ブランディングを成功させた事例
企業によって適したブランディング戦略は異なるが、事例からは成功につなげるポイントやコツなどを学べる。ここからはブランディングの成功事例をまとめたので、自社のケースと照らし合わせながら参考にしていこう。
【事例1】新たな市場開拓へとつなげる商品ブランディング/Red bull
まずは、商品ブランディングの分かりやすい例から紹介しよう。
世界中で愛される「レッドブル」は、1987年創業の『Red Bull社』が開発したエナジードリンクである。日本にも似た特徴をもつエナジードリンクはいくつか存在するが、Red Bull社は以下のようなブランディングを行うことで、商品としてのアイデンティティを確立させた。
・「冒険者を称え、翼をさずける」をコンセプトに設定
・「エキサイティングな体験」「スリルや冒険」として宣伝
・F1をはじめ、有名なスポーツイベントへの参戦
特筆すべきポイントは、レッドブルを単なるエナジードリンクとしてではなく、「冒険」などの別のイメージとかけ合わせて売り出している点だ。このブランディングによって、従来の「疲れた人が飲むもの」「中年の男性が飲むもの」といったイメージは払拭され、今では世界中の幅広い年齢層から愛飲されるようになった。
こういった工夫によって商品・サービスに付加価値を与えることができれば、ブランディングは新たな市場を開拓することにもつながる。
【事例2】潜在客を取り込むための企業ブランディング/星野リゾート
日本全国に宿泊施設を展開する『星野リゾート』は、優れた企業ブランディングを実現している企業だ。サービスやデザイン、マーケティングに至るまでハイレベルなブランディングを行っているが、特に注目したいのは「ホスピタリティ・イノベーター」というコンセプトである。
本来、ホテル業界はホスピタリティ(サービス精神)にあふれており、多くのホテルでは親切で手厚いサービスを受けられる。荷物の預かりサービスやモーニングコールなどは今や常識的なサービスだが、星野リゾートが目指しているのは画一的な宿泊施設ではない。
同社にとってのホスピタリティ・イノベーターとは、自分たちのこだわりをサービスにすること。例えば、ホテルの展開地域に独自のコンセプトを設定し、周辺地域も含めた開発を行うことで、星野リゾートは特別な空間を演出し続けてきた。
ほかの企業と足並みをそろえることも重要だが、すべてのサービスを画一化すると潜在客は見込めない。特に中小企業は、顕在ニーズを取り合うと大企業から後れをとるケースが多いため、この事例のような考え方はぜひ参考にしておきたいポイントだ。
【事例3】リブランディングによるブランドの再構築/マツダ
自動車メーカーの『マツダ』と言えば、トヨタ・日産などに次ぐ業界トップクラスの企業だ。全国的にも有名な自動車メーカーだが、実はマツダはブランディングに失敗した経験がある。
マツダはかつて、新車の販売数を伸ばすために価格を大幅に値引きした。これは販売数を伸ばす戦略としては有効だが、結果的に同社のブランド価値は低下し、販売数以外の面に新たな問題が生じてしまう。
この失敗を経験したマツダは、新たな企業理念として「Be a driver」を掲げ直し、ナンバーワンではなくオンリーワンを目指す方向へと転換。この戦略によって他社との差別化に成功し、今では再び幅広い層のユーザーから支持されるようになった。
このように、一度行ったブランディング戦略を見直し、新たにブランドを構築することは「リブランディング」と呼ばれている。ブランディングは必ず成功するものではないため、失敗を自覚したら素早くリブランディングへと切り替えることを検討したい。
【事例4】商品を脇役として使うサービスブランディング/スターバックス
『スターバックス』と言えば、今では世界中に支店を展開しているカフェのチェーンである。コーヒーのイメージが強い企業だが、実は2011年から同社のロゴには「Coffee」の文字が使われていない。
これは、スターバックスがサービスの中心に“人”を据えており、あくまでコーヒーは「脇役にすぎない」と考えているためだ。このコンセプト通り、スターバックスの各支店は内装がこだわられており、コーヒーの香りが漂う居心地の良い空間がつくり出されている。また、バリスタの育成に力を入れている点も、人とのつながりを大切にしている姿勢の表れだろう。
サービスの質が向上し、結果的に多くのニーズを満たせるのであれば、必ずしも商品・サービスを中心に据える必要はない。実際にブランドを形成するのはユーザーや消費者なので、ブランディングに行き詰ったときには人を中心に据えることも検討してみよう。
【事例5】ターゲットを絞った効率的なアプローチ/スノーピーク
新潟県三条市に本社を構える『スノーピーク』は、キャンプ用品店やキャンプ場を運営する地方企業である。
キャンプのようなターゲット層が絞られる業界では、低コストな商品によって潜在客を取り込む方法が効果的に思えるかもしれない。しかし、スノーピークはあえてハイエンドかつ保証期間がない製品を提供することで、コアなファンを獲得し続けている。
さらに、ただの顧客本位ではなく「お互いの感動」を重視している点も、スノーピークならではのブランディングだ。例えば、会社でキャンプを楽しむだけのイベント(即売会などがない)を開いたり、自らもユーザーという立場で製品開発をしたりなど、経営者や従業員自身もいちキャンパーとして業務にあたっている。
このように、スノーピークはターゲット層を明確に絞ったアプローチを行うことで、「東京に本社がない」という弱点をしっかりと補っている。