本記事は、片田智也氏の著書「職場ですり減らないための34の『やめる』」(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

思いこみで自滅するのを、やめる

職場ですり減らないための34の「やめる」
「職場ですり減らないための34の『やめる』」から引用

「私、あの人に嫌われているかもしれない」「仕事ができないヤツって思われていたらどうしよう」「みんなから陰口をいわれてるような気がする」。

思いこみかもしれない。でも、そうとしか思えないときはあるものです。

「私がそう思いこんでいるだけだよね……」

頭ではわかっていても、不安は無限に湧いてきます。

不安とは、リスクに対し、行動するように動機づける感情。「何かしなきゃ」。いてもたってもいられなくなるはずです。よけいなひと言をいったり、不用意な振る舞いをしたり、必要以上に確認をしたり。いわゆる自滅をしてしまう。

思いこみに振り回されていれば、心が疲れてしまうのは当然でしょう。

人間を含め、動物は起きた物事を五感によって認識しています。視覚や聴覚で世界を認識している点は、イヌでもネコでも変わりません。

でも、認識したものの意味を考えるのは、私たち人間だけです。

たとえば、報告書を提出しにいった際、上司に目を逸らされた……。

「あれ……私って嫌われているのかな……?」

認識した事実に対し、自分で意味を考えてしまうのです。

いったいなぜ私たちは意味づけをしてしまうのでしょうか?

「黒ネコが目の前を横切った、不吉だ……」

意味づけが起きるのは、なるべく早く危険を把握するためです。

実際に不吉なことが起きてしまってからではもう遅い。前もって最悪のパターンを想定しておけば、身を守るための回避や準備をすることができます。

よい思いこみより、悪い思いこみのほうが多いのはそのためです。

こういった心の動きは、すでに紀元前には発見されていました。

この手の思いこみのことをギリシャ語で「パンタシア」といいます。英語のファンタジーの語源、つまり空想や妄想、幻といった意味です。

幻に惑わされてしまうのは、普遍的な悩みといえます。

言葉によって事実以上の意味づけをしたり、勝手な幻を見たりするのは誰にでもあること。それ自体、特に悪いものというわけではありません。

よくないのは、自らの手で幻を現実に変えてしまうことです。

カウンセリングをしていると、こう訴える方がたまにいます。

「私の人生、いいことなんてひとつもありません」

「ひとつぐらいないですかね?」と聞いても、「ないです、悪いことばかり起きます」と聞きいれてもらえません。そう思いこんでいるのでしょう。

では、実際に悪いことが起きると? 「ホラ、やっぱりね!」

どこか得意気に、何ならちょっとうれしそうなのです。思いこみが恐ろしいのは、それが現実であることを自ら証明しようとしてしまうこと。

幻を現実と思いこむことによって、自滅の悪循環が始まります。

人間関係がうまくいかない原因のほとんどが、それでしょう。

「嫌われているのかもしれない」「嫌がらせをされているのかも……」「あの人は悪意をもって攻撃してくる」。そう思ったら、こう口にしてみてください。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

意味づけによって思いこみが生まれるしくみは変えられません。重要なのは、それが客観的な現実なのか、主観的な幻なのか、自分でわかることです。

「これは私が勝手に思いこんでいる可能性が高いな……」

安心してください。信じさえしなければ、幻が現実になることはありません。事実以上のことを意味づけしていないか、客観視する習慣をつけましょう。

思いこみによる自滅がなくなれば、心のすり減りも軽くなるはずです。

まとめ
事実以上のことを思いこむのをやめて、幻の可能性に気づいておく
職場ですり減らないための34の「やめる」
片田智也
一般社団法人 感情マネージメント協会代表理事 公認心理師、産業カウンセラー
大学卒業後、20代で独立するがストレスから若年性緑内障を発症、視覚障害者となる。同年、うつ病と診断された姉が自死。姉の死の真相を知るため、精神医療の実態や心理療法を探求、カウンセラーに転身する。教育や行政、官公庁を中心にメンタルケア事業に多数参画。カウンセリング実績は延べ1万名を超える。カウンセリングから企業コンサルティング、経営者やアスリートのメンタルトレーニングまで、心の問題解決に広く取り組む。企業研修やセミナーの受講者は延べ2万名以上。著書に『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本 何をしてもダメだった心が強くなる習慣』(PHP研究所)、『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』(ぱる出版)がある。

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