この記事は2023年2月15日に三菱総合研究所で公開された「ウィズコロナ下の世界・日本経済の展望|2023年2月」を一部編集し、転載したものです。
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二)は、2月半ばまでの世界経済・政治の状況、および日本の2022年10-12月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
ウィズコロナ下の世界・日本経済の展望|2023年2月(全文)[4.6MB]
世界経済
世界経済は緩やかに減速している。世界的な物価高と金融引き締めによる内需の下振れに加え、コロナ感染拡大による中国経済の一時的な失速が背景にある。
一方、先行きの世界経済は、成長の大幅減速を回避しインフレ抑制と成長を両立できる可能性が高まってきた。米欧経済では、堅調な雇用環境が物価高・金融引き締めの悪影響を緩和する。中国経済もゼロコロナ政策解除、および成長重視の政策運営への転換で成長が上振れる見通しだ。23年の世界経済の成長率は前年比+2.1%と、前回11月時点の同+1.8%から上方修正する。24年は世界的にインフレが収束に向かい各国中銀も利下げに転じることから、同+2.8%と成長回復を予測する。世界経済の注目点は次の3つだ。
①米欧のインフレと金融政策
米欧経済は、金融引き締め下でも労働需給は逼迫した状況が続く見込み。堅調な雇用・所得環境は景気にはプラスだが、賃金との連動性が高いサービス物価の押し上げ要因となり、インフレの鎮静化を遅らせる。米欧中銀は、23年半ばに利上げを停止するものの、インフレ再燃への警戒から、23年中は政策金利を同水準で維持する見込みだ。利下げに転じるのは、労働需給の緩和などからサービス物価の伸び低下を確認できる24年入り後となろう。
②中国の成長重視の政策運営
米欧経済が23年は低めの成長にとどまる一方で、中国経済は23年に成長率を高める見込み。背景には、低成長にとどまった22年の反動に加え、ゼロコロナ政策の解除による経済活動の正常化、並びに中央経済工作会議で公表された成長重視の政策運営方針がある。同会議では5つの重点任務の第一として消費主導の内需拡大が打ち出された。中国の消費回復は、アジア周辺国や資源国への波及も見込まれる。ただし、中国の需要拡大が世界のエネルギー需給を逼迫させる面には留意が必要だ。
③不安定な国際情勢
ウクライナ情勢や米中対立など、地政学リスクへの警戒感から、経済への悪影響が想定される。第一に、地政学リスクの高まりによるエネルギー在庫の積み増しは、需給の逼迫要因となる。23年はエネルギー需要の高めの伸びが想定される一方で、供給拡大余地は限定的だ。第二に、経済安全保障の強化だ。米国は自国の技術力強化に大規模な予算を投じるほか、台湾や韓国など他国も巻き込んで中国への先端技術の流出を阻止する方針だ。世界経済の分断に発展する可能性は低いものの、先端技術や重要物資に限定されるかたちで、既存のサプライチェーンの修正が進むだろう。
24年にかけての世界経済のリスクは3つある。いずれも発生確率は相対的に低いものの、発生すれば世界経済の成長率を大きく押し下げかねない。第一に、インフレ抑制の難航による金融引き締めの長期化、第二に、中国不動産業界の不良債権問題悪化による中国経済の成長失速、第三に、地政学的対立のエスカレートによる世界経済の分断である。
日本経済
日本経済は、経済活動の正常化を背景に内需を中心に持ち直し傾向にある。23年度以降は、内需を中心に1%台の成長を維持するとみる。個人消費は、物価高が家計の購買力を下押しするが、人手不足などによる賃金上昇が下支え要因となりペントアップ需要も顕現化が見込まれる。設備投資は、デジタル化・脱炭素化など、中長期視点の投資が着実に進むだろう。輸出は、中国経済の持ち直し、インバウンド消費の回復(GDPを前年比で+0.3%ポイント程度押し上げ)などを背景に緩やかな回復が見込まれる。消費者物価は資源高・円安の影響が落ち着く24年度でも2%近い伸びが見込まれ、日本銀行は、24年初にも現行の長短金利操作の解除に踏み切るだろう。実質GDPは、23年度は前年比+1.5%(前回12月時点から上方修正)、24年度は同+1.2%と予測する。
米国経済
米国経済は、物価高・金融引き締めの逆風下でも良好な雇用環境を背景に堅調を維持している。23年は既往の金融引き締めの影響から成長減速するものの景気後退は回避し、24年にはインフレの落ち着きや利下げを背景に成長率は持ち直すとみる。FRBの金融政策は、インフレ圧力の緩和を受けて23年半ばで利上げを停止するだろう。利下げに転じるのはサービス物価の落ち着きが確認できる24年入り後となろう。実質GDPは、23年は前年比+0.9%(足もとの雇用所得環境の堅調を映じて前回11月時点から上方修正)、24年は同+1.5%と予測する。
欧州経済
ユーロ圏経済は、物価高やエネルギー制約が重しとなり成長が減速している。23年は、エネルギー問題が引き続き経済活動の制約となるなか、既往の利上げにより住宅や投資を中心に経済活動が抑制され、0%程度まで成長が失速する見込み。深刻なものにはならないが景気後退に陥る可能性も残る。24年は、インフレの落ち着き、エネルギー供給制約の緩和などから成長回復を見込む。ECBの金融政策は、インフレ圧力の緩和を受けて23年半ばで利上げを停止するだろう。利下げに転じるのは24年入り後を見込むが期待インフレが高止まりしており、後ずれする可能性もある。実質GDPは、23年は前年比+0.1%(暖冬によるエネルギー需給緩和を映じて前回11月時点から上方修正)、24年は同+1.5%と予測する。
中国経済
中国経済は、コロナの感染拡大から足もとでは成長が減速している。23年以降は、中国政府が掲げる中長期の成長目標達成に必要な前年比5%程度の成長への回帰を見込む。背景には、ゼロコロナ政策の解除、および経済成長重視の政策運営への転換がある。3期目となる習政権は、不動産市況の回復、イノベーション実現、対外開放推進に注力する方針だ。物価が安定するなか、雇用環境の改善などを背景に内需中心の回復継続を見込む。実質GDPは、23年は前年比+5.2%(成長重視の政策運営への転換を受けて前回11月時点から上方修正)、24年は同+4.8%と予測する。
ASEAN経済
ASEAN5は、コロナ感染の落ち着きやインバウンド需要の回復もあり堅調な成長を維持している。23年以降は、底堅い消費、中国経済回復の恩恵から成長軌道を継続することを見込む。コロナ危機からの回復によるペントアップ需要は一巡が見込まれるものの、インフレ圧力の緩和、良好な雇用環境が消費の下支えとなる。ASEAN5は近隣国として、中国向け輸出拡大やインバウンド需要回復といった中国経済回復の恩恵も大きい。実質GDPは、前年比+5.2%(前回11月時点から不変)、24年は同+5.0%と予測する。