本記事は、桑原晃弥氏の著書『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

メンタル
(画像=kieferpix / stock.adobe.com)

メンタルを言い訳にしたくないので。
それも含めて技術だと思っています

―― 『二宮清純コラム プロ野球ガゼット』2024.4.26

勉強が思うように進まない時や、仕事で成果が上がらない時など、「最近、疲れ気味で」「いまいち気分が乗らなくて」「最近、心配事が多くて」など、体調の悪さや精神的な問題を不振や不調の理由にしたことはないでしょうか。

たしかに体調が悪ければ思うようなパフォーマンスは発揮できませんし、精神的な悩みを抱えているとやはり100%の力を発揮することは難しい、というのが普通の考え方です。しかし、それはあくまでも「普通の考え」でした。

大谷翔平が2024年4月21日、ドジャースタジアムの対メッツ戦で、日本人選手のトップに立つ176号を打ちました。4月12日にホームランを打ち、松井秀喜の記録に並んでから随分と時間がかかっただけに、大谷自身、「前回のホームランからちょっと時間がかかっていたので、早く打ちたいと思っていた。今日打てて、安心と喜びがあるかと思います」と素直に安堵の気持ちを口にしています。

大谷は元々が爆発力のある選手で、ホームランを打ち始めると一気に量産することもあるだけに、今回、1週間以上の期間が空いたことはどうしても「時間がかかっているなあ、不調なのかなあ」と心配されるのも無理のないところです。一方で、2024年シーズンに関しては、周囲も「今年は仕方ないよね」というような出来事が起きています。

韓国での開幕2戦目の前、長年のパートナーだった通訳の水原一平が違法賭博に手を出したとして球団を解雇され、さらに大谷のお金を横領したことや、金融機関を騙したこと、脱税などの罪で逮捕されるというショッキングな事件がありました。

そのため開幕から40打席もホームランが出ない大谷に対し、ある記者が「ホームランに時間を要したのはメンタルと技術、どちらが大きかったか」と質問したところ、大谷は「メンタルを言い訳にしたくないので。それも含めて技術だと思っています」と答え、周囲を驚かせています。

あれほどの事件に巻き込まれれば、普通は精神的に参り、不調に陥っても不思議ではありませんが、大谷は「メンタル」に逃げるのではなく、「技術の問題」と言い切っています。スポーツジャーナリストの二宮清純によると、調子が悪いと「メンタル」を理由にする選手は少なくないといいますが、本当のプロは「精神面よりも、技術が下手だから不調」と考えるといいます。大切なのはしっかりとした技術を確立することです。「メンタルも含めて技術」こそが大谷が常に成果を出し続けることのできる理由なのです。

ワンポイント
メンタルを言い訳にしない。卓越した技術があればいつだって成果を挙げられる。

悔しい経験がないと優勝してやろうという思いも
できないんだということを知ることができました

―― 『大谷翔平 野球翔年Ⅰ』

「1位で終わるためには、何度も何度も2位を続けていかなければならない」は「ゴルフの帝王」とも呼ばれ、「史上最高のゴルファー」とも称されるジャック・ニクラウスの言葉です。メジャー大会通算18勝を誇り、ゴルフを世界的スポーツにするうえで多大な貢献をしたニクラウスですが、彼でさえ何度も何度も敗北し、その積み重ねの上に勝利の道を開いていったのです。敗北の大切さを教えてくれる言葉です。

今でこそメジャーリーグを代表する選手に成長した大谷翔平ですが、過去にはケガや手術のために思い通りの活躍ができなかったシーズンを何度か経験しています。日本ハムでの4年目にはチームを日本一に導くほどの活躍をしたものの、日本最後の年となった5年目にはケガの影響から十分に活躍することができず、「申し訳ない」という思いを口にしています。

メジャーリーグに移籍してからも1年目は新人王を獲得したものの、2年目と3年目はトミー・ジョン手術の影響もあり、数字的には苦戦しています。3年目のシーズンオフ、大谷は2021年を、チームが与えてくれた「二刀流のラストチャンス」と解釈、2年間の悔しい思いを胸にシーズンに臨むことで、MVPを獲得するほどの大活躍をします。「悔しいなっていう思いがモチベーション」となったのです。

そんな「悔しさ」の原点は子ども時代にあります。大谷が野球を始めたのは小学校2年生の時です。当時から運動能力は抜群で、打者としても投手としても卓越した能力を発揮しています。しかし、小学生時代は目指す全国大会への出場はかないませんでした。ようやく夢がかなったのがリトルリーグの試合に出られる最後の年である中学1年生の時です。

この年、水沢リトルリーグは岩手県内で無敗を誇り、東北大会も勝ち抜いて見事に全国大会出場を決めますが、東北大会の準決勝で大谷は6イニング制の試合で18のアウトのうち、実に17個の三振を奪っています。これほどの活躍ができたのは、それまでの「負けた悔しい思い」があったからです。こう振り返っています。

「すごく悔しい思いをして、次は優勝してやろうという気持ちで頑張れましたし、そういう悔しい経験がないとそういう思いもできないんだということを知ることができました。最後の1年は本当に必死で練習しました」

負ける悔しさと、それを乗り越えて勝つ喜びこそが大谷の原動力なのです。

ワンポイント
「負けた悔しさ」を勝利ヘのエネルギーに変える。
『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『大谷翔平の言葉』『栗山英樹の言葉』(以上、リベラル社)、『大谷翔平は、こう考える』[PHP研究所)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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