本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=NDABCREATIVITY / stock.adobe.com)

幸せに生きるために必要な習慣
仕事と自宅以外で過ごす時間を持つ

幸せであるためには、自分を理解する必要があります。自分のことがわかっていれば「これをやれば今の自分は幸せでいられるな」というのもわかりますから、この本を読む必要もありません。幸福の研究をしてきた結果、今の私は何をしたら自分が幸せになれるかよくわかるようになりましたが、これは本当に楽です。

ただ、自己理解を深めるには時間がかかります。簡単なことではありませんが、まずは「自分を理解しよう」という姿勢を持つことが大切です。

その上で、自分を知るための手段として有効なのが、多様な経験をすること。会社員として働いているのであれば、会社の外の世界に出てみましょう。家と会社の往復だけで一生を終える時代から、今は多様な生き方ができる時代になりつつあります。副業やプロボノ、ボランティアなど、複数の仕事を持つパラレルワーカーもだんだん増えてきました。これは幸福学の観点から見ると、非常に良いことです。

人間は経験から学びを得ます。同じ環境で同じような仕事をしていると、どうしても慣れが生じ、だんだんと新たな経験や学びは減っていく。だからこそ、普段とは違う世界に身を置き、日常とは異なる経験から刺激を得ることが、自分の新たな一面を見つけることにつながるのです。自分らしさを多角的に考えるきっかけにもなりますから、少しずつ自己理解を深めることができます。時には失敗したり挫折したりすることもあるでしょうけど、ダメだった理由にもまた自分らしさのヒントは潜んでいます。

●「本来の自分」を理解した先に自分軸がある

そうやって多様な経験を積みながら、「なぜこれが楽しいのか」、「なぜこれをやりたいのか」、「なぜこれはうまくいかなかったのか」と、自分に対する「なぜ?」を繰り返し問い、自分を深く掘り下げていきましょう。そうやって「自分はどういう人間なのか」「自分は何がしたいのか」を突き詰めていった先にある、根源的な生きがいこそが自分軸です。

「はじめに」でも述べたように、「自分らしさ」は、心理学では「オーセンティシティー」と言います。「本来性」を意味する言葉で、「本来の自分は何か」を理解し、それによって自分が何をしたいかが分かっている状態が「自分軸がある」ということ。だから自分軸と仕事の関連性が高いほど、幸せに働けるわけです。

自分軸のポイントは、「会社の中で働く私」、「家族にとっての私」といった社会や人に対する自分ではなく、「私は」という本来の自分を主語としている点にあります。

社会に身を置いて生きているわけですから、世の中や職場、家族、友人から求められる「こうあるべき」に惑わされやすく、自分の本心が見えなくなってしまっている人は非常に多いと感じます。日本人は真面目と言われますが、真面目ゆえに「こうあるべき」に適応してしまい、結果的に自分の本来性を見失ってしまっている人はたくさんいるのではないでしょうか。「これが私の自分軸だ」と明確に言える人は、ごく少数だと思います。

●自分らしさは一生かけて探すもの

ただし、自分軸がわからないことを気に病む必要はありません。自分らしさが分からないことに悩むよりも、「まだ探している最中なんだ」と考えるくらいがちょうどいいと思います。自分がどういう人か、何をしたいか、分からないのは自然なこととして受け止め、そこから自分を探る方向に切り替えましょう。

なぜならば、「自分」は日々変わっていくものだからです。人生100年時代と言われる今、100年をかけて「自分らしさ」は成長するのです。だからこそ自分らしさの一端をつかむまで時間がかかるのであり、それがわからない最初のうちはふわっとしていて当然なのです。ゆえに若い人ほど、「この仕事は自分に合っているのだろうか」とモヤモヤ悩むわけですね。

ふわっとした自分らしさは、磨いていくうちに輪郭がはっきりしていきます。そして、輪郭を磨くために必要なことが、さまざまな経験をすることなのです。興味があること、楽しそうだと感じることを試し、向き・不向きや得意・不得意、好き・嫌いを理解する工程が必要です。

若手のうちは仕事の裁量が小さく、時には不本意な業務を任せられる場面もあると思いますが、自分らしさを探求する一環として、まずはやってみることが大事だと思います。むしろ「自分はこういう人間だ」と早々に決めつけない方がいい。決めつけた瞬間、チャレンジするきっかけを失い、成長は止まり、「こういう人間だ」と決めた範囲内で固定されてしまいますから。

同じ理由で、「私なんてどうせ大したことないから」、「自分はこの程度の人間だから」と自分を卑下するのもやめましょう。自分が見積もった可能性がそのまま自分の限界値になってしまいます。「自分にはもっと可能性があるはずだ」と信じて、より良い自分らしさを探していった方が幸せに生きられます。

自分探しは、いわばロールプレイングゲームのようなもの。自分の人生というストーリーを歩みながら、さまざまな人に出会い、敵やハプニングと遭遇し、経験値を積みながらやれることを増やしていく。そうやって自分の特性を理解していきましょう。

余談ですが、年代別に幸福度を見ると、40〜50代は幸福度が底になる時期です。本来の自分に対して夢や目標が大きすぎると疲れますが、それでも自分の可能性を信じられる20〜30代に対し、40〜50代は自己理解が進み、自分の特性や限界が見えてくることで、諦めや手放しの気持ちが生じてくる年代なのでしょう。そこから「自分の人生はこういうものなんだな」と落とし所を見つけ、腹がわり、人生を自分らしくマイペースに過ごせるようになっていくことが関係しているのか、それ以降の幸福度は再び上がっていきます。

人生の旅は、そんな感じなのだと思います。自分らしさの探求は長期戦だと捉えて、焦らずに楽しみながら歩んでいきましょう。

ワンポイント
  • 自分を理解できれば、幸せになる方法もわかる
  • ただし、自分らしさを理解するのは難しく、時間がかかるものである
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

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