本記事は、新田 龍氏の著書『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。
日本人を取り囲む、働く現状はどうなっている?
労働環境はどのように変化しているのでしょうか?
企業目線から見れば、モノはある程度充足しているので、よほどの付加価値か新たな切り口を提案できない限りは売れません。また、人件費も最低賃金も上がり続けているため、おいそれと残業もさせられません。
共働き家庭も当たり前になりつつあり、1997年には既に専業主婦家庭を割合で逆転しています。ただ一方で、高齢化による介護の必要性などから、育児や介護等の理由でフルタイム労働が難しい人の割合も増え、介護を理由にした年間離職者数は約10万人に上ります。
かつての人口増加・高度成長期にうまく機能していた「終身雇用」「年功序列」「滅私奉公」といったシステムが、現在の人口減少・低成長期にはまったく合致していないにもかかわらず、無理矢理使い続けた結果、齟齬をきたしている状態なのです。
だからこそ、これからの会社組織は、人手不足でも、人件費が高い状況でも、育児や介護等でフルタイム労働が難しい人ばかりの状況であっても、難なく乗り越えられる経営が求められるのです。
そのためには、真っ当な給料を支払えるだけの利益を生み出すビジネスを運営し、儲からないビジネスや無駄な仕事はキッパリと止めるか、利益が出るよう改革する、という決断が必要です。
「何事も残業でカバーする」という悪習を見直し、仕事を棚卸しし、ムダやムリ、ムラを見直して、短時間で効率的に仕事をこなせる人を正当に評価する……といった手立ても求められます。
それこそ、この数年盛んに「働き方改革」が議論されている要因なのです。
若手社員が上司に求めるものは「不干渉」「自分の価値観の尊重」
労働環境が変わる中、社員たちが上司に求める理想や常識も変わっています。
では、どんな上司像を若手社員たちは求めているのでしょうか?
直近10年だけでも、若手社員の就労意識は大きく変化しています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング社が毎年発表する「新入社員意識調査アンケート結果」によると、時代の趨勢としてこのような特徴が垣間みえます。
【以下、意識調査アンケート】
- 会社が私生活に干渉することを拒む
- プライベートな時間を確保し、会社以外の居場所を大切にしたい
- したがって、会社の人と業務後に飲みに行くのは気が進まない
- 会社という枠組みにとらわれず、自分自身の価値観に従って仕事をしたい
- 新卒で入った会社で働き続けることは当たり前ではなく、転職も含め将来の多様な可能性を求めたい
- 兼業・副業にも前向き
- 協調性には自信がある
- 一方で、創造力や積極性に欠けると自認している
- たとえミスをしても広い心で受け入れ、温かく成長を見守ってくれる「寛容型」の上司を求める
どうでしょうか?
かつての上司世代が考える「報酬」といえば「出世」と「給料アップ」であり、「逆にそれ以外に何があるのか?」という意見がほとんどだったでしょう。
しかし、現在の若手社員の価値観は大きく異なります。
彼らが会社組織に求めるのは「給料よりもノー残業&休日確保」です。また、この10年間で「プライベートに干渉されないこと」を重要視する人の割合も明らかに高まっています。
すなわち、昨今の若手社員にとっては「ワーク・ライフ・バランスを確保すること」も「働く時間と場所を自由に選べること」も、 「周囲に気兼ねなく定時に帰り、休みも取れる環境」も、そのすべてが「報酬」になるのです。
したがって、それらを含めた多様な価値観を許容できる上司、および組織こそが、若手にとって魅力であり、選社基準だということを上司世代は強く認識しておくべきです。
特に求められるのは「丁寧な指導」や「寛容な上司」
さらに押さえておきたい点として、あらゆる調査において、「求める上司像」が変化しつつあることが挙げられます。
一般社団法人日本能率協会「2022年度新入社員意識調査」によると、同年度の新入社員にとって理想の上司・先輩は、「仕事について丁寧に指導する人(71.7%)」が1位。同項目は2012年度以降の調査で過去最高を記録しています。
一方で、2012年度当時数値の高かった「場合によっては𠮟ってくれる上司・先輩」や「仕事の結果に対する情熱を持っている上司・先輩」は大幅にダウンしています。
これらの結果を見ると、若者世代が従来のような「情熱的な上司」よりも、「寛容な上司」を求めていることがわかります。
全体的な傾向として高まっているのが「丁寧な指導」「成長や力量に対する定期的なフィードバック」へのニーズです。つまり、若手社員が上司や先輩に対して求めているのは、「手厚い個別対応」なのです。
「指示が曖昧なまま作業を進めること」に対しては8割の若手社員が抵抗を感じており、「質問のしやすい風土や対応」も上位に挙がっています。
日本企業の慣習としておこなわれがちだった「ちゃんとして」「きっちりやれ」「しっかり仕上げて」といった曖昧な指示をする上司は、嫌われるのです。
同時期の別会社の調査においても、同様の結果が出ています。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2022」によると、「上司に期待すること」として「相手の意見や考え方に耳を傾けること」「職場の人間関係に気を配ること」が過去最高の選択率となっています。
価値観の多様化が謳われる社会において、一方的に伝えるだけではなく、部下の意見もきちんと聞く……といった、個性や違いに受容的で、傾聴型のコミュニケーションを望む傾向を生み出していると推測できます。
株式会社就活総合研究所 取締役会長
キャリア教育プロデューサー/ブラック企業アナリスト
1976年奈良県生まれ。田舎での生活に飽き足らず、中学2年で会社経営を志し、高校から一人で上京。早稲田大学政治経済学部在学中に一度起業。99年卒業、非上場企業に入社し、事業企画担当。在職中に株式上場を経験。キャリアコンサルタントに転職し、新卒採用担当等を歴任。07年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。09年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。その他、TV・各種メディアでの、コメンテーター、講演、執筆など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。