本記事は、桑原晃弥氏の著書『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

直感
(画像=Sergey Nivens / stock.adobe.com)

考えないで決める直感と、
本当に考え抜いて最後に決める直感とは
似て非なるものだと思っています

―― 『Number』1094・1095

人生の岐路に立った時、人は何を根拠に選択をするのでしょうか。

ある人は「どちらが成功の確率が高いのか」「どちらを選べば自分にとって得になるのか」を基準にするでしょうし、また別の人は自分で決めるのではなく、親の言うがままに選択するかもしれませんし、なかには占いなどに頼って決める人もいるかもしれません。いずれにしても「両方を試す」ことができない以上、どのような方法であれ、最後には1つに決めることが求められます。

大谷翔平は人生において幾度も「選択」をしていますが、最も大変だったのは高校卒業時の「直接メジャーリーグを目指す」か、「日本ハムに行く」かという選択だったのではないでしょうか。当初、大谷の気持ちは「直接メジャーリーグを目指す」一択でしたが、ドラフト会議から約1カ月半が経過した2012年12月、日本ハムへの入団を決めています。こう振り返っています。

「指名された後も、メジャーでやってみたいという気持ちが強かったですし、(日本ハムへは)行かないだろうと思っていました。ただ、何回も話をさせてもらって、やってみたいなという気持ちが強くなっていった。交渉を数回重ねていく中で、ここで自分を追い込んでいきたいと思うようになっていきました」

この時期、大谷は「あれだけ両親と話をしたことは今までなかったと思います」というほど話し合い、日本ハムの担当にも質問し、自問自答を繰り返しながら自分の意思を固めています。

大谷によると、「考えないで決める直感と、本当に考え抜いて最後に決める直感とは似て非なるもの」です。こう話しています。

「何も考えずに漫然と毎日を過ごしていて『ここは右か左か、どっちか決めろ』『ハイ、ここは直感で、左です』みたいな、そういう安直なものではありません。それは自分なりの確信を持った直感なんです。自分の中でいろいろと考えてきているからこそ、どっちなのかとなった時、それはこっちだよね、と自分なりの答えを導き出せる。毎日、積み重ねてきた経験があってこその直感だというところが大事ですし、決めるとなった事柄について深く考えた末の直観であることも大事です」

日々、さまざまなことについて考える訓練を欠かさない。その積み重ねがあって初めて行き当たりばったりとは違う、正しい直感をもたらしてくれるのです。

ワンポイント
日々、考えることを習慣にしよう。やがて正しい決断が素早くできるようになる。

期待は応えるものじゃなくて、超えるもの。
だから、周りが考える、そのもう1つ上を行けたらいいんじゃないかなと

―― 『大谷翔平 野球翔年Ⅰ』

「スターがファンの期待に応えるものだとしたら、期待を上回るのがスーパースター」は、「ミスタープロ野球」長嶋茂雄の言葉です。

プロ野球の歴史を見れば、長嶋以上の数字を残した選手は何人もいますが、いまだに「長嶋茂雄」という選手が人々の間で語り継がれるのは、デビュー戦での4連続三振や天覧試合でのホームランなど、人々の記憶に焼き付くプレーが多かったからではないでしょうか。さらに監督としても1年目の最下位の屈辱を2年目の最終戦の勝利で優勝を決めるといった奇跡を演じた、まさにスーパースターでした。

大谷翔平は花巻東高校時代に監督に言われたという「期待は応えるものじゃなくて、超えるもの」という言葉を好んで使い、そしてそれを実行してきました。

2016年7月、優勝を争うソフトバンクとの3連戦で日本ハムファイターズの栗山英樹監督は大谷を「1番・ピッチャー」で起用します。何としても勝利したい栗山監督は、「どの打順が相手に一番プレッシャーがかかるのか」を考え、大谷の1番起用を決めます。それを告げた時、大谷は特に返事はしませんでしたが、内心ではホームランを狙っていました。こう振り返っています。

「ホームランを狙っていくつもりというか、狙っていました」

打席に入った大谷はプレイボールからわずか5秒後にホームランを放ちます。プロ野球史上初となるピッチャーによる初球先頭打者ホームランですが、それは栗山監督を含め誰もが想像しなかったものであり、見た人すべてに強い衝撃を与えました。

「本当にこういう選手がいるんだな」が栗山監督の驚きでした。

大谷なら何かをやってくれるのではと「期待して」送り出したのはたしかですが、その日の大谷は「期待をはるかに超える」活躍をしてくれたのです。この戦いを経てシーズン後半を迎えた日本ハムは勢いそのままにリーグ制覇、そして日本一を手にすることになったのです。

同様の期待を上回る活躍を見せてくれたのが第5回WBCです。準決勝での逆転へとつなげる二塁打や、決勝戦最終回でトラウトを三振に打ち取ったシーンなどは紛れもなくファンや監督、選手の期待を超えるものでした。

大谷にとって期待は「応えるものではなく、超えるもの」なのです。

ワンポイント
「期待通り」ではなく、少しでも「期待を超える」ことを。それが評価につながる。

こういうふうになりたいではなく、
その人を超えるように頑張ってほしい

―― 『大谷翔平挑戦』

「岩手の野球関係者で知らない者はいない」ほどの存在だった大谷翔平が進学先として花巻東高校を選んだのは、練習環境などを見て、「ここでなら自分が成長できる」と感じたからですが、もう1つの理由は中学3年生の時に同校が選抜で準優勝、夏の大会でもベスト4に進出するほどの活躍をしたことです。

かつての岩手県代表は甲子園で対戦が決まると、相手校が喜ぶほど弱かった時期もありましたが、同校が「岩手から日本一」を掲げて快進撃を見せたことが大谷たち「岩手の選手」を刺激、入学へとつながっています。

原動力となったのは大谷同様にメジャーリーグで活躍している投手の菊池雄星ですが、菊池たちの活躍によって岩手が野球で熱狂し、みんなが1つになるのを目の当たりにした大谷は、花巻東への進学を決意します。

菊地という大エースが卒業してすぐに、大谷が入学したことで佐々木洋監督は喜びますが、同時に強い責任感を感じます。指導にあたり、大谷に話したのが、「『誰かみたいになりたい』という考えでは、その人を上回ることはない。『超えたい』と思わなければダメなんだ」です。

スポーツに限らず、芸能や芸術の世界でも誰かに憧れ、尊敬するというのはよくあることですし、決して悪いことではありません。かといって、それがあまりに強すぎると模倣に走り、「ミニ○○」にしかなれません。尊敬はしながらも、「超えていく」という強い思いがあってこそ、人は憧れの存在を凌駕することができるのです。

もっとも、大谷にはその心配は無用でした。

大谷が菊池の活躍に刺激を受けたのは事実ですが、一方で「もし雄星さんの世代がセンバツや甲子園で日本一になっていたら、僕は花巻東高校を選んでいなかったかもしれない」とも話しています。

大谷がやりたかったのは、菊池に憧れ、菊池のようになることではなく、菊池たち世代にもできなかった甲子園での優勝でした。二刀流がそうであるように、大谷を突き動かしているのは「誰もやったことのないことがしたい」という思いでした。

大谷はメジャーリーグへ旅立つ前、札幌ドームでの会見で子どもたちへのメッセージを求められ「こういうふうになりたいではなく、その人を超えるように頑張ってほしい」と答えていますが、それは大谷自身が恩師に教えられ守ってきたものでもありました。

ワンポイント
ロールモデルはあっていい。但し、それは指針であり、超えていく対象でもある。
『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『大谷翔平の言葉』『栗山英樹の言葉』(以上、リベラル社)、『大谷翔平は、こう考える』[PHP研究所)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』
  1. 先入観は可能を不可能にする ―― 大谷翔平の名言
  2. 「どちらが正解か」ではない、選んだ道で最善を尽くせばいい ―― 大谷翔平の名言
  3. 「指針」や「期待」は超えていくもの ―― 大谷翔平の名言
  4. 本当の成功は「やり尽くした」努力の先にある ―― 大谷翔平の名言
  5. 「メンタルも含めて技術」こそが成果の理由 ―― 大谷翔平の名言
  6. 与えられた条件の中で何ができるかに集中し、最善を尽くす ―― 大谷翔平の名言
  7. 地位や役職に相応しい人間であるとは、圧倒的な実力が必要 ―― 大谷翔平の名言
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