この記事は2024年5月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「外食の値上がりランキング」を一部編集し、転載したものです。


値上げの文字ブロックを積み上げる人の手
(画像=takasu / stock.adobe.com)

目次

  1. 食料品インフレ
  2. 牛丼価格上昇の行方
  3. 世界価格の上昇圧力

食料品インフレ

個人消費の伸びが、物価上昇によって抑え込まれている。物価上昇は、特に食料品の伸びが牽引している。消費者は、スーパーマーケットに入ったときに、まずは値上がりした生鮮食品を目にして、価格上昇にげんなりする。生鮮食料品は、2022~2024年の3年間に毎年7~8%ずつ上昇している。

本稿では、そうした食料品高騰の中で、一般外食の項目に注目してみた。総務省「消費者物価」の細目では、外食21種類の価格調査が行われている。その品目について、2020年1~3月平均と2025年1~3月平均の5年前対比で、上昇率のランキングを作成した。すると、その中ではドーナツが29.1%上昇で首位、ハンバーガーが25.6%で2位であった(図表1)。3位が牛丼(25.1%)、4位がフライドチキン(24.0%)、5位がピザ・宅配(23.5%)と続く。こうした項目名を聞くだけで、いくつかの大手フランチイズ・チェーンの名前が思い浮かぶと思う。おそらく、大手フランチャイズ・チェーンは、5年前までの価格が低すぎた面もあるのだろう。それが近年は是正されてきた。つまり、2022年頃からの食材価格の高騰で、大手チェーンでも従来の低価格での商品提供ができなくなったと考えられる。コロナで店舗の稼働率が下がり、従来のように薄利多売ができなくなったことも大きい。事業者は2020年頃を境に、以前のデフレ型ビジネスを継続できなくなったとみられる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

価格上昇幅が大きい外食の種類をみると、牛肉など肉類の使用が多いものが目立っている。ハンバーガーや牛丼は、牛肉を材料のメインにしている。輸入牛肉は、この5年間で38.5%と大きくコストアップしている。ピザで使用されるチーズ価格の上昇率も高い。肉類・乳製品の材料の高騰が、外食チェーンの値上げに響いていると考えられる。また、首位のドーナツは、肉類を使用していないが、砂糖、植物油、小麦粉、生クリーム、チョコレートなどを多く使用しているので、その高騰を受けているようだ。

その一方で、一般外食の種類の中で、相対的に値上がり幅が小さいものは何だろうか。外食のビールの値段は、5年間で11.2%という上昇幅に抑えられている。次に、上昇率が低いのは、スパゲッティ(11.8%)、うどん(12.4%)、サンドイッチ(13.0%)と続いている。ビールは、消費者物価の全食料品品目で最も価格高騰が抑えられていた商品でもある。また、ここでは麺類の価格が抑制されていることもわかる。ランキングの中では、日本そば、中華そば(ラーメン)も低い。どうして外食麺類の価格高騰が抑え込まれているのかという理由を考えると、麺類の粗利率が高い=原価率が低いからだろう。ここ数年で、小麦粉価格の上昇幅は大きい。それでも、従来から原価率が低く、うどんやラーメンの原価率は20~30%とされる。原価率が低く、粗利率が高い分、小麦粉価格の上昇を吸収する余地があるという考え方もできる。その一方で街場のラーメン屋の閉店・倒産は多い。競争が激しくて、なかなかコスト転嫁が難しいというのが実情だろう。

外食の種類の値上がりの傾向は、肉類を主な材料とするものが高くなっていて、「肉高」である。反対に、値上がりが抑えられているのは麺類である。傾向として「肉高麺低」と言えるだろう。

牛丼価格上昇の行方

上記のデータ分析は、2025年1~3月のものである。牛丼は、4月に大手チェーン複数社が値上げをしている。もしかすると、ここでは21品目中で3位の牛丼は、順位を1・2位に上げている可能性がある。牛丼は、価格が高騰しているコメを使用しているから、直近でも原価率の上昇が進んでいるとみられる。そこで、筆者は牛丼1杯のレシピからコスト指数をつくり、それがどのくらい上昇したかを調べてみた(図表2)。すると、2020年1~3月に比べて、2025年1~3月のコスト指数は50.3%ほど上昇していた。材料のコメ(1.86倍)、牛肉(1.41倍)、たまねぎ(1.52倍)、しょうが(1.31倍)という高騰ぶりだ。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

しかし、実際の牛丼価格の変化(25.1%)と比べると、コスト指数の方が上昇率が高かった。これは、まだ原価率の上昇分を十分には価格転嫁できていないことを示唆しているのではないだろうか。牛丼価格は、牛肉を材料に使っているだけではなく、他の材料も上昇していて、そのコストプッシュ圧力が大きい。だから、今後も値上げを随時進めていかざるを得ないという図式のようである。

ここでの原価率には、人件費は含まれていない。おそらく、都市部に多く出店している大手チェーンは、都市部のパート・アルバイトの時給上昇によって、経常利益が圧縮されている可能性も高い。2024年の最低賃金は、東京都で1,163円である。この金額は2019年の1,013円に比べて14.8%も高い。パート・アルバイトの時給もその影響を少なからず受けているだろう。今後も、最低賃金の水準が2020年代後半までに1,500円を目指すのであれば、最低賃金の高い東京都でも毎年5%以上の人件費高騰を覚悟せねばならないだろう。今後も、牛丼価格の上昇は続きそうだ。

世界価格の上昇圧力

筆者が驚いたのは、ハンバーガー価格が21品目のうち2番目に高かったことである。ハンバーガーと言えば、かつてはデフレの象徴的な食べ物であった。1個が100円以下だった頃もある。今は昔のことである。

このハンバーガー価格は、世界中の物価を測るときの共通指標になっていることで有名である。ビックマック指数は、2025年5月の価格水準が日本は1個480円で22位(30か国中)である。ここでのデータは、BigMacIndex.jpというサイトを引用している。日本の22位という順位は、21位の中国(513円)、19位の韓国(571円)よりも下に位置する。日本のハンバーガーは、日本の外食品目では2位と高騰が目立っているのだが、海外のハンバーガーよりは遙かに割安なのである。こうしたハンバーガーは、世界各国で品質が均一に近いから、各国比較ができるとされる。同時に、海外から多くの原材料を輸入していると、コストが内外で収斂していく圧力が働きやすい。世界価格に収斂のメカニズムが働くということだ。日本の食料品高騰にもこの原理が働いているとみられる。日本の大手チェーンのハンバーガーの牛肉は、ニュージーランド産やオーストラリア産を使っているとされる。すると、やはり海外のコスト増を反映して、ハンバーガー価格は収斂していくという原理が作用する。各国間のハンバーガー価格の差は、人件費、店舗賃料といった固定費に分類される費目(非貿易財)になると考えられる。日本のハンバーガーは、①海外産の牛肉を材料に使っている分、他の外食よりも価格上昇が高くなる。これは、世界価格への収斂メカニズムである。しかし、その一方で②人件費のような日本固有のコストが相対的に低いために、各国比較の価格水準は安くなってしまう。ここには「安い日本」が反映されている。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生