本記事は、桑原晃弥氏の著書『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

メンタル
(画像=kieferpix / stock.adobe.com)

緊張するからこそ、勝ったときにおもしろい

―― 『大谷翔平 野球翔年Ⅰ』

大谷翔平の魅力の1つは、真剣でありながらも、楽しそうに野球をしているところにあります。

もちろん負ければ悔しいし、チームが思うように勝てない時のストレスはかなりのものだと思いますが、それでもにこやかな表情をたたえ、礼儀正しさを失わないところが、多くの人に愛されているのでしょう。

しかし、そんな大谷もストレスを感じている時には「苦しい夢」をよく見るといいます。大谷によると、野球の夢もよく見るようで、一番多いのは、ライト前にヒットを打ったにもかかわらず、水の中を走っているような感じで、足が少しも前に進まず、一塁でアウトになる、というものです。

シーズン中、思うような結果が出ていない時に見るといいますから、大谷が感じているストレスの大きさが容易に想像できます。にもかかわらず、こうも言っています。

「いい結果が出ていない時には精神的なストレスを感じています。でも野球でストレスを感じるって、いいところだと思うんですよ。毎日毎日、結果が出て、良かった悪かったと思える職業ってあんまりないでしょ。そこが楽しいところだし、キツイところでもある」

2021年と2023年、大谷は投打で躍動しMVPを獲得しますが、その年もエンゼルスは勝ち越すことができず、早くにポストシーズン進出の望みが絶たれています。その結果を受けて大谷が「もっともっと楽しい、ヒリヒリするような9月を過ごしたい」と発言したことで、大谷は弱いエンゼルスを離れ、強いチームへの移籍を望んでいるといった報道が目に付くようになりました。

日本ハム時代、勝負に関して大谷はこんな発言をしています。

「勝てる勝負に勝っても嬉しくないですし、どっちが勝つかわからない、むしろ負けるかもしれないくらいの勝負のほうが、勝ったときの嬉しさは大きいのかなと思うんです。だから、緊張しないとおもしろくないかなって思います」

絶対に勝てる勝負に勝っても面白くないし、かといって負けるのはもっと面白くない。勝つか負けるか、まさにヒリヒリするような勝負をしたいと考える大谷にとって、ワールドシリーズやポストシーズン進出をかけたギリギリの戦いこそまさに望むところです。第5回WBC決勝がそうであったように、大谷はギリギリの戦いでこそより力を発揮できるし、そんな戦いを通してこそ野球選手として、人としてさらに成長できるというのが大谷の考え方です。

ワンポイント
人は緊張する場面や真剣勝負を経験してこそ成長できる。

そこに転がっている石ころで投げてくれ
と言われてもできるようにしないと

――『Number』1094・1095

「ものごとができない理由は100ほどもある」という言い方があるように、人間というのは「できない理由」を探すのがとても上手です。営業社員であればものが売れない、成績が上がらない理由を聞かれれば、「うちの商品は高すぎる」「ライバルが強力で」「世の中が不景気だから」「お客さまが決めようとしない」といった理由がたちどころに出てきます。学校での成績が伸びなければ、「自分の勉強部屋がないから」「塾に行けないから」「先生の教え方が悪いから」といった言い訳を思いつきます。

このように「できない理由」というのはいくらでも挙がるわけですが、問題はいくら「できない理由」を上手に述べたところで成績が上がることはないし、成果も上がりません。これでは人としての成長も期待できません。

大谷翔平が大リーグに移籍したのは2018年のことですが、日本のプロ野球で活躍した二刀流も、キャンプやオープン戦を見る限り、「打席ではピッチャーに押され気味で、マウンドではことごとく相手に打たれてしまう」というファンにとっては「どの程度の選手か分からない」レベルに過ぎませんでした。

「和製ベーブ・ルース」はどこにいったのか、がファンの声でした。実際、2月24日のデビュー戦では、やはりホームランを1本打たれ、2失点していますし、3月16日の対ロッキーズ戦ではホームランを2本も打たれ、7失点しています。いずれも短い登板であり、2試合で5つの三振を奪ったものの、コントロールの定まらない乱調ぶりに、前評判との落差を批判する人もいれば、環境の変化に苦労していると指摘する人や、まだ力を出し惜しみしていると見る人もいました。

実際、大谷は環境の変化に戸惑っていました。こう振り返っています。

「マウンドやボールの違いに慣れるのが大変でした。誰と対戦するかよりも、自分自身のフォームとかタイミングを見直すことに集中しました」

たしかに日本のプロ野球が使うボールと大リーグが使うボールは違っており、大谷に限らず滑るボールに苦労する投手は少なくありません。試合数が多く、球団数も多いため、マウンドごとの違いも大きなものがありますが、大谷はこう言い切っています。

「そこに転がっている石ころで投げてくれと言われてもできるようにしないと」

違いを言い訳にするのではなく、与えられた環境の中で最善を探しながら努力を続ける。成果を挙げる者は「できない言い訳」ではなく「何ができるか」に集中するのです。

ワンポイント
「与えられた条件」の中で最善を尽くしてこそ、成果を上げ続けることができる。
『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『大谷翔平の言葉』『栗山英樹の言葉』(以上、リベラル社)、『大谷翔平は、こう考える』[PHP研究所)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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