この記事は2024年8月7日に「CAR and DRIVER」で公開された「真夏の富士を戦かった16歳「佐藤こころ」選手KYOJO CUP Rd.2、Rd.3密着レポートその1」を一部編集し、転載したものです。
7月20日、21日に富士スピードウェイで第1回瑶子女王杯スーパーフォーミュラ第4戦と併催される形で、KYOJO CUP第2戦と第3戦が開催された。
筆者は今回のKYOJO CUPに、76号車佐藤こころ選手の新米メカニック兼エンジニアとして参加した。今回は、現役女子高生の彼女の真夏のサーキットでの戦いぶりをお伝えする。
KYOJO CUP第2戦と第3戦は斎藤愛未選手の連勝という形で幕を下ろした。今回の大会では、スーパーフォーミュラ第4選手に出場した坪井翔選手が優勝を飾り、斎藤愛未選手×坪井翔選手の夫婦優勝としても話題を呼んだ。
現地はとても暑い2日間だったが、今回のレースは非常に盛り上がり、2日間を通しての来場者数は延べ4万9200人を記録した。レース前の瑶子女王殿下のスピーチでは「にわかファンではございません!」とモータースポーツへの愛を披露され、会場中が微笑ましい雰囲気に包まれていた。
佐藤こころ選手は、現在16歳の高校生レーシングドライバーだ。自動車運転免許はまだ持っていないが、カートでの成績が認められ、四輪車のJAF公認国内競技に参加できる限定Aライセンスを取得。2024年はゼッケン76号車「ELEVレーシングドリーム OS スハラ VITA」でKYOJO CUPに参戦中だ。
初めてのレースとなった開幕戦では28台中17位で完走。今回、第2戦と第3戦に向けて17日の木曜日から富士スピードウェイに入り、練習とセットアップの熟成を重ねてきた。
■佐藤こころ選手 コメント
「今回のRd.2、Rd.3は、正直レース前から開幕戦より緊張してました。サーキットの雰囲気がいつもと違っていたり、スーパーフォーミュラと併催だから結果を残したい!っていう気持ちがあったのが、大きかったと思います」
佐藤選手は5月の開幕戦から7月のレースまでの間、富士スピードウェイのショートコースにて、シフト操作や、クルマの動かし方についてレーシングチームELEV RACING DREAM(エリーブ・レーシング・ドリーム)の前田大道代表の指導のもと、練習を重ねてきた。
コーナリング時に荷重が加わった際のアンダーステア、オーバーステア、ニュートラルステアを見極め、それがどうラップタイムやタイヤの摩耗、ミスを減らして走ることに作用していくのか、いろいろ試してみてデータを参考にしながら体で覚えていったようだ。
前回のレース(Rd.1)の際には、フルブレーキが必要なコーナーでのブレーキの強さに苦戦しているといっていた佐藤こころ選手に現在の心境を聞いてみた。
■佐藤こころ選手 コメント
「フルブレーキはショートコースの特訓もあってか、開幕戦と比べてかなりよくなりました! いまの課題は、富士スピードウェイのスープラコーナーなどの、コントロールが必要なブレーキです。ブレーキが強すぎて車速が落ち過ぎてしまっていたり、逆にブレーキが弱すぎてアンダーが出てしまっていたりするので、車を安定させながら走らせるブレーキを勉強中です」
木曜日のVITA走行枠ではセッティングを煮詰めながら、富士スピードウェイを走る感覚をつかんでいき、好調なラップタイムを記録。
走行終了後には、来年のKYOJO CUPに関するミーティングが行われ、公式発表に先がけて、エントラント向けに来年度のKYOJO CUPニューマシンがお披露目された。
新マシンについての詳細は、別途記事にまとめたので、そちらを参考にしていただきたい。
■2025年から女性限定のレース「KYOJO CUP」に新型フォーミュラマシン導入への記事はこちらからお読みいただけます
■佐藤こころ選手 コメント
「来年度の新マシンを見て、私自身フォーミュラカーが大好きなので、新しいKYOJOマシーンを見たときはすごく痺れました。見るだけでも感動しましたが、実際に走ってみたいと思いました! フォーミュラ車両のKYOJOCUPにぜひ参戦したい気持ちでいっぱいです!」
7月19日金曜日。KYOJO CUP第2戦、第3戦の予選が実施された。各ラウンドのグリッドは予選中トップタイムが第2戦のグリッド、セカンドベストタイムが第3戦のグリッド順となる変則的なルールが適用された。
予選前のフリープラクティス1回目では、上位勢に食い込むほどのラップタイムを記録し、スタートは上々かと思えた。しかしフリープラクティス2回目にトランスミッションに問題が発生。ピットは修復作業に追われた。
■佐藤こころ選手 コメント
「ストレートでギアを3速から4速に入れたところ、勝手ニュートラルに戻ってしまう現象が起こりました。最初は何が起きたのかわからず、すぐにピットに戻りました。原因はギア抜けでした」
ピットで原因究明すると、4速のシンクロメッシュ機構に問題があることが判明。
シンクロメッシュ機構は、回転速度の異なる2つのギアを素早く円滑に嚙み合わせるために必要な部品だ。この部品が原因でギアチェンジがスムーズに行えなくなっていると推測される。交換にはトランスミッションの分解または載せ替えが必要で時間を要する。
タイミング悪く、トラブルが発生したのは予選直前の出来事だったので、時間的にトランスミッションを交換することができない。時間の許す範囲でシフトリンケージやワイヤーやロッド、特殊な添加剤によって症状が緩和しないか試行錯誤をしたが、予選開始までには間に合わない状況だった。
また、チーム代表が不在だった関係で、筆者が指示を出す立場にあった。最悪予選出走はあきらめて嘆願書による決勝進出を望むか、現状での出走かの選択を迫られた。
チームで相談後、結果的に予選通過に必要な120%ルールのラップタイムは現状でも出すことが可能で、ほかに出走するドライバーたちと被らないタイミングで出走すれば安全性を考慮したうえで予選通過できると判断した。佐藤選手には悔しい思いをさせてしまい申し訳なかった。
■佐藤こころ選手 コメント
「予選直前の出来事だったので、ミッションを交換することができず、そのまま4速が使えない状況で走行することになりました。決勝2戦分のタイムは残したかったので、アウトラップ含め3周の走行でピットインし、120%ルールで何とかタイムを残すことができましたが、結果は最下位でした。壊してしまったのかな?とか、予選、決勝走れないかもと不安になりましたが、いまできることをしようと気持ちを切り替えて走りました。」
予選は最下位の29番手ながらラップタイムを記録し、明日の決勝進出へとつないだ。
予選走行後、トランスミッション載せ替え作業を行った。ギアオイルを抜くと、ギラギラとしたシンクロだと思われる金属片が混ざっていた。これが原因の1つだと思われる。
VITA-01は、トヨタVitzRS用の5速トランスミッションが搭載されている。操作はドライバーが右手で行う。市販車と同じHパターンシフトだ。
ミッドシップにエンジンを搭載する関係で、シフトに関するロッドやワイヤー類の取り回しは一新されているが、トランスミッション自体は一般車と同じだ。そのためレースで使用しようと思うと一般車使用時よりも部品の消耗速度は速くなる。各部品が定期的なメンテナンスや交換が必要となってくるし、この車両においても何人ものドライバーがサーキットで運転しているので根本原因を探すのは難しいだろう。
19日深夜9時頃、トランスミッション載せ替え作業は終わり、翌日の決勝日午前中に慣らし運転やオイルのフラッシング作業などをするということでこの日は終了となった。
レース歴12年の佐藤選手にトラブルについて聞いてみた。
■佐藤こころ選手 コメント
「Vitaに乗る前にもトラブルは経験してきましたが、いつまで経っても慣れないです。それでも、そのときに応じた対応はだんだん冷静にできるようになってきました。その日、睡眠時間は少なかったですが、いろいろな出来事があったので疲れていて、すごくぐっすり眠ることができました」
■佐藤こころさん プロフィール
佐藤こころ(さとう・こころ) 、2008年3月4日生まれ、A型、16歳。兵庫県出身。4歳からレースを開始し、2023年には全日本カートのFS125で年間ランキング5位を獲得。限定Aライセンスを取得しKYOJO CUPに76号車「ELEVレーシングドリーム OS スハラ VITA」より参戦中。
(提供:CAR and DRIVER)