本記事は、前野隆司氏の著書『幸せに働くための30の習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

リモート会議
(画像=Monet / stock.adobe.com)

幸せに働くために個人ができる習慣
オンライン会議や鏡で自分の表情をチェックする

アグレッシブなコミュニケーションについて説明をしました。アグレッシブ(aggressive)は「攻撃的」を意味する言葉であり、アグレッシブなコミュニケーションもまた攻撃的で高圧的になりやすく、場合によってはハラスメントに発展しかねません。上司や先輩の立場にある人はポジション上、他の人からアグレッシブだととらえられやすいことを認識し、感情コントロールの術を覚えましょう。

なお、感情コントロールは部下や後輩の立場にある若手の人にも必要です。不機嫌を隠そうとせず、ブスッとした顔で仕事をしたり、上司に対して感じの悪い対応をしたりしたことはありませんか? これまでは「ハラスメント=上の立場の人間が行うもの」というイメージが強かったのですが、最近は部下から上司へのハラスメントも問題になりはじめています。すでに「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」なんて言葉もあるようですね。

ただ、自分が周りの人にどのような態度をとっているか、自覚するのは難しいもの。そこで取り入れていただきたいのが、自分の表情チェックです。

具体的には、デスクに鏡を置いてみましょう。ある会社の社長は、「デスクに置いていた鏡をふと見た瞬間、こんなに不機嫌そうな顔で仕事をしていたのかと驚いた」と言っていました。仕事中の自分の表情を確認することで、客観的に自分を見ることができ、自分の状態が確認できたわけですね。

コロナ禍で広まったオンライン会議もまた、自分の表情を確認できるとても良いツールだと思います。従来は勤務中の自分の顔はトイレの鏡くらいでしか見る機会がなく、自分の表情がわかりませんでした。きっと無意識に不機嫌な顔をしてしまっていたこともあったでしょう。それに対し、カメラをオンにした状態でオンライン会議に参加すれば、自分の表情を客観的に見ることができます。オンライン会議中、ふと目に入った自分の顔を見て、「まずい、ニコニコしなきゃ」とハッとした経験がある人は少なくないのではないでしょうか。

●不機嫌になりそうだと自覚したら、6秒待つ

感情をコントロールする心理トレーニングとして、アンガーマネジメントがあります。その方法論については関連書籍をご覧いただくとして、幸福学の観点でいえば、怒りの感情への対処法として最も有効なのは、幸福度が高い状態でいることです。

要は、ご機嫌でいること。そうすればそもそもカッとなりにくく、「不機嫌になりそうだな」と自分を客観的に見る余裕も生まれます。自分の状態を俯瞰的に見ることを「メタ認知」と言いますが、メタ認知の力を鍛え、不機嫌になった自分に気づければ、テクニックで感情をご機嫌に戻すことも可能です。

例えば、不機嫌になりそうだったり、カッとなったりしたら、6秒待つ。それができれば、「あ、今自分は怒っているな」と客観視する余裕が生まれ、「どうやったら怒らずに伝えられるか」といった対応を冷静に考えられます。先ほどご紹介した鏡やオンライン会議で自分の顔を見ることもまた、メタ認知を鍛える上で有効です。

これはやっていくうちに上手になります。かつての私は人並みにイラついたりムカッとしたりしていましたが、今ではカッとなっても0.1秒ぐらいで回復できますし、そもそも怒ったり不機嫌になったりする回数もずいぶん減りました。練習が必要だと思って、ぜひ意識してみてください。

なお、人よりも怒りっぽい人は、マインドフルネスや坐禅もおすすめです。どちらも「自分の心を今ここに置く」ことに主眼を置いたものであり、自分の心と向き合います。心が波立つから感情に振り回され、自分がわからない状態になってしまうのであり、心が静かなら、自分のことも客観的に見ることができます。

6秒待つのも、マインドフルネスや坐禅も、目的は心を静めることにあります。それによって「この態度は大人げない」「ここで怒鳴ったらまずいよな」などと考えられる。それさえできれば、適切な対処ができるはずです。

●ハラスメントへの意識と価値観のアップデートが求められている

カッと怒る。人に意地悪をしたり、不愉快な思いをさせたりする。こういった不快な行動に対する目は、これからどんどん厳しくなっていくと思います。

日本企業のハラスメントへの意識は高まりつつあり、大手企業では研修を行ったり、相談窓口を設けたりと、人事部が目を光らせています。一方、中小企業で社長がワンマンだったりする会社の場合、まだまだ前時代的なハラスメントが残っていることもあります。

周りからの刺激を過度に受けやすいHSP(Highly Sensitive Person)の人にとっては、ちょっと無視したり、大きな声を出したり、皮肉を言ったりするだけでもハラスメントと受け取られかねません。アメリカだと逮捕されてもおかしくないようなことが日本企業にはまだ残っていると感じることは多々あり、残念ながら総じて日本社会のリテラシーはまだまだ低く、会社による格差が大きいと言わざるをえません。個人が感情をコントロールする重要性は、この先さらに増していくでしょう。

そして、ハラスメントの意識と同時に、価値観のアップデートが必要です。時代に応じて個人の考え方が変わり、従来であればプラスに受け止められていたことすら、不快に感じる人が出てきています。

例えば、アメリカではたとえ女性同士であったとしても、「いつも美しいですね」と職場で褒めたら注意されます。「仕事に見た目は関係ない。見た目ではなく、実力で判断するべきだ」という考え方が根底にあるからです。日本でも、「ルッキズム(外見至上主義)」への反省の流れが活発化しつつあり、外見を褒めるべきではないという考え方が一般化されつつあります。

幸せ研究の観点から言うと、誰かの心がストレスを受けるようなことは全てマイナスです。自分を含めた職場のみんなが気持ちよく働くためにも、感情をコントロールするテクニックを身につけながら、多様性をみとめる平等な価値観への世の中の変化を理解し、自身の価値観をアップデートしていく必要があるといえるでしょう。

ワンポイント
  • 最も有効な怒りの感情への対処法はご機嫌でいること
  • 感情をコントロールするテクニックを身につけ、世の中の変化にあわせて価値観をアップデートする
幸せに働くための30の習慣
前野隆司(まえの たかし)
1962年、山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、イノベーション教育学、創造学、幸福学、哲学、倫理学など。
著書に『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカバー・トウェンティワン)などがある。

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