケティングに関しては全方位的に支援ができる総合化というところで強みを打ち出し、SNSマーケティング領域でさらに存在感を高めたいと思っています。

誰もがSNSのアカウントを持つ時代では、個々人のアイデンティティがSNSに紐づいている状態なので、その情報を新しいプラットフォームやテクノロジーに引き継ぎたいというニーズは必ず出てきます。 例えばメタバースのようなものでも、何者かわからない人たちだらけでは寂しいですが、SNSのアイデンティティを引き継いだままメタバースに入れるのであれば、また違った世界観が生まれると思います。当社はSNSマーケティングで培ったノウハウをもとに、新しいプラットフォームにも対応することで事業を成長させたいと考えています。

DX支援事業については、労働人口の減少やリモートワークなどによって、BtoBであってもフィジカルに営業するような機会が減る中で、DXは非常に重要になると思います。

そのため、先行する海外のSFAツール(営業支援ツール)などに知見がある人材を増やし、企業様のDX化の支援をしています。SNSマーケティング事業と同様に、基幹事業と位置付けられるような規模まで早急に育てたいと考えています。

―― 上場からさらに成長するための目標や、5年後、10年後にラバブルマーケティンググループ様が目指す姿についてお聞かせください。

:現在、中期経営計画のようなものは公開していませんが、近いうちに具体的な数字を含めた成長戦略をご説明できるような場を設けたいと思っています。

現在見えている部分でいえば、国内のSNSマーケティング事業では老舗というブランドを確立していると思っています。ただし、日本市場は縮小傾向にあるとも考えています。

一方で東南アジアなどには「インターネット=SNS」といった世界観があり、SNSマーケティングの重要性が高まっていると思います。現段階で具体的な国についてご説明するのは難しいのですが、将来は東南アジアでも当社のセールスマーケティングの知見を活かして事業を展開したいと考えています。

また、優れた技術を持つ企業様との協業によって、SNSとNFT・メタバースのようなWeb3を掛け合わせた新しいソリューションも提案したいと思っています。

現在、子会社のコムニコから、SNSのアカウントを横断的に運用してコンテンツを制作することから効果測定までをワンストップで行える『コムニコ マーケティングスイート』というツールと、SNS上でプレゼントキャンペーンを行う際に当選者を管理するといった煩雑な業務を簡単に行える『ATELU』というSNSマーケティングに関連したSaaS型のツールを2つ提供しております。こちらはチャーンレートが非常に低く、順調にユーザー数を増やしています。第3、第4のツールの計画もありますので、売上においてSaaS型ツールが占める割合も増やしていきたいと考えています。

SaaS型ツールが市場に溢れてくると機能は似たようなものになり、値段も同じようなところに落ち着くと思います。その中で重要になるのは、UI(ユーザーインターフェース)ではないでしょうか。使いやすさは非常に重要で、ツールの使いやすさを測るためには自分たちもユーザーでなければなりません。

コムニコはお客様のSNSアカウントをお預かりして運営を代行するサービスを行っていますので、自分たちの業務の効率化を図るためにも、コムニコ社内の、お客様のSNSアカウント運用を行っているメンバーのニーズやノウハウを反映させながらツールを作っています。

自社ツールに関しては機能、価格ともに競争力が高いと自負していますが、今お伝えしたように、コムニコのメンバー自身がヘビーユーザーなので、適宜リクエストを開発チームに投げて製品をアップデートできることが最大の強みです。今後もユーザーの視点に立ち、使いやすいツールを提供したいと考えています。

―― 激変の時代に上場した企業は、投資家・富裕層から注目されます。投資家・富裕層の読者へメッセージをお願いします。

:当社は上場間もない新人であり、日々勉強させていただいておりますが、投資家の皆様にしっかり評価される会社へと成長したいと思っています。そのためには、当社が考えていることを皆様に知っていただく機会を積極的に設ける必要があります。

最終的に重要なことは、会社を成長させて社会への影響力を大きくし、社会を良くしていくことだと思います。「ラバブルマーケティング」というコンセプトや、「人に地球に共感を」というパーパス、働き方やメンバーに対する考え方などに共感していただける方に、しっかり応えていきたいと考えています。