本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ミーティング
(画像=alotofpeople / stock.adobe.com)

幸せに働くためにチームができる習慣
チームでメンバーの面白いところをシェアする

これまで何度か触れてきましたが、自己開示は幸せにつながります。鎧を着込んで本音を隠して仕事をするのは、常に我慢をしている状態です。それではストレスが大きいですから、自分を出せる職場の方が幸せなのです。

自己開示ができないというのは、本音が言えない状態です。上司やチームのやり方に疑問を抱いたまま、納得できずに仕事をしていたり、本当はやりたいことがあるのに、希望を口に出せずにいたりと、本当は違うと思っているけど言えずにいる。つまり自己開示をするには、心理的安全性が不可欠なのです。そういう環境をつくるには、上の立場の人間と、下の立場の人間、それぞれに努力が必要です。

●自己開示のために上司と部下がすべきこと

1人1人が自己開示できる環境の鍵は、上司にあります。リーダーのポジションにいる人間は立場上、力の差があることを自覚し、チームメンバーとフラットな関係性を構築することが重要です。「管理する/管理される」、「指導する/従う」という関係性では、下の立場の人間は言いたいことがなかなか言えません。

日本企業もだいぶ変わってはきましたが、まだまだ「上の人間は命令をするもの」という意識の人が多く、フラットな関係性を築くのが苦手な人は多いように思います。ゆえに組織はアンバー型、オレンジ型になりやすい面もある。だからこそ、上司の立場にある人は、相手の意見を最後まで聞く努力をしましょう。途中で自分の意見を挟んだり、批判したりするのをやめる。たとえ見当違いであっても、「なるほど、そう考えるんだね」とまず受け止める。それによって部下は意見を言いやすくなります。「そんなことができるわけないだろう」と頭ごなしに否定してしまっては、意見が出てくるはずもありません。

「最後まで話を聞く」というのは、一見簡単なことのように思えますが、できていない人は意外と多いですね。MITビジネススクールで「対話(ダイアローグ)」について研究しているアイザックス教授は、「Listening(傾聴する)」、「Respecting(尊重する)」、「Suspending(反射的に言いたいことを言うのではなく保留する)」、「Voicing(話す)」の4つを対話の心得として提唱しています。

ポイントは「Voicing(話す)」が最後だということ。しかもその前には「Suspending(反射的に言いたいことを言うのではなく保留する)」の防衛線まであるわけです。相手の話を聞くのは難しいことであり、体系立てて学んで身に付けるスキルであることがよくわかります。特に権力がある人ほど話をさえぎることが癖になっている可能性が高いですから、テクニックとして体得する意識で、傾聴の練習をしましょう。

上司や環境による影響が大きいという前提ですが、とはいえ個人にも自己開示の努力は必要です。「そのやり方もいいけれど、この点が心配なので、こうしたらどうだろう?」、「今の仕事のこういうところが得意で、それをさらに生かしてこういう仕事をしてみたいのですが、どう思いますか?」など、アサーティブな話し方で言いたいことを伝えられるといいですね。自分の意思を伝えれば、より良い仕事のやり方が見つかったり、適切な仕事に移る機会が得られたりといった可能性が生じます。自分の本音を開示することは、状況を改善し、自分を楽にすることにつながることを覚えておきましょう。

もう1つ、下の人間がすべきことは、上司への態度を見直すことです。部下がムスッとした態度を取ることは、上司の心理的安全性を脅かします。ハラスメントは権力者がやってしまいがちで、上司が気を付けるものというイメージが強いですが、上司のハラスメントへの意識が高まり、部下に強く言えなくなった今、反対に部下の立場が強くなっている面もあります。それによって部下から上司へのハラスメントが生じやすくなっていることを認識しましょう。

チームの雰囲気を良くするための行動は、上司に任せきりにするのではなく、みんながやるべきことです。個人もまた場を楽しくするためにできることを考え、みんなの輪に入る努力をしましょう。

●ユーモアは心理的安全性を高める

チームの心理的安全性を高める上で効果的なのが、ユーモアとウィットです。ポジティブなユーモアは心理的安全性も高め、コミュニケーションの円滑材になります。ブラックユーモアはあまり幸福に寄与しませんので、みんなで楽しく笑える健全なユーモアを交えて会話ができるといいですね。

ユーモアはセンスが問われる面もあり、個人のキャラクターに左右されるところも少なくありません。いつでも面白いことを言って上司からも部下からも信頼されるような人には、なろうと思ってなれるものではないでしょう。ただ、一度も人を笑わせたことがないという人はいないと思います。どういう場面で人を笑わせているか、振り返って分析してみると、人それぞれの面白さがあると思います。

例えば、チームで各メンバーの面白いところをシェアしてみてはいかがでしょう? 「怖そうに見える上司がものすごくかわいいボールペンを使っている」など、周囲の人の面白いところを好意を持ってユーモラスに話すのは、人間関係を円滑にする上でとても良い方法です。バカにした物言いにならないよう注意は必要ですが、相互理解を深める意味でも有効だと思います。

どうしてもユーモアが苦手な人は、人の冗談に笑ったり、乗っかってみたりと、面白がる努力をしましょう。無関心や無感動は本人の幸福度を下げますし、たとえ面白くなかったとしても、せっかく周りが盛り上げようとしているのをむげにするのは大人げありません。そのユーモアが人を傷つけたりハラスメントに該当したりするのであれば別ですが、そうでないのであれば、チームの一員として盛り上げようとした人の心意気に応えたいところ。自身の振る舞い方をどうすると場が和むのかを、考えてみましょう。

ワンポイント
  • 自己開示ができる心理的安全性が担保されたチームは、みんなで作るもの
  • 上司はもちろん、部下もまた上司へのハラスメントに要注意
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
ZUU online library
※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます。