本記事は、新田 龍氏の著書『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。

オフィスの廊下を歩くビジネスマンの男女
(画像=HML / stock.adobe.com)

なぜあの会社には若い人が集まり、辞めないのか?

私がご依頼を頂く講演や研修のテーマとしてもっとも継続的な需要を誇っているの、「なぜあの会社には若い人が集まり、辞めないのか?」というタイトルの、若手人員の採用・定着にまつわるものです。

参加者の方は管理職から経営者層、年齢にして40代後半から70代くらいの方が多いです。最初は本書の第2章でご説明したような、昨今の若手社員におけるマインドの変化に関するお話をお伝えし、まず意識を新たにして頂くところから始まります。

そこでは、「昇給よりプライベート重視」「厳しい指導は避けられがち」「丁寧なフォローが重要」といった変化が語られるわけですが、それだけを捉えて「最近の若者は打たれ弱い!」「俺たちの若い頃は……」などと感じてしまうと、まさに若者から忌避される「老害」認定がなされてしまうかもしれません。

リクルートマネジメントソリューションズや日本能率協会の調査で明らかになっているのは、彼らは総じて成長意欲、貢献意欲はあり、「この仕事の意義」「目の前のタスクの意味」さえ納得できれば前向きに行動できるということです。そして仕事は長時間労働か否かよりも、その成果や質で評価されたいし、仕事に必要なスキルや能力の獲得は自己責任であると、ある意味シビアかつドライに捉えているのです

そのマインドに、我々管理職側も寄り添ってコミュニケーションを取っていくべきでしょう。

一方で、管理職世代が戸惑う点としては、「働くうえで大切にしたいこと」への回答において「任せられた仕事を確実に進めること」(38.9%)の割合が過去最高となり、「何事も率先して真剣に取り組むこと」(13.8%)が過去最低となったところでしょう。「成長したいと言っておきながら、率先して行動するわけでもなく、与えられた仕事を頑張るとはどういう了見だ!?」と感じてしまうのも無理はありません。

この志向は、決してやる気がないというわけではなく、失敗に対する不安感が大きいゆえの「堅実に仕事を進めていきたい」意思の表れ、と捉えるとよいでしょう。教育の変化によって、厳しく指導されたり否定されたりする経験に乏しく、またサービスの発展によって、自発的に行動する経験も積みにくい時代です。

さらに、学生時代の貴重な数年間をコロナ禍中で過ごしたことにより、学外での活動を通した成功体験、失敗体験も充分に得られていないといった背景要因も考えられます。だからこそ、失敗への不安を早期に払拭し、彼らの成長意欲を着実にフォローするための「丁寧なコミュニケーション」が求められるのです。

これらの前提を踏まえ、若手社員との良好な関係性を築くために有効な心構えを挙げるとすると、まずは次の3つとなるでしょう。

(1)多様な価値観への寛容さ

転職を前提としたキャリア形成志向、副業や兼業への興味、プライベート重視姿勢などを尊重する

(2)承認のコミュニケーション

相手の成長や小さな変化に気づき、こまめに承認することで心理的安全性を高める

(3)「丁寧なフォロー」

相手の意欲を捉え、行動を促したり、試行錯誤に伴走したりするなど、フォローを 意識的に実施する

このような、傾聴と承認をベースとした丁寧なコミュニケーションの蓄積を踏まえて、心理的安全性を高めることができれば、部下たちの自発的な貢献意欲も引き出すことができていくのです。

「◎◎してくれてありがとう」と伝えられる上司が支持される

経営側として人を雇用する上でまず心得ておきたいことは、相手がどんな人物であっても積極的な(できれば、意中の人と同等程度の)関心を持つことです。

そうすれば自然と、
「どうすれば良い関係性を築けるだろう……」
「どうすればこちらに興味関心を持ってくれるだろう……」
「どうすれば楽しいと感じてもらえるだろう……」
と意識して考えるようになるはずです。

そうなれば当然、こちら側から積極的に挨拶をしたり、挨拶の後にちょっと一言加えて会話しようと工夫したりするでしょう。それくらいの関わり方を意識し、少しずつ実践するところから始めてみることをお勧めしたいのです。 理想は、「自分の仕事が誰かの役に立っている」「自分が必要とされている」と気づかせる機会を極力多く設けることです。

実践は簡単です。仕事を任せてやり遂げてくれるたびに、「◎◎してくれてありがとう」「◎◎してくれて嬉しかった」と具体的に伝えるのです。

彼らが普段当たり前にやっていることが、周囲の誰かの役に立っていて、それが感謝されるという状態を顕在化させれば、たとえ任せている仕事が単純作業でもルーティンワークでも「やりがい」を感じられるきっかけとなるはず。

「あいつはお荷物な存在だ」という前提で捉えるから、問題行動が目に付いてしまう……というケースもあり得ます。メンバーは皆仲間という前提に立ち、どうしたら皆が心地よく働ける環境になるか、ネガティブな要素をひとつずつ解消していきましょう。

「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本
新田 龍(にった・りょう)
株式会社ヴィベアータ 代表取締役
株式会社就活総合研究所 取締役会長
キャリア教育プロデューサー/ブラック企業アナリスト
1976年奈良県生まれ。田舎での生活に飽き足らず、中学2年で会社経営を志し、高校から一人で上京。早稲田大学政治経済学部在学中に一度起業。99年卒業、非上場企業に入社し、事業企画担当。在職中に株式上場を経験。キャリアコンサルタントに転職し、新卒採用担当等を歴任。07年、株式会社ヴィベアータ設立(キャリア教育プロデュース)。09年、株式会社就活総合研究所設立(新卒採用シンクタンク)。大手企業、教育機関、官公庁などに対して、人事、教育のコンサルティングを展開する他、大学講師としてキャリア教育や就活支援を担当し、就活塾、キャリアスクールも主宰。これまで1万人を越える面接・面談経験を持つ。その他、TV・各種メディアでの、コメンテーター、講演、執筆など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。
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