本記事は、新田 龍氏の著書『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。

叱責
(画像=metamorworks / stock.adobe.com)

説教は厳禁!部下とのコミュニケーションにおけるNG集

部下や後輩に対して、つい説教やアドバイスをしたがる人がいます。しかし、あまり褒められたことではありません。

人はなぜアドバイスをするのか。それは、自分自身が気持ちよいからです。

米ハーバード大学社会的認知・情動神経科学研究所の研究チームが発表した論文によれば、自分の感情や考えなどを他者に伝える「自己開示」によって、脳内では快楽物質ドーパミンに関連する領域が反応を起こすことが明らかになりました

すなわち人は自分のことを話すとき、脳は食事や性行為で得られる満足感と同じような快楽を感じているというのです。

確かに、アドバイスするという行為は、精神的な快楽のみならず、自己肯定感も高めてくれる効果もあります。誰かに「教える」という行為は、その瞬間、教えている相手よりも自分が優位な立場におり、能力的にも優れているという確信を与えます。

また、アドバイスを通じて自分が誰かの役に立ち、価値発揮できているという承認欲求も満たされます。これほど手軽に精神的な充足感を得られる手段は他になかなかありません。

その際、あなた自身が空虚なアドバイザーにならないように留意すべきことは、「アドバイスは求められたときだけにすること」と「昔話と自慢話は封印すること」の2点です。

また、もしアドバイスの中に、意識せず次のようなキーワードが紛れ込んでいる場合も要注意です。

□「昔は…」「私の若い頃は……」

⇒昔と今とでは、社会情勢も景気も仕事の密度も、すべての背景事情が違います。変えられない前提条件を出しても意味がありません。

□「お前のためを思って……」

⇒そう言えるのは、本当に相手のためになるか否かを判断できるくらい、相手のライフプランやキャリアプランまでをもしつできている、信頼関係が強固な場合だけ。そうでなければ、「相手のため」という都合の良い大義名分をもって、相手をコントロールしようとしているように感じられてしまいます。

□「このままじゃウチで/社会で通用しないぞ!!」

⇒同様に、相手の将来を心配している風を装いながら、「俺の言うことを聞け」とマウンティングしていることと同義。本当に相手のためを思い、成長を願っているのなら、そんな脅迫的な言い方はしないものです。

□「今苦労しておけば、後で楽になるぞ!」

⇒確かに個人的にそのような実体験があったのかもしれませんが、だからといって「今現在の苦労」に対する解決策になっていなければ意味がありません。単に希望的観測を述べるだけで、相手が今現在陥っている苦境にまつわる訴えを抑えつけようとしているだけです。

□「そんなのよくあることだよ!」「まだまだ若いな!」「いつか気づく日がくるよ!」

⇒指摘自体は事実なのかもしれませんが、相手が今抱えている苦悩や葛藤、焦燥といったネガティブな感情に対して向き合っておらず、解消もできていません。また年齢差や経験差によるマウンティングの一種のようにも感じられ、うっすら見下されているようにも捉えられてしまいます。

□「っていうかさ、」「お前はそう言うけど、」「いや、そうじゃなくて……」

⇒相手の言い分を充分に傾聴しないまま、否定的なニュアンスからアドバイスを始めてしまうことで、「この人は私の話をまったく聞いてくれず、自分の言いたいことを言って終わりだ」と感じさせてしまいます。

いずれも、ひとつひとつはささいなことかもしれませんが、その積み重ねで、気づかないうちに相手に不快感や不信感を抱かせ、あなた自身の信用までも毀損しているリスクがあります。しかも、相手はあなたに面と向かって指摘できる人であるとは限りません。自分で意識し、改善を続けていくしかないのです。

「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本
新田 龍(にった・りょう)
株式会社ヴィベアータ 代表取締役
株式会社就活総合研究所 取締役会長
キャリア教育プロデューサー/ブラック企業アナリスト
1976年奈良県生まれ。田舎での生活に飽き足らず、中学2年で会社経営を志し、高校から一人で上京。早稲田大学政治経済学部在学中に一度起業。99年卒業、非上場企業に入社し、事業企画担当。在職中に株式上場を経験。キャリアコンサルタントに転職し、新卒採用担当等を歴任。07年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。09年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。その他、TV・各種メディアでの、コメンテーター、講演、執筆など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。
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