本記事は、桑原晃弥氏の著書『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

先入観
(画像=Vitalii Vodolazskyi / stock.adobe.com)

先入観は可能を不可能にする

―― 『大谷翔平 野球翔年Ⅰ』

大谷翔平の恩師の1人、栗山英樹が大切にしている考え方の1つに「予備知識は重いほどいい。先入観は軽いほどいい」があります。栗山が現役選手時代の監督・野村克也の言葉です。

栗山によると、野球というデータがものを言うスポーツにおいては、予備知識というのは作戦を練るうえでとても大切なものですが、それが「先入観」になってしまうと、「この選手はこうだ」「この選手はチャンスに弱い」といった決めつけにつながり、本来、見えるはずのものが見えなくなるという怖さがあるというのです。

たしかに大谷翔平が日本ハムに入団するにあたり、ほとんどのプロ野球関係者が「二刀流なんてできっこない」と批判したのは「球界の常識」に反するという、言わば「先入観」のなせる業でしたが、栗山は先入観なしに大谷という選手の才能や素質を見ることで、「もしかしたらできるんじゃないか」と思えたからこそ大谷の挑戦を本気で後押しすることができたのです。

先入観を持たずにものを見て、挑戦することの大切さを、大谷は高校時代に経験していました。大谷は花巻東高校時代に当時としては考えられなかった「160キロ」を目標にしていますが、この時も「できないと思ったら終わりだ」と自分に言い聞かせながら練習に励むことで高校3年生の時に見事に達成しています。こう振り返っています。「自分で無理じゃないかと思ってたら(160キロ達成は)できなかったと思います。だから、最初からできないと決めつけるのはやめようと思いました」

この時の経験がその後の大谷に大きな自信を与えるわけですが、当時、高校生の大谷を支えていたのが監督の佐々木洋に言われた「先入観は可能を不可能にする」という言葉だったのです。

以来、大谷は日本で、そして大リーグで不可能と思えるようなことを次々に実現していますが、それを可能にしたのは、、「できない」という先入観を捨て、「やってみよう」「できるはずだ」と果敢に挑戦を続けてきたからなのです。

ビジネスの世界でも、最初から「できない」と思い込んでしまうと、本来は「できる」はずのことまで「できなくなってしまう」というのはよく言われることら、つい「無理だ」と言い訳をしたくなるものですが、まずは先入観や思い込みを捨てることが「無理」を「できた」に変えてくれるのです。

ワンポイント
先入観を捨て、白紙でものを見ること、「やってみる」ことを習慣にしよう。

まったく違う環境に行くということは、どの分野でも不安なことが多いと思う。
でも、さらに良くなる可能性がそこにあったら、僕はチャレンジしてみたい

―― 『道ひらく、海わたる』

「五月病」という言葉があります。

社会人や大学生、中高生や小学生などが新しい環境に適応することができないことに起因する精神的な病のことですが、たとえ病気にはならなかったとしても、誰にとっても新しい学校に入る、新しい職場に行く、住み慣れた場所から引っ越しをするといった「環境の変化」は不安なものです。

もちろん一方には「新しいところで一から頑張ろう」「どんなことが待っているのかワクワクする」といった期待もあるわけですが、「うまくやっていけるのだろうか」「おかしなことにならないだろうか」といったたくさんの不安があるのも事実です。

大谷翔平は一旦は高校からそのままメジャーリーグを目指したいという意思を表明しますが、ドラフトで日本ハムファイターズが指名したことによって違う選択をすることになりました。

交渉中、大谷は監督の栗山英樹に「アメリカではどうやって失敗するんですか」という質問をして驚かせています。成功ではなく、日本人選手が失敗するのはどんなケースかと質問するのを見て、栗山は「彼は野球選手として大丈夫な方向に進むはずだ」と確信したといいます。

これまで多くの日本人選手がメジャーに挑戦していますが、華やかな成功者の一方には、アメリカで目が出ずに帰国した人もいます。その中には、日本で確実にキャリアを積み、「日本でできることはやり尽くした」というほどの実績を挙げてから挑戦した人も少なくありませんが、だからといって全員が期待通りの成果を挙げられるわけではないというところに、メジャーの厳しさがあります。

一方、大谷はこれらの選手たちに比べて年齢的にも若く、まだ「やり尽くした」というレベルではありませんでした。素質は誰もが認めていましたが、二刀流という未知への挑戦でもありました。それだけに大谷にも不安はあったはずですが、大谷自身は技術的にも人間的にも少しでも自分が「良くなる可能性」があれば、新しい環境で「やってみたい」と考えていました。失敗の恐れがあることを十分に承知したうえで、さらなる成長に向けて挑戦をするというのが大谷の考え方でした。

大きな成長には時にリスク覚悟の大きなチャレンジが必要なのです。

ワンポイント
成長には、あえて厳しい環境に飛び込むことも欠かせない。
『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『大谷翔平の言葉』『栗山英樹の言葉』(以上、リベラル社)、『大谷翔平は、こう考える』[PHP研究所)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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