本記事は、林恭弘氏の著書『「嫌いな人」のトリセツ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

コミュニケーション
(画像=Drazen / stock.adobe.com)

「苦手な人」との遭遇

「不快を感じる人間関係」という切り口で、「怖い」または「イライラする」というキーワードで絞り込むと、さらに「苦手な人」の存在が浮かび上がってくるでしょう。

  • 陰で足を引っ張ろうとする「卑怯者」
  • ネチネチと嫌味を言い続ける「靴底に付いたチューインガム型」
  • 何を考えているのか表情に出ない「能面さん」
  • とにかく細かいことまで突っ込んでくる「あら捜し屋」
  • 理論・理屈でおしまくる「ロジカルさん」
  • 人によって態度をコロコロ変える「カメレオン」
  • 自分が正しいと信じて疑わない「ガンコ者」
  • 自分にも他人にも優しく出来ない「悲劇の主人公」
  • 心配性で無駄な行動が多い「慎重さん」
  • 何度言っても同じ失敗をする「リピートさん」
  • 叱るとすぐに落ち込む「しおれ花」
  • 口は達者だが行動がともなわない「有言不実行型」
  • 愚痴と不幸話しかしない「究極ネガティブ」

などなど、「苦手な人」を細分化すると膨大なケースにのぼり、「いつあなたが苦手な人に遭遇してもおかしくない」とも言えるのではないでしょうか。

もちろん、「ちょっと怖いけれど、うまくやれている」人との関係や、「イラつくけれど許容範囲内かな」という関係のほうが多いものです。しかし問題は、その許容範囲を超えた〝苦痛を感じる〞ほどの相手との関係を改善することです。

なぜ、その人にイラついてしまうのか
その人が理解できないからです

あなたが〝イライラする〞〝ムカムカする〞「苦手な人」に焦点を当てていきましょう。

整理したところでは、「イライラする」という感情の源は、「ペースが合わない」「価値観・常識が違う」「成熟度が違う」などでした。

あなたの日常生活において、イライラするときは、たいていこれらの要素を含んでいるはずです。

例えば、朝の満員電車に乗って、何とか座れたと安心し、目を閉じてゆっくりと今日の仕事の段取りを考えようとしているとします。そのとき隣の席のお兄ちゃんが、ガンガンのロックをヘッドホンから垂れ流していると、あなたはとてもイライラするはずです。それは、あなたのワルツのようなリズムと、お兄ちゃんのガンガンロックの「ペースが合わない」からです。

「別に成功とか、成長なんて仕事に求めていませんよ。やるべきことはやりますけど、それは食べていくための手段でしょう」という、後輩のやけに冷めた顔を見ていて、あなたは許せない気持ちになるかもしれません。それは、「仕事こそが人間成長の場である」という、あなたの価値観ゆえかもしれません。思わず言いたくなるセリフは、「それで働いていて、何がおもしろいの? 理解できない」

待ち合わせをするたびに、30分以上遅れてくる友達に対してイライラするのは、「友達といえども、約束は必ず守るべき」というあなたの常識からすると、理解できないからでしょう。

あなたの部下として配属された新入社員は、挨拶をさせても蚊の鳴くような声で、簡単な業務を教えても呑み込みがやたらに遅い。少人数で多岐にわたる業務をこなさなければならないというのに、「はずれクジを掴まされた」「こいつはなぜ、こんなにトロいんだ」とイラつくばかりです。

息子はもう小学生高学年なのに、忘れものばかりして先生からはいつも指導される。宿題が出ていたことも完全に忘れていることがある。自分の意見がはっきりと言えないでウジウジとしている。

「わが子ながら、どうしてこんなんだろう」と、ついイラついて責め言葉が出てきてしまう。

こんな時には、「信じられない」「理解できない」という言葉が出てきてしまうものです。

『「嫌いな人」のトリセツ』より引用
(画像=『「嫌いな人」のトリセツ』より引用)

わからないことは拒絶したくなる

人間は、「理解できないもの」つまり「異質なもの」に遭遇すると、大きなストレスを感じます。こちらのペースを崩し、現在の状態に影響を及ぼし〝変化させてしまう〞可能性があるからです。

人間は〝変化〞をとても嫌うのです。

「変わったほうがいいだろうな」と思ったとしても、変化することを恐れるのです。

その理由の1つとして、人間には「恒常性機能」というものがあります。これは、「常に変わることなく、一定の状態を保つ機能」というものです。

例えば、心拍は1分間に60回前後で安定していますし、体温は36度前後を維持しています。呼吸も1分間に15回ぐらいです。これらは意識しなくても、ありがたいことに一定を維持してくれているのです。なぜならば、生命を維持するためには一定を保ち続ける必要があるからです。

風邪のウイルスが体内に入ってくると、免疫機能が働きだし、ウイルスをやっつけるために38度や39度ぐらいまで発熱しますが、やっつけてしまえば再び36度で安定します。100メートルを全力疾走すると脈拍は120ぐらいまで上がり、不足した酸素を筋肉に送ってくれますが、酸素が行き渡ればまた60で安定します。

つまり、〝変わる〞ということは異常事態であって、恒常性機能はたちどころにその異常を察知し、元の安定状態に体を維持しようと働くのです。

そして、人間には身体の恒常性機能だけではなく、〝心の恒常性機能〞もあります。

これは身体とあわせて〝生命の恒常性機能〞と言うべきもので、やはり「変化」を「異常事態」=「不安」と感知し、元の状態に戻そうと、変化しないように必死で抵抗します。変化しないほうがリスクも少なく、不安からくるストレスを受けずに済むからです。

ですから、あなたが「変わったほうがいいなあ」と頭でいくら考えたとしても、本能では不安とストレスを感知しますから、変わることを拒絶してしまうのです。

さて、イライラする「苦手な人」にこのことを重ね合わせてみてください。あなたと〝異質なもの〞を持っている相手と遭遇すると、あなたの恒常性機能は反応し、〝異常事態〞と察知するはずです。だから、思わず「信じられない!」「理解できない!」という言葉が出てきます。

『「嫌いな人」のトリセツ』より引用
(画像=『「嫌いな人」のトリセツ』より引用)

しかし本当は、「理解できない」のではありません。その相手から影響を受ける、あるいは変わることがストレスになるため、自分の肌に合わないものは、〝わかりたくない〞〝受け入れたくない〞という拒絶の心理が働くのです。

『「嫌いな人」のトリセツ』より引用
林恭弘(はやし・やすひろ)
ビジネス心理コンサルティング株式会社代表取締役。
日本ビジネス心理学会参与。日本メンタルヘルス協会特別講師。
幼児教育から企業を対象とする人事・教育コンサルタントの分野まで講演・研修会、セミナー、著作などにて幅広く活動。
「活力ある社会とやさしい家庭を創造する」をテーマに、日常生活に実践的ですぐに使える心理学を紹介する。
著書に『「落ち込みグセ」をなおす練習』『自分の気持ちを伝えるコツ50』『誰といても疲れない自分になる本』『世界一やさしい人間関係の教科書』(いずれも総合法令出版)などがある。

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