本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

興味,面白い
(画像=deagreez / stock.adobe.com)

幸せに生きるために必要な習慣
「面白そう」を気軽に試す

夢がある人は幸せだという研究結果があります。ただ、これもまた自分らしさと同様、「これが自分の夢です」と語れる人は少数でしょう。

「これがやりたい」というものがない人は、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんが提唱する「こんまりメソッド」を応用してみましょう。こんまりメソッドは「ときめくかどうか」を基準に手元に残すものと捨てるものを決める考え方。同じように自分の日々を振り返り、日常生活のちょっとした出来事の中で、やっていて楽しいこと、ワクワクすることをまずは100個書き出してみましょう。

その中でも、特にワクワクすることが何で、それがなぜ好きなのか。毎日の生活の中で少しでも考える時間を持つことは、自己理解を深めることにもなります。そして、自分のことが分かっていった先に夢や目標があるものです。

普段の仕事も、「ときめく仕事」という観点で見つめてみてください。一口に仕事と言っても、その中にはさまざまな業務があるはずです。営業職であれば、提案や交渉などクライアントと接する業務だけでなく、資料作成や提案内容の立案、クライアント情報の管理、後輩指導、経費精算や契約書の処理といった事務作業など、多岐にわたります。その中で、自分はどの業務が好きで、積極的にやりたいと思うのか。反対に、どの業務が嫌で、できればやりたくないのか。改めて考えることが、自分の志向を把握することにつながります。

そうして見えてきたときめく仕事の分量を増やし、ときめかない仕事を減らしていけば、自分がやりたいことに近づけます。今は社内異動や転職だけでなく、副業や社外活動など、チャンスはいろいろありますから、日々の中に自分がときめくことの割合を増やしやすいと思います。ワクワクするサードプレイス、フォースプレイスを探すのもいいですね。いきなり転職せずとも、そうやって試行錯誤できるのは、今の時代の良いところだと思います。

●「まあまあのワクワク」から夢が見つかることもある

「夢」と聞くと、大きな目標を掲げなければいけない気がしてしまいますし、「これだ!」というものを最初から設定しなければいけないように思ってしまいがちかもしれませんが、「3歳の頃からスケート選手になる」といった夢を持ち、追い続けている人の方がレアです。ほとんどの人は「文章が好きだから出版社に入る」「テクノロジーに興味があるからAIサービスを扱う会社で働く」といった動機からキャリアをスタートし、仕事をするうちに次にやりたいことを見つけていくのだと思います。

僕もまた、数学と理科が得意だったことから工学部に進学し、ものを発明することで日本を豊かにしたいという思いから、新卒でメーカーのキヤノンにエンジニアとして入社しました。そうして働く中で、29歳のときに会社の留学制度を使ってUCバークレーに2年間行かせてもらったことがきっかけで教育に興味を持ち、たまたま目にした慶応義塾大学の講師募集に応募をしたことが今の研究者の道の入り口となっています。

つまり、「好きなことをしていけば、次の道は見えてくる」ということ。ワクワクを追っていれば、さらなるワクワクと出会えるわけです。そのためには継続が必要ですが、好きなことであれば続けられますし、続けていればなんだってうまくなっていきます。そうして好きなことが特技になっていき、「特技を生かしてこういうことがしたい」という欲求が生まれ、それが夢になっていく。

このように、多くの人にとっての夢は、自分のワクワクを模索し続けた先に見つかるものなのだと思います。「夢が見つからない」、「ワクワクすることを10個書き出したけど、どれも仕事としては向いていない気がする」と悩むのではなく、まずはどれが向いているか試すこと。今は調べればすぐに答えが見つかる便利な社会になり、トライせずにわかったような気になってしまいがちですが、「自分が何にワクワクするか」は実際にやってみなければわかりません。

なお、ここでいうワクワクは「まあまあのワクワク」で構いません。特にモヤモヤしている時はワクワクしにくいものですから、「自分にはワクワクするものがない」なんて自分を責めずに、そういうものだと受け止めましょう。その上で「ちょっと面白いかな?」くらいのことを気軽にやっていきましょう。

中には、続けていくうちに面白くなっていくものも出てくると思います。スポーツでイメージするとわかりやすいですが、野球をやるにしても、最初は素振りや走り込みなどの地味な基礎練習がメインですし、そもそも下手なうちは面白くないじゃないですか。基礎を積んでうまくなっていき、視点が上がっていくことで野球特有の絶妙な面白さを見出したり、自身も試合で駆け引きができたりするわけです。

人生もスポーツと一緒です。最初はつまらなくても、やっていくうちに好きになっていくことはいくらでもあります。最初から雷に打たれたように「これだ!」と確信を持つことなんて滅多にないのです。極めるから面白くなることもあるというのは、頭の片隅に置いておきましょう。

●「自分にとっての良い道」を探す、苦労とメリット

やりたいことや夢、目標がなくて悩んでいる若い人は多いと思いますが、それはある意味、自然なことだと思います。

というのも、私の若い頃は「これが良し」とされている生き方がある程度決まっていました。「エンジニアとして、日本を豊かにするものづくりをするのが夢です」と言ってキヤノンに新卒入社しましたが、他の同期も同じようなことを言っていたわけです。もちろん当時は本気でそう思っていましたけど、振り返れば「それが良い仕事だ」と社会から思い込まされていたところもあったと思います。

片や、今は多様な時代です。1社で勤め上げる時代は終わりを迎え、模範的なキャリアもなくなりました。おじさんの中には「自分は若い頃からやりたいことがあったのに、最近の若い人はだらしがない」みたいな発言をする人もいますが、そもそも時代背景が違うので、そのような比べ方をするのは違うと私は思います。

生き方が多様になった分、ややこしくなりましたし、自分で道を見つけ出さなければならない苦労もありますが、見方を変えれば「社会で良しとされていることではなく、自分にとっての夢を探すチャンスがある」ということでもあります。自由に選べるがゆえの選択肢の多さが苦しいと思うかもしれないけれど、多様な選択肢から選べる良さもあるわけです。

それに、20年前の僕がメーカーを起業するには何十億円という資金が必要でしたが、例えばIT系のサービスであれば元手がなくてもビジネスをスタートできます。AIをはじめテクノロジーの進化によって、この先ビジネスを始めるハードルはさらに下がるでしょう。思いついたことをやった人が勝つ世界になりつつあるからこそ、ワクワクすることをまずは試し、自分がやりたいことに近づいていきましょう。

ワンポイント
  • 「ワクワクすること」を100個書き出す
  • 好きなことを続けるうちに特技になり、それを生かしたいという欲求が生まれる
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

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