本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ミーティング
(画像=amnaj / stock.adobe.com)

幸せに働くためにチームができる習慣
正しい1 on 1ミーティングを行う

部下の成長を支援するために1 on 1ミーティングを取り入れているチームは多いと思います。幸せに働くという観点から見ても、1 on 1ミーティングでコミュニケーションの機会を作り、上司が部下の不安や悩みを聞くことができるのはとても良いことです。不安や悩みを解消できれば部下はより良く働け、チーム全体の雰囲気も良くなっていくでしょう。

深いところまで本音で話し合えると、組織は良い方向に進みます。その手段の一つとして非常に有効なのが1 on 1ミーティングですが、残念ながら上手にできている会社は少ないように思います。

●「傾聴」にはテクニックがいる

1 on 1ミーティングの基本は傾聴です。上司は意見を言わず、相手の話を聞くことに徹する。それによって心理的安全性を確保し、困りごとを相談できる状態をつくることが目的です。

ところが1 on 1ミーティングについて説明された本の中には、「話すことがなくなったら、業務連絡や雑談をしてもいい」と書かれていることがあります。それでは日常的に行われている仕事の話になってしまう。本来の、傾聴に徹する1 on 1ミーティングは、「本当はどのような仕事をしたいのか」、「今の仕事にやりがいを感じられているか」、「どのような困り事や悩みを抱えているのか」といった本音を引き出し本質的な会話をする場です。

目の前の仕事の話をしていては目的を果たせません。

1 on 1ミーティングの基本となる傾聴にはテクニックが必要です。話を聞くのは一見簡単なことに思えますが、本当はカウンセリングやコーチングを学び、ポイントを理解しなければ、本当の意味での傾聴はなかなかできません。それゆえに、やり方を知らないまま1 on 1ミーティングを行ってしまうと、「あの仕事どうなっている?」といった業務の話になりがちなのです。上司と部下ですから、放っておくとそんな会話になってしまうのです。

1 on 1ミーティングは、普段のコミュニケーションと意識的に切り分ける必要があります。「あの仕事はどうなっているのだろう」と思ったとしても、それは一旦脇に置いておく。進捗を確認したり、「なぜやっていないんだ」と問い詰めたりしても、根本的な解決にはつながりませんし、それどころか本人を追い詰め、上司への不満や不信感を募らせることになりかねません。

反対に、話を聞くことに徹し、うまく相手の悩みを引き出せれば、本質的な原因が見えてきます。「実は今の仕事をこのまま続けた方がいいのか悩んでいる」、「家族の体調が悪く、仕事に集中できない」など、仕事が遅れている本当の理由がわかれば、対策が打てますよね。

●最大のコツは、相手を好きになること

そもそも30分から1時間程度の1 on 1ミーティングで話すことがなくなるなんてあり得ません。良い問いができれば、話すことはいくらでもあります。つまり、1 on 1ミーティングで話すことがなくなるというのは、問いが悪いのです。「最近どう?」と聞いたって、「ぼちぼちです」で終わりですから。

1 on 1は相手の困っていることを聞き、その本質的な意味を掘り下げ、本人の中から解決策が出てくるように聞き続けるのが基本です。なんとなくやる気がないこのような具合です。


上司「今の気持ちはどう?」

部下「元気です」

上司「元気なんだね」

部下「いや、実はちょっと悩んでいます」

上司「さしつかえなければ、詳しく教えてもらえる?」

部下「最近スランプなんです」

上司「スランプなんだね。なぜスランプになったの?」

部下「……実は同期からこんなことを言われて。自信がなくなってしまって……」

1 on 1ミーティングが尋問のようになってしまう人は、相手への愛が足りないのだと思います。「上手な質問のコツは相手への好奇心」と説明をしましたが、1 on 1ミーティングの最大のコツもまた、相手を好きになることです。「頑張っているね」と声を掛けたり、元気がない時に「どうしたの?」と心配したりといったことは、友達や家族、恋人など、大切な人たちに対して自然とやっているのではないでしょうか。つまり部下を好きになれば興味がわき、親身になれるということです。

相手を好きになれば、普段から相手をよく見ることにもつながり、1 on 1ミーティング以外の場面でも変化に気づきやすくなります。「最近調子はどう?」といった声がけがあるだけで、「気にかけてくれているのだな」と相手は思うもの。1 on 1ミーティングの場での自己開示もしやすくなります。

反対に、「こいつはまたサボっているな」、「どうもやる気が見えないな」など、自分が相手を否定的に見ていることは、相手にも伝わります。そのような状態で「実は最近スランプなんです」など、言いにくいことを話せるわけがありません。

また、1 on 1ミーティングの空気作りも重要です。上司に対して、悩みや困り事、不安といったネガティブなことは言いにくいもの。いきなり「困ったことはある?」と聞いても、相手は警戒するだけでしょう。上司は人事権を持っていますから、関係性は明らかに非対称です。フラットどころか、へりくだるぐらいでようやく相手が本音を言えるくらいに考えましょう。そして、オープンに話していいことを示すために、まずは上司が心を開く姿勢を持つこと。要は自己開示をすることです。ちょっとした失敗談など、相手が親しみを持てるような話ができると安心感につながると思います。

1 on 1ミーティングを行う場所にも工夫の余地があります。「緑があると幸福度が増す」と紹介しましたが、公園や観葉植物があるスペースなど、リラックスした環境を選ぶのもいいですね。情報管理の観点から密室で行うことが多いですが、その点がクリアできるのであれば、オープンスペースや会社の人がいないカフェなど、周りに人がいる環境の方が話しやすいケースもあると思います。

どうしても相手を圧迫してしまったり、尋問のようになってしまったりする場合は、隣のチームなど、斜めの立場の人が部下の1 on 1ミーティングを行うのも一つの手です。直属の上司ではない相手だから話せることもありますので、そこで見えてきた課題をクリアしながら、その部下との信頼関係を築いていきましょう。

1 on 1にこだわらず、複数人で行うのもいいと思います。私自身実感しているのですが、学生1人と相対するより、複数人を相手にする方が「こういう言い方をすると、こっちの学生がこう感じるかもしれない」といったように、客観性を持ちやすい感覚があります。

そういう意味で、上司1人と部下複数人であればハラスメントのリスクを回避する効果があるでしょう。また、上司も部下もいろいろな人の話を聴けるので多角的に役に立つミーティングになると思います。1 on 1ミーティングは欧米から来た文化ですから、日本人には複数名の方が合うのではないでしょうか。

ワンポイント
  • 「1 on 1ミーティングで話すことがない」のは、上司の問いに問題がある
  • 上司側の自己開示、場所、人数など、部下が話しやすい空気作りを意識しよう
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

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