次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が成長企業経営者と対談を行い、その経営戦略に迫る。今回は株式会社IBJの石坂社長にお話を伺った。
これまでの事業変遷と業績トレンド
冨田:まずは事業の変遷についてお話いただけますか?
株式会社IBJ 代表取締役社長・石坂 茂氏(以下、社名・氏名略):創業は2000年で、当初はインターネットを中心に「結婚を目的とした人」をマッチングさせるサイトを運営していました。その後、リアルな出会いの場を提供するために、対面のイベント事業を展開しました。ウェブアプリの事業、それからアプリで出会えないという声に応えるためにパーティーで実現しようということでイベントの事業、イベントで出会えるようにはなっても、さらにその後のサポートが必要だということで、結婚相談所の事業を展開しました。結果的に、2012年に上場してから2015年に東証一部に上がることができ、テンポよく全事業を伸ばしていくことができています。
2015年東証一部に上場後は、既存の事業を伸ばす一方で、M&Aにも力を入れました。特にウェディングやライフデザインの分野を強化したのです。2019年から2020年にかけては、かつての業界大手であるサンマリエやツヴァイがグループに参画しました。昨年末にはオーネットと資本業務提携を行い、先行投資を行うことで、事業を伸ばしていく予定です。
冨田:起業された2000年代はオーネット、ツヴァイ、サンマリエの3社が業界の大手企業でしたね。それらの企業がグループに参画することになった背景は何でしょうか?
石坂:業態が古くなり、新陳代謝ができず業績が厳しくなっていた中で我々のプラットフォームにメリットを感じていただいたからです。IBJのプラットフォームを活かすことで、自社だけではなくプラットフォーム全体でのお見合いができるようになりました。結果として、赤字だったサンマリエ・ツヴァイを立て直すことに成功し、IBJのプラットフォームとしての価値を上げていくことができたのです。
冨田:コロナ禍で影響はありましたか?
石坂:コロナ禍では、パーティー事業が影響を受けました。しかし、コロナが明けてからは成長路線に乗っています。
現状、2024年の連結業績予想として、売り上げは約182億円、利益は約23億円を見込んでいます。引き続き、既存の事業の改善やM&Aによって、成長路線を継続していく予定です。
冨田:今後の展望に期待が持てますね。ありがとうございます。
上場時のエピソード
冨田:貴社は婚活業界における初めてのIPO事例でしたが、それに伴う苦労はありましたか?
石坂:はい。上場前後のIBJに対する評価は厳しかったです。そもそもアベノミクス前夜で、マーケットは沈んでおり、高いPERは望めない状況でした。加えて、そもそも婚活という事業分野については上場ができないと言われていたのです。
厳しい状況ではありましたが、単純に店舗展開するだけではなく、日本に昔からある仲人さんや結婚相談所というシステムを再編成してプラットフォーマーになっていくという構想が評価されました。結果的に、無事に上場を果たすことができました。
経営判断をする上で最も重視していること
冨田:大切にされてきた経営判断の基準について教えてください。
石坂:経営判断において大切にしていることは「利益と社会性の実現」「スピード感と直感」「参入のタイミングと市場環境」の3つです。
1つ目の「利益と社会性の実現」は長期的な事業の発展のために重要だと考えています。単純に儲かるビジネスは多くありますが、顧客サイドでのベネフィットをきちんと踏まえなければ短期的に終わってしまいます。一見矛盾するようですが、「利益と社会性の実現」を行うことが長期的に事業を発展させていくために重要です。
2つ目は、「スピード感と直感」です。もちろん一定のリサーチは実施しますが、データを基にした意思決定は誰でもできますし、AIにも代替されます。そのため、データを踏まえた上での直感とスピード感を持った意思決定を重要視しています。
3つ目は、「参入のタイミングと市場環境」です。特にタイミングは非常に重要で、マーケットに受け入れられる状態になる前にプロダクトをリリースした場合、失敗する傾向があります。私自身もそのような失敗を経験しているので、タイミングを見極めることは重要です。
また、どれだけ独自性を実現し、他社がやらない分野で潜在的な市場を掘り起こせるかということが重要だと考えています。既に市場がある事業や、多くの事業会社が取り組む分野では、レッドオーシャンになっていたり、コモディティ化が早いです。そのためなるべくそのような分野には取り組まないようにしています。勝ち筋が見える事業は潜在的なマーケットがあり、かつ他の人が取り組んでいない分野です。その部分を見つけていくことを意識しています。
今後の婚活市場の見通し
冨田:今お話いただいたマーケットという観点では、日本の婚姻件数は年々減少しています。その中で石坂代表は今後の婚活市場をどのように捉えられているのでしょうか。
石坂:マクロ的に見ると、結婚カップルが減少し、未婚化や晩婚化が進んでいるため、市場は縮小していくと考えられています。しかし、結婚したいができないという人はまだ取り込みきれていません。実際、マッチングアプリの利用者は増えているため、拡大の余地があると考えています。また、地方の人口減少が加速度的に進んでしまっているため、地域での結婚カップルを増やすことを目的にさらに事業展開ができれば、市場を拡大することができると考えています。
冨田:今後、事業を拡大する上で具体的な目標はありますか。
石坂:去年は約1万2000組超の結婚カップルが誕生しました。2027年には2万組の結婚カップルを実現したいと考えています。これは日本の結婚数において約20組に1組がIBJでカップルになるということです。
冨田:素晴らしいですね。婚活の周辺マーケットへの進出についてはどのように考えていらっしゃいますか。
石坂:婚活を起点に、結婚に伴う引っ越しやハネムーン、保険など、ライフデザイン分野への進出を図っていきます。
実際、結婚する多くのカップルが引っ越しを伴うため、結婚に伴う引越しや新居の需要にも応えています。お見合いに関しては、月に6万件以上行っています。お見合いは、単価の高いカフェやホテルのラウンジで行われることが多いです。いかに独自の手法で流れを捉えていくかが、重要だと考えています。IBJとしては真摯なパートナーシップのための新たな出会いの仕方を支援していきたいと考えています。
思い描いている未来構想
冨田:次に、貴社の未来構想についても教えてください。
石坂:日本の婚姻件数が50万組を切って減少し続ける中で、パートナーシップの多様化に寄与し、多様な結婚カップルの誕生に寄与していきたいと考えています。
欧米の少子化に苦労した国は、パートナーシップの多様化が進んでいます。結婚してない夫婦から生まれてきた子どもが社会的デメリットがなく育っていけるセーフティーネットがあるのです。日本もそのような社会制度に切り替えていく必要があると考えています。そのためにはどんなパートナーシップが求められているのかを個別にヒアリングをしていく必要があります。現在、IBJは結婚という枠組みの中だけで仲介機能を果たしていますが、今後は枠組みを超えてパートナーシップの健全な多様化に貢献していきたいと考えています。
ZUU onlineユーザーならびにその他投資家へ一言
冨田:最後に、ZUU onlineの読者や投資家の方たちに一言メッセージをお願いします。
石坂:ZUU onlineの読者の皆様には、人口減や少子高齢化といった社会的な問題をIBJと一緒になって考えていただければありがたいなと思います。IBJはこれまでも株主さんとの対話を大切にしてきました。ぜひIBJの取り組みにご意見をいただき、共感いただけるのであれば株主として応援いただきたいです。
冨田:本日は貴重なお話をありがとうございました。
- 氏名
- 石坂 茂(いしざか しげる)
- 社名
- 株式会社IBJ
- 役職
- 代表取締役社長