水素技術の普及事業はもはや国家プロジェクト

燃料電池車と並ぶ、市場化に向けたもうひとつの柱が家庭用燃料電池(エネファーム)である。都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させ、家庭で電気をつくる画期的なエコシステムだ。水素をいったん燃焼させて電気に変える燃料電池は、電気をそのままの形でエネルギーとして利用できる蓄電池に比べると変換効率では劣ってしまう。

しかし、水素は高価な蓄電設備を必要としない。発電時の熱までフル活用でき、送電ロスもないので高効率でエネルギー密度の高い。多様性の面からも、不可欠なエネルギーである。燃料電池車よりも先に普及が進んでいるが、設備の導入費用が約200万円と高額なため、普及率は全世帯数の0.2%にとどまっているが、電気代の値上げや、小型化や廉価版などで、関心は高まっている。太陽光発電とのセット利用や、電機メーカーと不動産の共同販促などで普及拡大を図っている。

経済産業省は、家庭用燃料電池を2020年頃に140万台、30年頃に530万台普及させる目標を発表。工程では20年頃に自家発電用水素発電を導入し、30年頃には発電事業用にもこの発電方式を広げることや、燃料電池車の普及を世界最速で目指すとの目標も掲げられた。日本が数10年後に描くエネルギー社会のシナリオは、電気と水素の共存。電力エネルギーと水素を可逆的に変換させていくことで、化石燃料への依存から脱却していく。

水素は2050年頃には全世界で約160兆円の巨大市場に成長すると試算されている。コンピュータのOSや携帯電話端末のグローバル化では世界に大きく遅れをとってしまった日本企業。政府としては同じ轍を踏まぬよう国家プロジェクトとして水素技術を育てて、水素エネルギー分野でなんとしても世界で優位性をもちたいという切実さが伝わってくる。


水素関連銘柄に注目

注目の水素関連銘柄現在はまだ補助金頼みの水素技術。商業ベースでスタンダードになるには10~20年の時間がかかる。水素ステーションの設置やメタンハイドレートの調査・採掘、それに水素の製造や輸送技術にもまだまだ投資が必要である。

燃料ガス大手の  岩谷産業 <8088> は2015年度までに自社で20カ所の水素ステーション設置を計画しており、水素事業を将来の主力事業に育てていくことを計画している。セブンーイレブンと協業し、コンビニと水素ステーションの併設店も出店が決まっている。

岩谷産業は日本で初めて商業用液化水素製造プラントを本格稼働させ、ロケットに水素燃料を供給するなど水素事業のパイオニア企業。水素供給のシェアでは半分以上を占めるトップサプライヤーだ。水素ステーションには、大阪ガスと共同出資した大阪・堺市の製造プラントの液化水素を供給していく。

これに続くのが  JX日鉱日石エネルギー (JXホールディングス)  <5020> , 大阪ガス <9532> などエネルギー大手各社も、2015年内に計約100カ所の水素ステーションの整備を行っていく予定だ。

水素の製造や貯蔵も大きな課題であるが、圧縮機製造の  加地テック <6391> では、水素ステーションに設置する燃料電池用の圧縮機を供給している。水素は気体のままではかさ張るが、超高圧に圧縮することで液化して体積が数10分の1になる。超高圧で危険な水素を扱うということで、10年以上も水素専用の圧縮機を研究してきた技術と信頼で受注を決めている。

川崎重工業 <7012> は海外からの水素輸送に対応するために、専用の貯蔵タンクや輸送容器を開発している。水素は石炭のガス化反応でも生成されるが、石炭産出国のオーストラリアと日本間を、輸送可能な設備の開発に成功している。これによって、水素の供給源の選択肢が広がる。また、11月には産業用としては世界初となる水素液化プラントの実証実験を開始。水素発電に対応したガスタービンやガスエンジンの研究も行い、来たる水素社会に先行して投資を進めている。

ほかにも水素社会を実現するためには、原料の天然ガスの採掘や家庭用用途の普及も欠かすことができない。家電や自動車メーカーはもちろんのこと、水素関連の市場は採掘に使う重機メーカーや、燃料電池を扱う住宅メーカーにまで裾野が広がることだろう。しばらくは水素関連企業の動向から目を離せない。

(ZUU online)

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