本記事は、林恭弘氏の著書『「嫌いな人」のトリセツ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ビジネス
(画像=Halfpoint / stock.adobe.com)

同じレベルだからイラ立つのです

人間関係のトラブルは、「相手と、自分が同じレベル」だから起こるのです。

身近な例をあげてみると、親子ゲンカなどはその典型でしょう。立場と年齢は「親と子ども」ではありますが、ケンカの真っ最中は「同じレベル」です。互いに感情的になり、目を吊り上げ、ひどい言葉で応戦します。本人たちは熱中しているので無自覚ですが、どれだけもっともらしいことを言ったとしても、結局は「どっちも、どっち」なのです。

今から20年ほど前になりますが、テレビ番組の企画で「小学生の子ども100人に聞きました。親に望むことは何ですか?」というアンケートがありました。「お小遣いを上げてほしい」「ディズニーランドに連れて行ってほしい」「新しい自転車を買ってほしい」などが上位に出てくるのかな? と予想していたのですが、なんと1位の回答は「もうちょっと、オトナになってほしい」でした!

たしかに、わが子とケンカをするというのであれば、「親」という立場から外れ、子ども同士のように感情をぶつけあっているわけですから、子どもから見ても「親」に見えるわけはありません。まあ、家族ですからそんなものでOKだと思いますが。

そんなとき、子ども(相手)の未熟さを、かつて自分も通った道だと受け入れ、辛抱強く見守ろうという、〝オトナの意識と対応〞をすればケンカになりません。

忘れ物やテストの不出来を感情的に責めるのではなく、穏やかに諭すことを繰り返すほうが、子どもの心には浸透しやすいです。親である自分もイライラの感情をストップすることができます。上司・部下や先輩・後輩の関係でも同様で、失敗や未熟さを感情的に責めるのではなく、冷静に繰り返し指導するほうが相手の成長を早めることにつながります。

子どもや部下・後輩から見ると、自分とは違う「落ち着いた」感情レベルで働きかけてくれるあなたを、「一段高いレベル」だと認識するのです。

違う〝レベル〞に自分を置いてみるだけで、人間関係のトラブルは一変することがあるのです。

『「嫌いな人」のトリセツ』より引用
(画像=『「嫌いな人」のトリセツ』より引用)

以前ビジネスの交流会で、〝どんなご要望にも応える何でも屋〞という男性にお会いしたことがあります。最高に素敵な笑顔が印象的でした。

笑顔が素敵だと、思わず話しかけてしまいます。「本当に〝どんな要望〞にも応えるのですか?」と、〝思うツボ〞の質問をすると、「そうですよ。どんなご要望にもチャレンジします。でもさすがに、どうしたってできないこともありますけれど」と正直に答えていただきました。「うちのばあさんを生き返らせてくれ」「モテる男にしてくれ」「明日までに2,000万円の借金を返済しなければならない。何とかしてくれ」「不老不死の薬を探してくれ」「妻が自分に優しくなるように」などなど。とんでもない依頼まで彼の元には来るのです。

中には、「本当に〝何でも応えられるのか〞試してやろう」という意地悪で、無理難題を言ってくるお客もいることでしょう。

「正直言って、ムカつくことはないのですか?」と聞いてみると、また最高の笑顔で「ないですよ。お客様のご要望に応えられないのは、自分の力不足ですから。もしやってみてできなかったときは、誠実に一生懸命に謝らなければいけません」という、優等生の回答です。

さらに引き下がらずに尋ねてみました。「でも、明らかに意地悪や嫌がらせに近い気持ちで依頼する人もいるじゃないですか」そうすると究極の回答が返ってきました。「たしかに、そういう人もいるのかもしれません。脱サラしてこの仕事を始めたときは、『世の中はなんて厳しいのだろう。なぜこんなにも、自分を苦しめようとする人が多いのだろう』と思った時期もありました。でもそれは違います。そう思う自分が、自分を苦しめていたのです。お客様が難題を言われる背景にはさまざまなものがあります。寂しさ、悔しさ、苦しみなど、独りでは乗り越えられそうにないものがあるのでしょう。それは直接表現できないことも、解決もできないことが多いのでしょう。だから間接的に、私のところにご依頼が来るのです。そのご依頼に全力で取り組み、お応えしようとすることで、お客様自身が救われていくのです。独りではなくなるのです」

彼は〝何でも屋〞として、細々こまごまとした用事をこなすだけではなく、顧客の心を満たしているのです。「依頼に対するその姿勢は、宗教による影響ですか?」と聞いてみましたが、彼は無宗教者に近いようでした。

「でもね、おかげさまでずいぶん多分野の勉強をさせていただき、腕が磨かれましたよ」という超前向きな受け止め方です。死生観、宗教、人間関係、心理、離婚調停、銀行との交渉術、闇社会との縁の切り方、イタチの習性、スズメバチの駆除方法、ガーデニング等々……。彼は今や、他分野におけるスペシャリストのようです。

もし彼が、「いい加減にしろよ、人をバカにして!」という思いで対応していたら、おそらくは相手の悪意のままにハマり、彼の仕事人生は散々なものになっていたでしょう。そして意地悪や悪意から依頼してきた顧客も、きっとその後も別の人に悪意で接し続けたでしょう。

しかし彼の「全く違うレベルの受け止め方」により、無理難題にすり替えられた表面上の依頼とは違う、深いレベルで救われた顧客がほとんどなのです。彼に救われ、その後の人生さえ変わった人が多いのではないでしょうか。人への接し方も、悪意ではなく、少しでも善意あるものに変化したでしょう。事実、リピートされる顧客がほとんどなのだそうです。

そして何よりも、彼自身が豊かな人生と、仕事の意味を重ね続けているのです。

『「嫌いな人」のトリセツ』より引用
林恭弘(はやし・やすひろ)
ビジネス心理コンサルティング株式会社代表取締役。
日本ビジネス心理学会参与。日本メンタルヘルス協会特別講師。
幼児教育から企業を対象とする人事・教育コンサルタントの分野まで講演・研修会、セミナー、著作などにて幅広く活動。
「活力ある社会とやさしい家庭を創造する」をテーマに、日常生活に実践的ですぐに使える心理学を紹介する。
著書に『「落ち込みグセ」をなおす練習』『自分の気持ちを伝えるコツ50』『誰といても疲れない自分になる本』『世界一やさしい人間関係の教科書』(いずれも総合法令出版)などがある。

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