次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回お招きしたのは、株式会社ビューティガレージ代表取締役CEOの野村秀輝氏。同社と言えば2003年の創業以降、BtoB美容商材のインターネット卸など、サロン向けの各種サービスで業界を改革し続けている。成長著しく、2013年には東証マザーズ、その3年後には東証1部に上場を果たしたほどだ。ここでは野村氏に、事業の変遷や強み、今後の展開などについてお聞きした。(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社ビューティガレージ
(画像=株式会社ビューティガレージ)
野村 秀輝(のむら・ひでき)
株式会社ビューティガレージ代表取締役CEO
1967年石川県生まれ。1990年青山学院大学経済学部卒業。広告代理店中央宣興株式会社に入社し企画営業職として勤務後、同社のタイ、インドネシア拠点に合計5年半駐在。うち後半2年、現地法人社長として経営を担う。帰国後の2001年1月、外資系広告代理店 株式会社マッキャンエリクソンに入社、アカウントディレクターとして約2年間の勤務を経て、マーケティングプランナーとして2002年11月に独立・起業。その半年後になる2003年4月、株式会社ビューティガレージを設立し、代表取締役CEOに就任。「美容業界を変える」という企業理念のもと、理美容・エステ・ネイルなどの美容サロンを対象に、国内No.1のBtoB美容商材EC運営を特徴とする物販事業に加えて、店舗設計、ソリューション事業を展開。2013年2月マザーズ上場、2016年7月東証一部上場。現在、国内外にグループ企業14社を束ねている。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

中古美容器具の買取と販売から始まり
サロン向けのサービスを大きく拡大

株式会社ビューティガレージ

冨田:本日はよろしくお願いいたします。振り返ると2006年頃ですが、前職の証券マン時代に私は御社を訪問したことがありました。当時は東京都の荻窪にオフィスがあり、1階にたくさんの美容器具が並んでいたことを覚えています。その後、無事に上場されて破竹の勢いで成長を続けていますが、まずは今日までの事業の変遷からお聞かせください。

野村:そうでしたか。こちらこそ、本日はよろしくお願いいたします。当社は2003年に創業し、祖業は中古美容器具・機器の買取と販売です。理美容業界は古い商慣習が色濃く残り、なかでもビューティーサロン(以下、サロン)向け業界は大手機器メーカー・大手問屋・ディーラーといった大手数社による寡占市場が形成されています。その結果、サロン事業者は対面営業で特定の業者が提供する限られた選択肢の中から割高なものを選ぶしかありませんでした。これは経営上の大きなハンデであり、そんな状況を打破すべく美容器具・機器市場にリユースの選択肢を旗印に起業したのです。最初の3~4年はこの領域でナンバー1企業になるべく、全国12カ所に買取拠点を構えオンラインと店舗で販売していました。

株式会社ビューティガレージ

以降は事業モデルが進化し始め、セカンドステージでは美容機器のSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)企業となりました。というのは、中古だけでは品物がそろわないので新品を扱いたかったのですが、我々の事業モデルは既得権益者からすると目の敵のような存在で、大手機器メーカーが口座を開いてくれなかったのです。ならば自分たちで作ろうと考え、一時はPB(Private Brand)商品の売り上げが全体の6~7割に迫る勢いでした。また、美容器具・機器を購入するのはサロンの新規・独立出店時がメインですから、開業支援をもう1つの事業ドメインに据えました。これを入り口に最終的に美容器具・機器の販売につなげるのが、当時の事業モデルでした。

ここ5~6年ではさらなる進化を遂げていて、今のステージではサロン向けの材料や化粧品が売り上げの過半となってきています。美容器具・機器だけではなく、材料・化粧品・消耗品も当社でそろえることができるような、美容の総合商社としての立ち位置を考えました。こうした施策により現在のPB商品比率は4割くらいに減り、NB(National Brand)が6割、売り上げの過半は消耗品であるストック型商材が占めています。美容商材のナンバー1プラットフォーマーが目指すべきビジネスモデルです。加えて開業だけではなく既存店の繁盛支援も手掛けるなどソリューションの面でも進化し、今日に至っています。

冨田:御社のビジネスモデルは斬新で、はやくからベンチャーキャピタルも注目していました。業界の風雲児のイメージで、今はさらに事業ラインナップを拡充しています。カバレッジを広げながらも市場を取っている背景には、どういった競争優位性があるとお考えですか。

野村:美容のプロ向けのドメインを押さえると勝算があると思いビジネスを始めましたが、横展開ではなく深掘りをしていく発想でいました。一方、顧客基盤が増えていく中、最も大事な顧客データを生かすためにも、新しい商品やサービスをどんどん生み出してきたことが、結果的に優位性になったと考えています。

冨田:顧客に深く入り込むためには事業開発力もそうですし、繫盛支援など事業モデルが広がっても支持を得ることができるのは、サロンとの信頼関係が醸成されているからでしょう。かつ、事業構造が変わっても成長し続けることができるのは、感心するばかりです。

野村:能力としてのコアコンピタンスは、「これもいけるのでは?」とさまざまな企画を立案して展開、躊躇なく実行することかもしれません。うまくいっているように見えて、裏では失敗して撤退した企画もありますが、何事にも果敢にチャレンジするのは、私たちならではでしょう。

冨田:10発中すべてがヒットする会社はありませんが、数を打つ中でいくつかの事業が成長し、そうでないものは撤退基準を設けながら、コアを作っていると理解しました。一方、経営戦略の意思決定において、御社の特徴はどこにあるのでしょうか。

野村:当社は美容業界に新しい価値を生み出す、新しい風を吹かせることを企業理念に掲げています。新しい価値、新しい選択肢として意義があるかどうかは、経営判断において常に重要視しています。その事業に社会正義性が伴うかどうかも大きな判断材料です。個人的には心が躍る、チャレンジングであることも大切にしています。

冨田:その結果として事業がどんどん立ち上がり、2021年第2四半期の売上高は前年同期比137.1%の114億7500万円を記録しました。

野村:前期の業績が新型コロナでやや伸び悩んだので、より成長性が高く見えている部分もあるかもしれません。ただし、足元はコロナ禍の影響によるデジタル化促進の追い風を受けていることは、紛れもない事実です。美容業界はオフライン流通が主流でしたが、これを契機にデジタル化の大きな波が到来しています。

冨田:いまは、ホットペッパービューティーなどで集客ツールがあり、デジタル化が進んでいると思いがちですが、そうではないのですね。

野村:集客はデジタル化していますが、商材流通は既存プレーヤーが対面型ルートセールス中心の古い商慣習を作り上げていて、まだまだオフライン中心の世界です。EC化率は1割いくかどうかですが、新型コロナの影響を受けてオンラインに移行しつつあります。

冨田:そうであれば今後、デジタル化のキャズムを超えた瞬間に、一気に状況は変わるでしょうね。工具や日用品をオンラインで扱う「モノタロウ」は地道に取引先を増やした後にブレイクスルーを果たしましたが、美容業界でも同じことが起きそうです。

野村:ユーザー側からのキャズムは超えつつあると感じています。ところが、流通側では中間流通業者からのプレッシャーゆえ当社に商品を卸していただけないメーカー様もあり、商品がそろいきらないのがボトルネックです。今は何よりもメーカー様との口座開設に力を入れています。いくら安くて便利でも、欲しいものがないと話になりません。

新たな領域へのチャレンジがスタート
美容業界を変える姿勢を貫き通す

冨田さん

冨田:ここまでのお話で、御社が1つ1つマーケット革命を起こしてきたことがわかりました。さらに驚いたのは、2021年12月に連結子会社の株式会社ジムガレージを設立し、フィットネス/スポーツジム向けに新事業を展開すると発表したことです。肉体改造などを内面的なビューティと捉えたのでしょうか。

野村:美容とフィットネスは関連性の高い領域であり、ボディメイクについてもエステティックやマッサージ施術とフィットネスの相乗効果が注目されています。「フィットネスもやるのですか?」という声もありますが、私は広義の美容業界だと考えています。

冨田:おっしゃるとおり、美と健康は密接につねに絡み合う関係です。

野村:美容サロン業界で培った成功と苦労を生かして、同じような事業をフィットネス業界向けに展開したく、まさに心躍る気持ちです。

冨田:ビューティの概念が広がる取り組みに、私も期待しています。それでは最後に、御社の未来構想をお聞かせください。

野村:今はまさに次のステージに行く段階で、その方向性を示したのが先と同じく2021年12月に発表した、美容サロン向けネットショップ構築サービスの「Salon.EC(サロンドットイーシー)」です。美容室やエステサロンなどの美容サロンがサロン専売品などを販売する公式ネットショップを作るためのSaaS型のサービスで、2022年2月22日より当社会員に無償で提供を始め、美容サロンのDXを支援します。

我々はこれまでBtoBにこだわってきましたが、今回は最大のアセットであるサロンの皆さまにECプラットフォームを提供することで経営に役立てていただくだけではなく、BtoBtoCの形で間接的に消費者へ商品を販売する構図です。技術者ゆえ物販が苦手なサロンスタッフは多く、売れたとしても2回目以降は他のECサイトで買われることも珍しくありません。そういった商流を止めて、パブリックからサロンに売り上げを戻す流れを作りたいと思います。

技術料だけでは属人的で労働集約型のビジネスになりますが、ECが稼働すると経営効率が改善し収支がよくなります。サロンのお役に立つサービスを提供しながら、結果として当社の商品も出るようになればWin-Winの関係を作ることが可能です。これは、中期経営計画で出している数値に対してアドオンになる事業なので、面白くなると予感しています。

冨田:お話を聞いて、美容業界版の「Shopify(ショッピファイ)」のような市場ができると感じました。BtoCの会社は各領域に特化して、商品も重要ですが自分たちのコンテンツや芸能人などを起用して、世界観やブランドを醸成します。これがセットになり顧客がファンにならないと、リピーターになってくれません。そのなかで、サロンがいろいろな商品を開発してメーカーのような存在になり、公式ネットショップで販売できると顧客接点が強くなり、囲い込む市場になっていきます。

野村:サロンPBはニーズが増えていて、我々もオリジナル商品の製造を受託しています。さらに、開発した商品を当社のフルフィルメントセンターでお預かりし、受注・保管・配送代行をしていますから、BtoBtoCにも生きてくるでしょう。

冨田:これまで取り組んできたITと物流といった強みが掛け算されるわけですね。

野村:「Salon.EC」では商品保管や管理の手間もなく、販売手数料も原則無料です。また、「Salon.EC」では1つのネットショップで、一般の方向けと来店したことがある会員向けに販売する商品群を分けることができます。売りたい人に売りたい商品を販売することが可能ですから、他のECサイトへの流出も抑えられると思います。おかげ様で事前予約が殺到していて、うれしい悲鳴を上げています。ただし、問題はネットショップ開設後に実際に商品が売れるかどうかなので、販促支援をメニュー化するといった施策も準備しています。

冨田:フィットネスとネットショップの構築支援という、新たな挑戦が始まっていることがわかりました。これまでも新事業の成功体験があるからこそ、今回も確度の高さを感じます。

野村:オンリーワンのビジネスモデルを作ることができるのは、我々の武器であり差別化ポイントです。

冨田:横展開したいところを、圧倒的になるまで深く入り込み市場を獲得する。そこに御社の強さがあると理解しました。本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
野村 秀輝(のむら・ひでき)
会社名
株式会社ビューティガレージ
役職
代表取締役CEO
出身校
青山学院大学