本記事は、新田 龍氏の著書『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。

Productivity increase
(画像=jirsak / stock.adobe.com)

「生産性の向上」とは、いったい誰がやるべきものなのか?

働き方を見直す際に真っ先に言及されるのが「生産性向上」というキーワードです。しかし、経営者や管理職が安易に生産性について語ると混乱が生じる可能性も高いです

その理由は、「生産性向上」と言っても、個人の生産性か、チームの生産性か、事業の生産性なのかによって、意味やアプローチがまったく異なるからです。

目線合わせがないまま「生産性を向上させろ!」とハッパをかけても、見当はずれの方向にムダな努力をすることになりかねません。

そもそも「生産性」と語られるものには、少なくとも3種類の階層が存在します。それぞれどのような違いがあるのか見ていきましょう。

まず、 「事業の生産性」があります。これを上げるには、最小のコストで最大の収益を得ることが必要で、高付加価値の商品開発や、売れていく仕組みとしてのマーケティングに注力する必要があります。これは経営層レベルの責任範囲といえるでしょう。

続いて、 「チームの生産性」があります。業務配分や人材配置を適正におこなって、組織リソースのムダやムラを是正しつつ、顧客との利害調整も丁寧におこなう組織マネジメントが鍵となります。これについては、管理職層の判断領域となります。

そして、多くの企業で一般的に語られる生産性が、「個人の生産性」です。これは、ムダな作業や余計な手間を削減し、やるべき仕事に集中して成果を出すという個々人のセルフマネジメントが重要になります。

このように働き方改革とは、一般社員に「生産性を上げろ」と言うだけではダメですし、人事部門だけでなんとかなる問題でもありません。

経営者が「結果が出るまでやり切る!」と覚悟を決め、管理職や一般社員が一枚岩となり、「自ら業務効率化して早帰りする!」「積極的に有休取得する」といったコミットメントがあってようやく走り始めることができるものなのです。

企業から残業をなくすために欠かせない、大前提とは?

長時間労働が常態化している背景は、法律の建付け、日本独自の労働慣習、硬直的な社内制度、残業しかアピールしどころのない従業員の意思、顧客からの理不尽な要求……など様々ありますが、結論からいえば、ほぼすべて何かしらの原因が存在しています。すなわち、ロジカルに解決していけば長時間労働は解消される、ということでもあります。

しかし、多くの組織ではそれができていません。

なぜなら、目の前にいろいろと問題があったとしても、とにかく「残業でカバー」して、結果として仕事は終わらせられているからです。本来「残業」は最後の手段であるはずなのに、手軽であるがゆえに多くの人がなんの疑問も抱かずに活用しています。仕事は確かに完了しているので、誰も問題視しません。その結果、「なぜ残業しなければならないのか」「どうしたら残業せずに済むのか」といった改善のキッカケをつかむところまで至らないのです。

そのため、私自身がクライアント企業に入り込んで労働環境改善のサポートをおこなう際は、まず従業員の皆様に「長時間労働がなくならない理由」をタブーなく挙げて頂くようにしています。最初は「ウチは残業が当たり前で、そんなの考えたこともなかった」といった反応ですが、じっくり考えて頂くうちに、次のような意見が出てくるのです。

「残業前提の過大な仕事が存在する」
「誰も見ない資料作成など、本来必要ない作業をやっている」
「仕事の進め方や手順に無駄や無理がある」
「上司が部署のタスクの全体像を把握しておらず、割り振りに偏りがある」
「IT化、機械化が進んでいない」
「顧客からの無茶な要求を、断りも調整もせずにそのまま受けている」

実はこれらの問題こそ、改善のきっかけとなるのです。ひとつひとつ向き合えば、解決できるものばかりです。

ここから、経営者の方に改善を最優先するよう腹をくくって頂きつつ、「問題を個別に判断し、止めるものは止め、減らすものは減らし、外注するものは外注する……と片付けてください」とお伝えしていきます。これが、残業を減らすための最も大切な大前提です。

繰り返しになりますが、問題への対処は、必ず経営者が責任をもって決断することが肝心です。

なぜなら、同じことを現場からボトムアップでやろうとすると「仕事を減らそうなんて、楽をしようとするな!」「そんな金がかかることはできない!」と、途中で潰されてしまう可能性が高いためです。ここは経営者が覚悟を決め、自身の責任において判断しなくてはなりませんし、現場の社員たちは経営者にその必要性をしっかり伝える必要があります。

「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本
新田 龍(にった・りょう)
株式会社ヴィベアータ 代表取締役
株式会社就活総合研究所 取締役会長
キャリア教育プロデューサー/ブラック企業アナリスト
1976年奈良県生まれ。田舎での生活に飽き足らず、中学2年で会社経営を志し、高校から一人で上京。早稲田大学政治経済学部在学中に一度起業。99年卒業、非上場企業に入社し、事業企画担当。在職中に株式上場を経験。キャリアコンサルタントに転職し、新卒採用担当等を歴任。07年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。09年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。その他、TV・各種メディアでの、コメンテーター、講演、執筆など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。
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