特集『Hidden unicorn企業 ~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。
今回は、システムエンジニアリングサービスを提供する株式会社アイ・ディ・エイチ代表取締役社長の伊藤 貞治氏にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=井澤梓)
大手SI企業の営業職にて就業し、入社1年で全国240名の営業職員の中でTOP3の売上を記録。
その後ベンチャー企業にヘッドハンティングにて転職。営業力を強化するために技術職に転向し、僅か1年で中間管理職になる。その後3年でPM職に転向し、さらに2年後にコンサルティング職に転向。
プロジェクトマネジメント、セキュリティ、IT中長期計画、DR等のコンサルティングを強みとする。
30件以上の案件を同時にマネジメントする中で、一番重要な事は技術力だと痛感。エンジニアが一生涯活躍できる場を提供するべく、2014年に資本金10万にて株式会社アイ・ディ・エイチを創業。
目次
案件単価の70%を社員に還元し、大きく成長
ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
アイ・ディ・エイチ代表取締役社長・伊藤 貞治氏(以下、社名・氏名略)システムエンジニアリングサービスの提供を中心に、システムコンサルティングやマネジメント、プロジェクト運営、お客様のシステムサポートなど、幅広く対応しています。
強みは、高いモチベーションとスキルが伴ったエンジニアが揃っているところです。他社と大きく異なるのは、エンジニアが案件を選べることです。そのため、高いモチベーションで能動的に仕事ができます。エンジニア本人も能力や交渉力を日々磨いていますが、顧客との交渉を行うコーディネーターという職種も配置しています。コーディネーターがエンジニアの強みや思考を把握し、顧客とエンジニアの間に入ってサポート業務を行っています。
当社では、営業をほぼしていません。新規開拓営業を行うよりも既存顧客から信頼を得て、ご依頼いただく業務の拡大を目指したことで大きく成長することができました。それを実現したのが、コーディネーターのシステムです。案件数を増やすことに重きを置いた結果、他社とは異なるコーディネーターのシステムが確立し、エンジニアが案件を選べる体制も実現しました。現在は、1人のコーディネーターが30人ほどのエンジニアを担当しています。
また、案件単価の70%をエンジニアに還元しており、わかりやすく納得感のある給与体系も当社の特徴の一つです。
案件を選べることが高い満足度の秘訣
ーー残業が少なく有給休暇消化率が高く、キャリアアップできる企業として選ばれた実績もありますが、働きやすい環境を実現させる秘訣は何でしょうか。
案件を選べることは、エンジニアの満足度を非常に高めるようです。加えて、年収もですね。当社の社員は95%が中途入社ですが、圧倒的に年収が上がったという声が多く、2倍になったという社員もいます。
その他で、特別なことをしているつもりはありません。当社は、成果の対価として顧客からお金をいただいているわけですから、業務を遂行できていることがすべての大前提です。業務をしっかりこなせているのであれば有給休暇も自由に取れますし、成果が出ていれば給与も上がります。このような「当たり前」を整えることが、働きやすい環境の実現につながるのではないでしょうか。
社員から好評な制度に、クラブ活動があります。英会話やゴルフ、カラオケ、キャンプなど、多様なクラブがありますね。会社に申請するとクラブ活動費が補助されます。スキルアップや息抜きにつながっていますし、チームワークの向上にも役立っていると思います。私も時々参加して、社員と交流しています。業務に支障がなければ副業もできますし、フレックス制度もあるので働く時間も融通が利きます。
向上心があれば確実に成長できる環境
ーーエンジニアの採用が年々難しくなっていますが、スキルの高いエンジニアを採用する秘訣は何でしょうか。
これも、特別なことをしているつもりはありません(笑)。ですが「エンジニアファースト」であることは、ずっと変わらず大事にしています。
採用では向上心があり、かつ具体的な行動も伴っている人かどうかを見ます。学校やセミナーに通っている必要はありませんが、本で勉強したり、個人でWebサイトを作ったりして能動的に行動している人は、入社後も業務の実行力が高いと思います。
弊社は管理職を設けておらず、全員が対等の立場です。そのため、個人の行動力がないと成り立ちません。積極的に自ら行動できる人が活躍できる環境だと思います。
一方で、当社に向いていない人も表明しています。
具体的には、出世をしたい人、1人で黙々と仕事をしたい人、ご自身とその周辺の人を幸せにしようと思わない人です。当社は社員やお客様と「Win-Win」の関係ではなく、「Happy-Happy」になることを目指しています。目指すべきは勝ち負けではなく、社会全体の幸せだと考えているからです。向き・不向きを言語化して明示したことで、合わない人からの応募はなくなりました。
今後は新卒の採用にも力を入れる予定です。新卒採用が増えると、より面白くなると考えています。新卒社員にはインターンに参加してもらうのですが、「成長を約束するけどスパルタだよ」とあらかじめ伝えています。
それもあってか、入社後はすぐに現場に出て、即戦力として活躍してくれます。クライアントから、2〜3年経験を積んだエンジニアよりも高い評価を得ているメンバーもおり、嬉しく思っています。
早く成長したい人や、正当に評価されたいと考えている人はたくさんいますが、その環境を提供している会社はあまり多くありません。もちろん大変なこともありますが、覚悟と向上心がある人にはとても良い環境だと思います。成果を出している社員には新規事業なども任せていきたいので、今後は新卒社員が起こす化学変化にも期待しています。
自社用に開発したリモートワーク可視化システムを製品化
ーー開発中の新規事業について教えてください。
「リモラボ」という自社サービスを立ち上げました。リモートワークを可視化し、リモートワークの課題を解決するツールです。初期費用や導入費用は無料、パソコン1台あたり月額110円でご利用いただけます。作業を監視するようなツールではなく、リモートワークにおける不具合を察知し、困りごとをサポートするツールです。
「リモラボ」は、もともと自社で使うために開発しました。当社はコロナ前からリモートワークを導入していましたが、新型コロナウイルスの影響でリモートワークを導入する企業が増えたことをきっかけに製品化しました。
現在は他社にはお試しで提供しているフェーズですが「作業内容を見てもらっているからリモートワークの不安がなくなった」「集中できなかったリモートワークに適度な緊張感が生まれて生産性や効率が上がった」といった声をいただいています。
ーーリモートワークの課題とはどのようなものでしょうか。
いくつかありますが、大きな課題は生産性が落ちることと、行き詰まっている社員を見つけにくくなることです。他にも、サボる人や、仕事を抱え込み、こっそり残業をする人などが出てきます。
業務がどこまで進んでいるか、真面目に働いているか、働き過ぎていないかは、基本的には本人の申告から判断するしかありません。
しかし実際の成果を見ると、勤務時間と成果が見合っていないこともあります。「リモラボ」を導入いただくと業務状況を可視化できるので、手が止まっていたり、問題が生じたりした際に手を差し伸べられます。
実際に自社で「リモラボ」を使ったところ、安定的に稼働する人が増えました。上場を目指す企業のログ管理や残業時間の把握にも有効なので、今後はさらなる拡販を目指します。
他にも、いくつかの新規事業を構想しています。今後は、自社事業をもう1つの柱にしたいと思っています。現状の新規事業は私自身のアイデアがベースになっていますが、いずれはボトムアップで社員から新規事業が生まれれば嬉しいですね。
「やったことがない」ことに挑戦し、5年以内の上場を目指す
ーー今後の目標と展望を教えてください
5年以内の上場を目標にしています。まだまだやりたいことはたくさんあるので、その手段として会社を大きくしようと考えるようになりました。
そもそも、起業したのは「やったことがないことをやってみたかったから」です。起業当時は、会社を大きく成長させようとはあまり思っていませんでした。しかし、ニーズに応えるために人を増やしていったら、いつの間にか300人になっていました。仲間が増えるとできることが増え、やりたいことも増えていきます。そのようにして「上場を目指す」と明言するようになりました。上場も「やったことがない」ことなので、非常に楽しみです。
今後は新規事業の確立に加え、これまでやっていなかった新規営業にも力を入れていきます。まだ出会えていない顧客に出会い、お役に立つことで、新しい景色を見られたらと思っています。