本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

チーム
(画像=Jade Maas/peopleimages.com / stock.adobe.com)

幸せに働くためにチームができる習慣
チームで理念や目標を意識する時間を設ける

視野が広い人は幸せだという研究結果があります。石切職人の例を紹介しましたが、「切った石が教会となり、人々の幸せに寄与する」という大きな視野を持てる人は幸せに働けるのです。

会社にとって、みんなが大きな視野で一丸となれるものは理念です。事実、理念が浸透している会社の幸福度は高い傾向にあります。最近はパーパス経営が注目され、ミッションやビジョン、バリューなどを重視する企業も増えていますが、これらを現場にきちんと浸透させることが重要です。

これまで何度か紹介してきた、西精工という幸福度の高い会社では、毎朝チームごとに1時間の朝礼を行い、そのほとんどを理念の共有に当てています。同社には創業の精神や経営理念、行動指針など、さまざまな項目があり、覚えるのも大変だなと思うくらいですが、「今日はこの理念について考えよう」と毎朝その中からフォーカスする部分をピックアップし、チームのみんなでその理念が持つ意味や目的を考え、各自が同僚やお客さんのためにできることを話し合っています。広い視野を持つための努力をチーム一丸となって、毎日1時間、労働時間8時間のうち、実に10%以上をかけて行っているのです。同時に、朝会ではそれぞれが「今日何をするか」をシェアしており、それによりみんなが何のために動いているかを理解でき、気持ちよく仕事ができるのだそうです。

コロナ禍では朝会が思うようにできない期間が2年ほどあり、それによって従来の朝会の効果を改めて実感したと西精工の社員の方から聞きました。コロナ禍の2年間で「なぜこの仕事をしているのか」という目的を見失いそうになる瞬間が時折あり、チーム内で齟齬が生じたり一体感が薄まったりといったネガティブな影響が生じてしまった。それによって朝会の必要性を再認識したというわけです。

●一生懸命な現場社員ほど、理念を見失いやすい

チームの目標や動きを共有しているチームは多いと思いますが、会社の理念や方向性にまで意識が及んでいないことがほとんどです。ロボットではないのですから、「何をやるか」ばかりシェアしても、「なぜやるか」が腑に落ちなければやる気はなかなか起きません。

「チームの目標達成のために」だけでなく、「それによってお客さんが幸せになる」、「世の中に役立つ」というところまで理解するからこそ、仕事の意義が見出せるのです。

「『なぜやるか』は周知のことであり、わざわざ共有する必要はない」と考える経営層や管理職もいますが、それは自分たちが経営会議などを通じて、会社全体の話をする機会が多いからです。一般社員は会社全体の話に触れる機会が限定されていることがほとんど。

目の前の仕事に一生懸命な人ほど近視眼的になりやすく、「なぜやるか」を見失ったまま、結果的にやらされ仕事になってしまうことは非常に多いのです。

放っておくと、現場のメンバーは目の前の仕事に集中するあまり、大きな目的を忘れやすい。理念への意識は経営に近いポジションの人ほど高まり、末端の現場社員にいくほど薄まるという事実を、リーダーの立場にある人はしっかり認識すべきでしょう。

●コミュニケーションに時間をかければ、結果的に生産性は上がる

最近は朝礼をしない会社も増えているように思います。生産性や効率を重視するあまり、チームのメンバー同士が触れ合う機会を削る傾向にある会社が少なくありませんが、それは間違いです。幸せな人はそうでない人と比較し、生産性が3割ほど高いという研究結果からわかる通り、コミュニケーションに時間をとってメンバーの幸福度を上げた方が、結果的に効率は良いのです。

近視眼的に見れば1時間の朝礼をやめて仕事を進めた方がプラスに思えますが、大きな目的を理解しないまま仕事を進めることで誤った方向に進んでしまうことも起きやすく、後戻りするコストが大きくなってしまう。そういう意味でも、最初にしっかりと目的と方向性を共有し、その後も話し合いながら仕事を進めた方が生産性は高いというわけです。

業務外の会話が減ることで、情熱的な話や、青臭い話をしにくくなるというデメリットもあります。メンバーが大きな目的に立ち返ろうと思っても、「そんな根本の話をしていたら仕事が進まないから、まずは目の前のやるべきことやろう」と言われてしまうことにもなりかねません。それでは不幸な働き方を目指しているようなものです。

働き方改革で業務効率を上げ、早く帰ること自体は良いのですが、コミュニケーションを減らすのはむしろ逆効果。広い視野を持って仕事ができる状態をつくるためにも、チームで「会社」という共通の視点に立つためにも、理念に立ち返る機会を持ちましょう。

ワンポイント
  • 会社の理念は広い視野を持つことにつながる。それを意識するには努力が必要
  • コミュニケーションに時間をかけてチームの幸福度を上げれば、結果的に生産性も上がる
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

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