本記事は、片田智也氏の著書「職場ですり減らないための34の『やめる』」(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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「伝わる前提」を、やめる

職場ですり減らないための34の「やめる」
「職場ですり減らないための34の『やめる』」から引用

「どうしてわかってくれないの?」「そういう意味じゃないんだけど」「ちゃんと伝えたはずなのに何か食い違ってるな」。いいたいことが伝わらないのは苦しいものです。誤解されたり、反論されたり、勝手な解釈をされたり……。

「伝わらない」が続けば、心がすり減ってしまいます

同じ日本語なのに、なぜこうも伝わらないのでしょうか?

ひとつの言葉でも、その受け取り方は人それぞれ違います。

特に、大きな違いが出るのが抽象的な言葉です。たとえば、「目的」「原因」「能力」といった概念的なもの。共通の定義はあっても、受け取るニュアンスは十人十色でしょう。なぜ人によって解釈や受け取り方が違ってくるのでしょうか?

なぜなら、この手の言葉には「実体が存在しないから」です。

たとえば、「そこのペットボトルを取って」と伝えて紙コップを渡されることはまずありません。でも、「顧客の信頼を回復させる計画を立てて」と伝えたら?

逆に、思った通りのものを渡されることはほとんどないはずです。

ペットボトルのような実在するものは目で確認したり、指で差したりできます。でも、「顧客」や「信頼」は実体として存在しているわけではありません。

「言葉は同じでも違うものを指していた」なんてことはよくあります。

だとすれば、誤解や食い違いが生じてしまうのも当たり前でしょう。

愛情や信頼、正義、勇気、能力、平和……。大切なことというのは、たいてい実体のない、抽象的なものです。「同じ言葉なんだし、いえば伝わる」というわけではありません。この手の言葉が出てきた場合は、細心の注意が必要となります。

では、どう気をつければ誤解や食い違いを防げるのでしょうか?

シンプルな話、言葉のニュアンスを徹底的に確認することです。

「顧客」とは、具体的に誰を指しているのか?
「信頼」というのは、どういう状態なのか?
「回復」というのは、何をもって判断するのか?

ただし、確認するのは「一般的な定義」ではありません。私にとってのニュアンスを言語化したり、相手にとってのイメージを確認したりするのです。

重要なのは、「なんで伝わらないんだ?」を終着点にしないこと。むしろそこから始めるすり合わせ、それが本来的なコミュニケーションの性質です。

これからは「伝わらない前提」を意識してください。伝わらない前提というと、ネガティブに聞こえるかもしれません。でも、効果はとてもポジティブです。

たとえば、伝えたいことが10あったとして、実際に伝わったのが5だったとします。その場合、「8ぐらい伝わるのが普通でしょ」と考えるのが「伝わる前提」。「5しか伝わらない……」となるため、当然、不満を感じることになります。

では、伝わる基準をもっと下げて考えるとどうなるでしょうか?

「2とか3ぐらい伝わればいいか」。これが「伝わらない前提」です。

「5も伝わったんだ、よかった!」と満足を感じることができます。

「伝わらない前提」といっても、「どうせ伝わらないし」とふてくされて諦めることではありません。「ただ言葉にしているだけでは伝わらない」。その事実を受けいれた上で、それでも伝えることを諦めない姿勢のことをいいます。

「伝わる前提」ではなく「伝わらない前提」で話しましょう。

抽象的な、つまり大事なことを話すときほど気をつけてください。

「伝わらない前提」を心がけていれば、コミュニケーションのずれにも寛容になれます。そうすれば、誤解や食い違いによって心が疲れることも減るはずです。

まとめ
「伝わる前提」をやめて「伝わらない前提」で意味をすり合わせる
職場ですり減らないための34の「やめる」
片田智也
一般社団法人 感情マネージメント協会代表理事 公認心理師、産業カウンセラー
大学卒業後、20代で独立するがストレスから若年性緑内障を発症、視覚障害者となる。同年、うつ病と診断された姉が自死。姉の死の真相を知るため、精神医療の実態や心理療法を探求、カウンセラーに転身する。教育や行政、官公庁を中心にメンタルケア事業に多数参画。カウンセリング実績は延べ1万名を超える。カウンセリングから企業コンサルティング、経営者やアスリートのメンタルトレーニングまで、心の問題解決に広く取り組む。企業研修やセミナーの受講者は延べ2万名以上。著書に『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本 何をしてもダメだった心が強くなる習慣』(PHP研究所)、『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』(ぱる出版)がある。

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