本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

コミュニケーション
(画像=banthita166 / stock.adobe.com)

幸せに働くために個人ができる習慣
コミュニケーションの課題を「自分の中」に探す

幸せに働く上で、とても大切なのが人間関係。そして、周囲の人と良好な関係性を築くには、コミュニケーションを通じて自分の意見をきちんと伝えることが重要です。

その際、自己主張が強すぎても、弱すぎてもよくありません。

自己主張が強すぎるとコミュニケーションは高圧的になりやすく、相手を萎縮させてしまいます。そうなると相手は発言がしにくくなり、自分の意見を言えないだけでなく、発言者の意見に対する質問もできませんし、問題点があっても指摘ができません。

反対に、自己主張が弱すぎると言いたいことが言えないモヤモヤを抱えることになります。ストレスが溜まりますし、「みんな全然わかってくれない」という不満にもつながりやすい。意見を言ってもらえないことは、周りの人にとってもマイナスです。

こうした自身のコミュニケーションのクセを自覚することが、良好な人間関係を築く第一歩。そこで意識していただきたいのが、コミュニケーションに何かしら課題を感じた場面で、その原因を自分の中に見出すことです。

「なぜ言いたいことを言わないんだ」「どうせ言ったって聞いてもらえない」など、コミュニケーションがうまくいかない原因を相手のせいにしてしまっている人は多いですが、大抵の場合、原因は自分の中にあります。「なんかうまくいかないな」というときこそ、自分のコミュニケーションを見つめ直しましょう。

●コミュニケーションには3つの種類がある

自己主張が強すぎる人、弱すぎる人は、専門的に言うと「アグレッシブ」と「ノンアサーティブ」というコミュニケーションをとっている状態です。

例えば、依頼した仕事を相手がやっていなかったとき、「どうしてやっていないんだ!」と攻撃的になるのはアグレッシブなコミュニケーションです。アグレッシブになるとアドレナリンが出てカッとなってしまい、強い物言いになりやすく、ハラスメントにつながることもあります。相手にストレスを与えるので、自分も相手も幸せではありません。

反対にノンアサーティブは、相手が依頼した仕事をやっていなかったときに、「どうしてやっていないのか気になるけど、指摘したら相手が気を悪くするかもしれないから黙っておこう」といった、受け身に徹したコミュニケーションです。言いたいことを我慢しているので、自分の中にはストレスが溜まります。相手や職場の課題は放置されてしまいますから、いわば仕事をしていない状態でもありますね。問題を放置することが別の問題に発展する可能性もあり、こちらも自分と相手の双方とも幸せではありません。

この2つの中間にあるのが、「アサーティブ」なコミュニケーション。怒るでも、我慢するでもなく、相手の主張を受け入れながら自分の意見を主張するコミュニケーション方法です。特に言いにくいことを伝えなければいけない場面で効力を発揮しますので、このテクニックを習得すると、会話はグッと楽になります。

先ほどの例で言えば、依頼した仕事を相手がやっていないことに対して、「失礼ですが、このタスクは今日まででした。何かご事情があったのだと思いますが、理由をお聴かせ願えませんか?」といった聞き方をする。相手への尊重と信頼がベースにあるから責めるような物言いにはなりませんし、言いにくいことを伝えても嫌な感じになりません。だいぶ会話の雰囲気は変わるはずです。

余談ですが、アメリカ人の教授はアサーティブなコミュニケーションが本当に上手です。

私たちからの研究や教育についての依頼を断わる時も、「とても大切な仕事だけど、こういう理由でどうしてもできない。皆さんは優秀だから、私がいなくても成功すると確信しているよ」といった具合です。一見褒められたようで気分が良いけれど、よく考えたら断られている(笑)。

これはアメリカ人がもともと得意というわけではなく、アサーティブなコミュニケーションというものがあることを知り、訓練した結果なのだろうと思います。スキルとして習得できる便利な手法ですから、ぜひ鍛えていきましょう。

●アサーティブなコミュニケーションは解決法の1つ

アサーティブなコミュニケーションは、全ての人があらゆる会話に取り入れられます。

コミュニケーションがアグレッシブになりやすい人は、相手が上司だと思って会話をしてみましょう。部下に対して「やっておけよ」みたいな言い方をしてしまいがちな人も、相手が上司であれば伝え方は変わりますよね。例えば、何か勉強してほしいことがあった場合、「勉強しなさい」ではなく、「この本を読んだら仕事にとても役立ったので、部長にもぜひおすすめさせてください」といった丁重な言い方になると思います。

反対に若い人であれば、立場の違いから上司や先輩に意見が言えなかったり、仕事への自信のなさからお客さんへの対応で我慢を強いられてしまったりといった事態にもおちいりやすいでしょう。この場合も、やはりアサーティブなコミュニケーションによって解決できます。

クレーマーへの対応でも、「申し訳ありません。こちらが当社のポリシーですが、ご覧いただけましたでしょうか?」と言っても「読むわけがないだろう」と相手を逆撫でする可能性がありますが、「私たちはお客さまのためにこうしたいと思っていました。それが伝わらないやり方となってしまい、申し訳ありません」など、相手への尊重をベースにしていれば、アグレッシブでもノンアサーティブでもない方法で言いたいことは伝えられます。

怒ったらカッとなり、恐怖を感じたら黙ってしまうというのは、いわば人間の本能的な反射です。一方、アサーティブなコミュニケーションはテクニック。相手と自分の心を同時に慮る、両者を傷つけずに会話をする方法であり、他の二つと比べて複雑なコミュニケーションと言えます。成熟した大人が意識しなければできない手法ですが、個人がアサーティブなコミュニケーションを習得することは、あらゆる問題解決につながります。課題を解決するには冷静な話し合いが必要であり、そのために必要なスキルがアサーティブなコミュニケーションですから。

トラブルや争いの根本には何らかの問題がありますが、問題解決はそれだけで幸せにつながるでしょう。コミュニケーション手法であり、同時に課題解決法でもあるアサーティブなコミュニケーションを取り入れ、幸せに働くための土壌を自分の中に築いていきましょう。

ワンポイント
  • 自身のコミュニケーションのクセを自覚することが、良好な人間関係を築く第一歩
  • 個人がアサーティブなコミュニケーションを習得することが、あらゆる問題解決につながる
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

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