本記事は、新田 龍氏の著書『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。
会社を去る社員への「慰留」は立派なハラスメント
「パワハラ」「セクハラ」にとどまらず、世の中には「●●ハラスメント」が数多く存在します。
近年では、SNSに職場の人間関係を持ち込む「ソーハラ(ソーシャルメディアハラスメント)」や、ITやシステムに詳しい人が、それらを苦手とする人に嫌がらせをする「テクハラ(テクノロジーハラスメント)」など、現代ならではのハラスメントも生まれています。
また、以前から職場に存在した嫌がらせ行為が「ハラスメントの一種」と定義されたことで、改めて注目を浴びるケースも散見されます。
たとえば、就職活動時に複数企業から内定を得ている人に対し、自社が内定を出すことと引き換えに他社内定の辞退を迫る行為は「オワハラ(就活終われハラスメント)」と呼ばれるし、妊娠・出産した人に対する嫌がらせは「マタハラ(マタニティハラスメント)」、育休取得希望の男性社員に文句を言ったり、取得を邪魔したりするような行為は「パタハラ(パタニティハラスメント)」として忌避されています。
そのようなハラスメントのひとつに「慰留ハラスメント」があります。
本来あってはならないことですが、日本の職場では「慰留」は昔からよく見られる光景で、退職の意思を示した従業員に対して、会社側が必要以上の引き留めをおこない、退職希望者を困惑させることを意味します。
「ウチでやり切れないようでは、どこに行っても通用しないぞ!」といった説教で終わるくらいならまだマシなほうで、時には「この業界で仕事できないようにしてやる!」と恫喝されたり、「退職など許さない!」と退職願を受理しなかったり、「代わりの人を採するためにかかる費用を払え!」「損害賠償請求するぞ!」など、脅迫めいた言動で無理矢理退職を断念させようとするケースも実在し、私のもとにもよく相談が寄せられています。
実際、日々転職サポートをおこなっている人材紹介会社のアドバイザーを対象としたアンケートにおいて、「退職時・退職後にトラブルになる理由」として最も多かったのは「企業から強引な引き留め」(76%)でした。
ハラスメントに対する捉え方が厳しくなる昨今、退職希望者にネガティブな印象を与え、組織の評判まで落としかねない強引な引き留めを、なぜ企業は実行してしまうのでしょうか。
各社それぞれ事情は異なるものの、おおむね次のようなものが多いです。
「常に人員不足の状態で、退職者が出ることで他従業員に負担のシワ寄せが出ること
を避けたい」
「新たに人を採用することが困難」
「補充人員採用には時間もお金も手間もかかる」
「退職者を出してしまった上長の社内評価が低下する」
どうでしょうか。よくよく見てみると、すべて会社の一方的な都合に他なりません。
逆に言えば、そのような自己中心的なメンタリティが蔓延している組織だからこそ、従業員が離れているともいえるのです。
会社員が辞める理由のベスト3は「人間関係」「仕事の内容」「労働条件」への不満
私は企業勤務時代、人事採用担当として、またキャリアコンサルタントとして、数千人に対して面接・面談をおこなってきました。
経験上、痛感するのは、採用面接で応募者は前職の離職理由について建前しか語らず、それは本音とは大きく乖離していることがほとんど、という事実です。
建前の離職理由として一般的なのは、
「もっとキャリアアップしたい」
「会社の経営方針/経営状況が変化した」
「親/家族の介護のため」
などが多いのですが、本音を突き詰めてみると極めてシンプルな理由に辿り着きます。
日々、様々なメディアが本音の離職理由をアンケート調査し、ランキング形式で発表していますが、上位の理由については、数十年にわたって不動です。
その理由とは、
人間関係の不満
仕事が合わない 労働条件が悪い
の3つ。
この手の調査において、我が国で最も広範、かつ母数の大きいもの(平成30年度調査では調査数約3万人、有効回答数約2万人)として厚生労働省「若年者雇用実態調査」が存在しますが、こちらにおいても離職理由の上位は「労働条件」「人間関係」「仕事内容」と、まったく同じ結果が出ています。
株式会社就活総合研究所 取締役会長
キャリア教育プロデューサー/ブラック企業アナリスト
1976年奈良県生まれ。田舎での生活に飽き足らず、中学2年で会社経営を志し、高校から一人で上京。早稲田大学政治経済学部在学中に一度起業。99年卒業、非上場企業に入社し、事業企画担当。在職中に株式上場を経験。キャリアコンサルタントに転職し、新卒採用担当等を歴任。07年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。09年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。その他、TV・各種メディアでの、コメンテーター、講演、執筆など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。