賃上げへの対応策
ただ、賃上げとなると原資が必要だ。先に紹介したように、業績の改善が見られないなか賃上げの実施を予定している企業は6割以上に及ぶが、賃上げ対応策としてどのようなことを実施しているのか気になるのではないだろうか。そこで、賃上げ(予定)企業が実行している対応策を紹介しておこう。
この回答結果を見ると値上げ・価格適正化、販路拡大、コスト削減など業績改善に向けた取り組みをしている企業が多いことがうかがえる。一方で企業が自発的・持続的に賃上げできる環境整備としての支援策を求める声も多い。
中小企業が賃上げを実現するには、原資確保とともに取引価格の適正化、業務効率化、能力開発などといった経営環境の整備も必要になるだろう。
昨今の賃上げ状況
まずは、昨今の賃上げ状況について確認する。日本労働組合総連合会が2023年5月10日に発表した「2023春季生活闘争 第5回回答集計結果(2023年5月8日10時時点)」によると、2023年春闘で月例賃金改善(定昇維持含む)を要求した4,833組合中、76.2%にあたる3,686組合が妥結済みだ。そのうち2,146 組合(58.2%)は、賃金改善分を獲得した。
これは、2014年闘争以降、最も高い数値となっている。定昇相当込み賃上げ額の平均額は、1万923円(加重平均)となっており昨年同時期の賃上げ額より4,763円増加した。この傾向は、中小組合でも同様で300人未満の中小組合2,478組合の賃上げ平均額は8,328円(前年同期比3,331円増)という結果だ。中小組合においても比較可能な2013年闘争以降、最も高くなっている。
賃上げ企業の事例
具体的な事例をいくつか紹介しよう。自動車メーカーのホンダは、ベースアップ相当分と定期昇給分をあわせて月額1万9,000円の賃上げをした。自動車総連のなかでも賃上げ額は最も高い。パナソニックや日立、富士通、シャープ、村田製作所など電機連合各社は、そろって月額7,000円の賃上げだ。
賃上げで最も高い回答額を出しているのがセントラル硝子だ。その額は、定期昇給・ベアおよび賃金改善分を合わせて3万7,730円(13.23%増)となっている。なおセントラル硝子は、物価高騰による生活支援を目的として新卒初任給(2023 年 4 月入社)の改定および在籍社員の処遇改善をする旨2022年12月に発表している。
中小企業では約6割が賃上げを実施予定
賃上げの波は、中小企業にも及んでいる。2023年3月28日に日本商工会議所と東京商工会議所が公表した「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」によると、回答を得られた3,308社(調査対象6,013社)のうち58.2%の企業が2023年度に「賃上げを実施予定」と回答した。これは、昨年同時期に比べて12.4ポイント多い。
賃上げ率は、近年の中小賃上げ率(2%弱)を上回る「2%以上」とする企業が58.6%、足下の消費者物価上昇率を概ねカバーする「4%以上」とする企業は18.7%という状況だ。