本記事は、新田 龍氏の著書『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。

働き方改革と書かれたブロック、電卓、スマホ、カレンダー、ノート
(画像=ELUTAS / stock.adobe.com)

「残業を減らせ」「休みをとれ」と言うだけでは意味がない

よく見かけるのが、「残業を減らせ!」「休みをとれ!」と指示だけはしつつ、でも「仕事量とノルマはそのまま」「残業削減の方法はお前らが考えろ」と、従業員に丸投げ状態になっている会社です。

これは、改革どころか「対症療法」とさえも言えず、関わる者は全員シラけるだけ。何もやらないほうがまだマシといえるでしょう。

働き方改革に着手するならば、
「そもそも我々は、いつまでこんな利益の出ないビジネスを続けるのか?」
「仮に全社員が毎日ノー残業で定時退社したとしても成り立ち、充分な利益が見込める『付加価値の高いビジネス』をやるにはどうすべきか?」
という根本的な構造から考える必要があります。

その上で、
「『残業は悪』という概念を浸透させる」
「長時間働く人よりも、効率的に仕事をこなし、短時間で成果を上げている人を評価する」
といった形で、働く人のマインドと制度、双方にメスを入れる「根本治療」をしなければなりません。

働き方改革の実現によって、私たちの生活はより充実し、ワーク・ライフ・バランスが実現する「楽しい」ものになるはずです。しかしその実現に至る道のりは決して「楽(ラク)」ではありません。むしろ、ビジネスパーソンの生存競争が激化するといってもよいでしょう。

厳しい言い方をするならば、これまで我々は残業を前提とした「間延びした仕事の仕方」をしていました。

しかし、働き方改革を実践するとなると、「同じ業務量をより短時間、かつ高密度でこなす」ことが求められます。

労働時間が実質的に短くなる中で効率的に仕事をこなし、成果を上げられる人材の価値が高まるわけです。従前のようにダラダラと作業していた従業員は、自らの働き方を見直さない限り、組織に居場所がなくなってしまうかもしれません。

「平日毎日ノー残業デー」の会社が楽だと思ったら大間違い

組織を挙げて働き方改革に取り組んだ結果、実際に「月曜から金曜まで週5日、毎日ノー残業デー」を実現している会社があります。

では、その会社での仕事はラクかといえば、実態は真逆で、社員への要求水準は大変厳しいものです。なぜなら、普通の会社で残業しながら10時間程度でこなす業務量を、その会社では実質7時間で終わらせなければならないからです。

これまで間延びした仕事をしてきた人にとっては、業務の進め方や優先順位の付け方などを根本的に見直さなくてはならず、ひとつひとつのタスクをこなすスピードも格段に上げる必要もあり、頭も体力も使うことになります。

終業時間になる頃には「精根尽き果てる」といった様子で、「残業なく帰れる♪」というよりは「もう今日はこれ以上仕事できない……」という状態になってしまうのです。

実際、その会社の「毎日定時退社」という条件に魅力を感じ、長時間労働の会社から転職してきたとある社員は、確かに定時には帰れるようになったものの、あまりの仕事の密度の濃さに「社長、お願いですから残業させてください」と懇願したとか……。

「毎日がノー残業の会社」と聞くと、「緩い雰囲気のホワイト企業」をイメージする人が多いかもしれませんが、実態はこのように、ノー残業と引き換えの「高密度ハードワーク」が待っているかもしれません。

日本企業では、遅くまで残業している人を「頑張っている」と評価する風土がまだ根強く残っていますが、そのような牧歌的な時代はもう終わりです。現在は、より短い労働時間で、より高い成果を上げられる人こそが評価される時代に移行しているのです。

中小企業にとって、働き方改革は大きな朗報となる

この一連の流れは、真摯に事業をおこないながらも、資金力や知名度、立地などの点で大企業のこうじんを拝していた中堅企業や中小企業にとっては朗報と言えます。

自社の働き方を整えることで他社と差別化ができ、先進企業と呼ばれ、広告費を出さずともメディアが取材に訪れ、無料で広報してくれるのですから(もちろん、そのために改革するわけではないのですが……)。

実際に、小規模で知名度がなかった会社が、働き方を改善して業績向上したことで評判になり、大手メディアからの取材依頼や経営者への講演依頼が殺到したり、これまで見向きもされなかったような上位校出身者や即戦力の経験者からの応募が増加したりするなど、広報面、採用面で大きなメリットを得ている事例もあります。

働き方改革の「生みの苦しみ」を経て、成果を得られているケースもあるのです。

「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本
新田 龍(にった・りょう)
株式会社ヴィベアータ 代表取締役
株式会社就活総合研究所 取締役会長
キャリア教育プロデューサー/ブラック企業アナリスト
1976年奈良県生まれ。田舎での生活に飽き足らず、中学2年で会社経営を志し、高校から一人で上京。早稲田大学政治経済学部在学中に一度起業。99年卒業、非上場企業に入社し、事業企画担当。在職中に株式上場を経験。キャリアコンサルタントに転職し、新卒採用担当等を歴任。07年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。09年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。その他、TV・各種メディアでの、コメンテーター、講演、執筆など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。
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