本記事は、片田智也氏の著書「職場ですり減らないための34の『やめる』」(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

正解
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正しさにこだわるのを、やめる

職場ですり減らないための34の「やめる」
「職場ですり減らないための34の『やめる』」から引用

哲学者、ソクラテスはこういっています。

「誰ひとりとして悪を欲する者はいない」

どんな悪事も「悪いことをしよう」と思ってするわけではない、という意味です。

「いや、どう思っていようが悪いことは悪いし、間違っている!」

その通り。たとえば、犯罪行為は間違っていますし、正しくはありません。

でも、そういった行為に至った経緯や理由はかならずあります。つまり、どんな行為であっても「その人なりの正しさがある」ということです。

どちらが正しいかで争った経験はあなたにもあるでしょう。

「いや、それは間違ってるよ」「どう考えても正しいのは私でしょ?」「常識で考えれば……」「普通に考えて……」。あなたは「自分が正しい」と思って主張しているはず。ですが、それは相手にとっても同じことなのです。

「間違っている」と思って何かを主張する人はいません。

どちらも「私のほうが正しい」と思っているのです。正しさを巡って不毛な戦いを続けていれば、心はみるみるすり減っていきます。

なぜ私たちは、こうも正しさを振りかざしてしまうのでしょうか。

端的にいえば、「人は悪を懲らしめるのが好きだから」です。善を勧め、悪を懲らしめる。いわゆる「勧善懲悪」にはエンタメの要素があります。

たとえば、アンパンマンや水戸黄門は勧善懲悪の代表例。ばいきんまんや越後屋のような悪役を懲らしめて、ハイ一件落着。昔から変わりません。

いつも似たようなストーリー。それにもかかわらず人気が衰えないのには、きちんと理由があります。じつは、悪人を懲らしめることは「気持ちいい」のです。

太古の昔、狩猟採集時代をイメージしてください。

私たちの祖先は、マンモスを狩ったり、果物をとったり、木の実を集めたり、ほぼ例外なく集団で助けあいながら生活していました。

生き延びるには、足並みを揃えなくてはならない過酷な時代。身勝手な輩が1人でもいれば、わが身にまで危険が及びます。「ルールを乱すヤツは排除しなければ……」。そうすることに気持ちよさを感じる方向へ進化の圧力が働いたのです。

そして、私たちの心のしくみは、この頃につくられたもの。だからこそ、私たちは「悪い人」や「間違っている人」を本能的に許せないのです。

悪人を打ちのめす気持ちよさ、間違いを正す爽快感。

一瞬、スカッとするかもしれません。でもそれは、心の穏やかさとはかけ離れたもの。正しさへのこだわりは、間違いを探すことを意味します。「悪いヤツはいないか?」目を皿のようにして、正すべき対象を探すことになるでしょう。

とはいえ、客観的に間違っていることはありますし、それは正すべきです。

遅刻を繰り返したり、いつも同じミスをしたり、パワハラ発言をしたり……。

それらは、会社という集団において明らかに「悪いこと」です。でも、思い出してください。どんな行為にも「その人なりの正しさ」があることを。

「どう考えても自分のほうが正しい」と感じたときほど注意しましょう。相手にもそう思うだけの理由がありますし、それは本人にとって正しいものなのです。

「絶対に自分は正しい」と悪を懲らしめる前に、こう尋ねてみてください。

「なぜそれが正しいのか、私も理解したいので教えてもらえませんか?」

自分の正しさにこだわらず、相手にとっての正しさを問うのです。きちんと耳を傾ければ、相手もあなたの正しさを聞こうとするでしょう。

正しさを巡る戦いに付きあわないこと。勧善懲悪の誘惑に負けないでください。そうすれば、ムダに心がすり減ることもなくなるはずです。

まとめ
自分の正しさにこだわらず、相手にとっての正しさに耳を傾ける
職場ですり減らないための34の「やめる」
片田智也
一般社団法人 感情マネージメント協会代表理事 公認心理師、産業カウンセラー
大学卒業後、20代で独立するがストレスから若年性緑内障を発症、視覚障害者となる。同年、うつ病と診断された姉が自死。姉の死の真相を知るため、精神医療の実態や心理療法を探求、カウンセラーに転身する。教育や行政、官公庁を中心にメンタルケア事業に多数参画。カウンセリング実績は延べ1万名を超える。カウンセリングから企業コンサルティング、経営者やアスリートのメンタルトレーニングまで、心の問題解決に広く取り組む。企業研修やセミナーの受講者は延べ2万名以上。著書に『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本 何をしてもダメだった心が強くなる習慣』(PHP研究所)、『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』(ぱる出版)がある。

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