老後の生活資金を退職金頼りにしている人は少なくない。しかし、退職金には税金がかかるため、想像以上に少ない手取り額になる可能性があることも念頭に置いておく必要がある。

そこで、退職金の受け取り方別のメリット・デメリットとともに、それぞれの受け取り方で税負担や手取り額がどのように変わるのかについて解説する。

退職金の受け取り方は3パターンある

退職金の受け取り方は3パターン ! 手取り額が一番多いのはどの方法 ?
(画像=tamayura39 / stock.adobe.com)

退職給付制度を設けている企業の場合、従業員の退職金の受け取り方は大きく以下の3パターンに分類できるが、企業によってどのように受け取れるかは異なる。

  • 一時金 (一括受け取り)
  • 年金 (分割受け取り)
  • 一時金+年金

どの受け取り方でも「所得税」や「住民税」が課税される。一時金で受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、税負担の面では年金として分割で受け取る場合より有利になる。

一方、年金として分割で受け取る場合は退職金の運用期間が長くなるため、受け取り総額が増える可能性がある。

【受け取り方別】メリット・デメリット

前項でも少し触れたが、退職金の受け取り方によってメリットやデメリットが異なってくる。以下で、詳しく解説していく。

「一時金 (一括) 」で受け取る場合のメリット・デメリット

一時金として一括で受け取る場合のメリットは、「退職所得控除」が適用されることだ。退職所得控除が適用されると、退職金の課税金額を抑え、税負担が軽減できる。そしてこの退職所得控除額は勤続年数が長いほど増える仕組みとなっている。

デメリットは、退職金を一括で受け取ってしまうことから、年金で分割して受け取る場合より退職金の運用期間が短くなり、受け取り総額が少なくなってしまうことがある点だ。

「年金 (分割) 」で受け取る場合のメリット・デメリット

年金として分割で受け取る場合、前述の通り、退職金の運用期間がその分長くなるため、受け取り総額が増える可能性があることがメリットだ。

年金で受け取る場合は退職所得控除が適用されないことがデメリットだが、一方で「公的年金等控除」という制度により、所得や年金額によって一定金額が課税所得額から差し引かれる。

「一時金+年金」で受け取る場合のメリット・デメリット

一時金+年金の併用型の場合、退職時にある程度まとまった資金を受け取りつつも、リタイア後の定期収入も得られる点がメリットだ。

一方、退職所得控除が最大限生かせない場合があることや、全てを年金で受け取るよりも受取総額が少なくなる可能性があることがデメリットとなる。

【受け取り方別】手取り額をシミュレーション

退職金の受け取り方によって手取り額にも差が生じる。どの程度手取り額に違いがあるのか、それぞれのパターンでシミュレーションしてみよう。

手取り額は勤続年数や家族構成、再雇用の有無など諸条件によって異なるが、ここでは以下の前提条件で計算する。なお、表を見やすくするため、給与所得控除や雑所得の区分など、出典が国税庁のデータ以外は1万円以下を四捨五入して記載している。

(前提条件)

  • 東京都在住、勤続期間40年、退職金2,200万円、5歳以上年下の配偶者と2人暮らし、60歳で退職
  • 60歳から再雇用され5年間勤務、年収360万円 (標準報酬月額30万円) 、東京都で協会けんぽに加入、高年齢雇用継続給付は考慮しない
  • 給与から控除されるのは給与所得控除 (下表に相当する金額) 、基礎控除 (所得2,400万円以下の場合48万円) 、配偶者控除 (所得900万円以下の場合38万円) 、社会保険料控除 (支払った社会保険料の全額) のみ
給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
162万5,000円まで55万円
162万5,001円から180万円まで収入金額×40%-10万円
180万1円から360万円まで収入金額×30%+8万円
360万1円から660万円まで収入金額×20%+44万円
660万1円から850万円まで収入金額×10%+110万円
850万1円以上195万円 (上限)
  • 公的年金は200万円、加給年金は40万円
  • ※加給年金は厚生年金の被保険者が65歳になった時点で、被保険者が扶養する子どもや配偶者がいた場合に支給される
  • 住民税の計算は当年収入をもとにする
  • 退職年金で算出する際の受け取り期間は10年、利率は0.75% (企業年金連合会の予定利率、2023年現在)
2,200万円を「一時金」で受け取った場合
収入税金・社会保険料手取り額
60歳時退職一時金2,200万円なし (※1)2,200万円
60~64歳給与360万円×5年=1,800万円68万円 (※2) ×5年=340万円1,460万円
65~69歳公的年金240万円×5年=1,200万円38万円✕5年=190万円1,010万円
額面合計5,200万円税額合計530万円手取り合計4,670万円
※1 勤続年数40年の退職所得控除で計算:800万円 + 70万円 × (40 - 20年)
※2 税額17万1,600円+社会保険料51万円≒68万円
2,200万円を「年金」で受け取った場合
収入税金・社会保険料手取り額
60~64歳給与360万円×5年=1,800万円
退職年金222万円×5年=1,110万円
105万円 (※3) ×5年=525万円2,385万円
65~69歳公的年金240万円×5年=1,200万円
退職年金222万円×5年=1,110万円
108万円 (※4) ×5年=540万円1,770万円
額面合計5,220万円税額合計1,065万円手取り合計4,155万円
※3 所得税22万円+住民税32万円+社会保険料51万円=105万円
※4 所得税24万円+住民税34万円+国保37万円+介護保険13万円=108万円
1,100万円を「一時金」1,100万円を「年金」で受け取った場合
収入税金・社会保険料手取り額
60歳時退職一時金1,100万円なし1,100万円
60~64歳給与360万円×5年=1,800万円
退職年金111万円×5年=555万円
83万円 (※5) ×5年=415万円1,940万円
65~69歳公的年金240万円×5年=1,200万円
退職年金111万円×5年=555万円
78万円 (※6) ×5年=390万円1,365万円
額面合計5,210万円税額合計805万円手取り合計4,405万円
※5 所得税11万円+住民税21万円+保険料51万円=83万円
※6 所得税13万円+住民税23万円+健康保険料29万円+介護保険料13万円=78万円

どの方法で受け取るのが最も得かを判断する重要なカギになるのが「退職所得控除」の制度だ。退職所得控除は勤務年数が長いほど多くの金額を控除できる。したがって、一時金よりも控除額のほうが多ければ非課税で受け取ることができるのだ。

上記の例の場合、退職一時金は2,200万円だが、40年勤務の場合の退職所得控除額も2,200万円のため差し引きゼロとなり、所得税は課税されない。退職所得控除額は下記サイトで確認できる。

国税庁「源泉徴収のための退職所得控除額の表」

もう一つの判断ポイントは、退職年金と公的年金・給与との合算の有無である。一時金で全額受け取る場合は公的年金のみになるが、退職年金で受け取ると公的年金や給与と合算して計算しなければならず、かかる税金も多くなる。

退職年金の手取り額については便宜上「2,200万円÷10年×0.75%=年222万円 (併用の場合は年111万円) 」としているが、実際には複利運用されもっと細かい計算になる。

一方、公的年金しかない場合は、かかる税金 (所得税・住民税) と社会保険料 (国民健康保険料・介護保険料) は支給額から天引きされるので自分で計算する必要はない。

公的年金等にかかる雑所得の金額は年齢区分によって異なるので、下記速算表で確認するとよいだろう。公的年金と退職年金を合算する場合もこの速算表に当てはめて計算する。

公的年金等の収入金額公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満の方60万円以下0円
60万円超130万円未満収入金額-60万円
130万円以上410万円未満収入金額×0.75 -27万5千円
410万円以上770万円未満収入金額×0.85 -68万5千円
770万円以上1,000万円未満収入金額×0.95 -145万5千円
1,000万円以上収入金額-195万5千円
65歳以上の方110万円以下0円
110万円超330万円未満収入金額-110万円
330万円以上410万円未満収入金額×0.75 -27万5千円
410万円以上770万円未満収入金額×0.85 -68万5千円
770万円以上1,000万円未満収入金額×0.95 -145万5千円
1,000万円以上収入金額-195万5千円

3つの受け取り方の手取り額をシミュレーションした結果、最も手取り額が多いのは「一時金受取」となった。受け取る年金も公的年金のみなので、シンプルでわかりやすい。

年金で受け取る場合は退職年金を公的年金や給与と合算して計算しなければならず、手取り合計が減ってしまう。手取り額を少しでも多くしたいならば、退職所得控除をフルに活用して一時金で受け取るのがベストと考えてよいだろう。

なお、上記のシミュレーション結果は、仮定に基づく一定の前提のもと、簡便な方法により算出したものであり、実際の税額とは必ずしも合致しないことがある。また、居住する自治体の国民健康保険や介護保険料率、企業年金の運用率や年金額などによって、同じ条件でも金額は異なる。今後の税制によっても変わる可能性があるため、最新の税制を確認する必要がある。

税額が今後増える可能性も

一時金を受け取る場合の退職所得控除に関しては、内閣府が公表している「経済財政運営と改革の基本方針2023」において制度の見直しを行うとされている。そのため、政府の方針次第では控除額が小さくなり、結果として税負担が増える可能性がある。

現時点ではどのような見直しが行われるか分からないが、税負担が増えるケースも想定し、できる限りの備えをしておくことが大切であることは言うまでもない。

リタイア後に向けて資産運用で万全の備えを

ここまでの説明で、退職金における税負担の知識や、今後課税額が増える可能性があることが分かって頂けたかと思う。老後の生活資金を退職金に頼るのはいいが、より万全に備えるのであれば、早めに資産運用を始めておきたい。

資産運用の選択肢の一つとして「外貨預金」がある。以下で、その魅力や外貨預金において堅実なリターンを狙う方法について紹介する。

外貨預金の魅力

外貨預金の魅力は、円預金より高い金利収入を安定的に得られることに加え、為替レートの変動による利益も狙えることだ。

また、株式投資などに比べて初心者でもスタートしやすいことも魅力といえる。株式投資では銘柄選びが大変だが、外貨預金では、取引量が多く為替レートが比較的安定している外貨で運用する場合、どの外貨にするか選ぶのはさほど難しくない。

外貨預金で堅実なリターンを狙う方法

外貨預金で損失が生じるのは、為替差損が発生するケースだ。そのため、外貨預金で堅実にリターンを狙うなら、単一の外貨ではなく複数の外貨で運用したり、積立型でリスクを平準化し、じっくりと残高を増やしていくことで、為替差損のリスクを軽減するのが正攻法といえる。

複数の外貨で運用すれば、1つの外貨で為替差損が出たときでも、ほかの外貨では評価益が出ていることもあり、結果として外貨預金全体の資産価値の変動が穏やかになりやすい。積立型であれば、極端な円安のときに多くの外貨を購入するリスクを避けられる。

外貨預金で第二の人生に備えよう

長年勤務した結果得た退職金は可能な限り多く手元に残したいところだ。退職金の受け取り方に関しては、すべて分割して年金で受け取ると不利になる可能性があるため、退職所得控除を活用した場合と試算して受取方法を選択するのが望ましい。

一時金として受け取った退職金も、そのまま置いておくのではなく、年金受取のようにその後の運用を考慮して、一部を金利が高い外貨預金で運用するのもよいだろう。所有する外貨の種類を複数に分散することで、為替リスクも低減できる。外貨預金を上手く活用して、第二の人生に備えてみてはいかがだろうか。

(提供:大和ネクスト銀行


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