魚粉の高騰で日本の養殖がピンチ

漁業関係者が憂慮しているのは、この養殖用の餌が高騰していることだ。

「養殖魚の需要が世界的に高まっているため、餌に使われる魚粉が奪い合いとなって、日本は買い負けている。今後中国が本格参入するとされ、さらに価格が高騰すると言われている」と危機感を募らせるのは、独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所主任研究員の石田典子さんだ。

日本の養殖技術は世界を引き離している。不可能とされたマグロの完全養殖をはじめ、近年ではキャビアの原料のチョウザメの量産化も成功しており、ほかに数十種の完全養殖を実現している。

この養殖を支えているのが餌の品質である。日本の飼料メーカーが手がける養殖用餌は世界トップで、「技術では他国より20年先は行っている」(石田さん)という。そしてこの餌の質を決めるのが、魚粉だ。魚粉は、子アジやアンチョビといった小型魚などを粉末に加工して作られるが、餌の高騰から魚粉の買い付け元であるチリやペルーなどは漁獲枠に制限を加え出した。

「日本は魚粉の9割以上を南米産に依存しているため、そのコストをいかに抑えるかが喫緊の課題」(石田さん)となっている。

そこで石田さんが他の研究機関と一緒に取り組んでいるのが、魚粉率を抑えた養殖魚向けの餌の開発だ。


未利用率9割の実態とは

注目したのは、煮干しなどに使われるカタクチイワシだ。カタクチイワシは、身の質が脆弱で鮮度低下が早いため同じ小型魚のマイワシなどに比べ利用率が低い。サイズも小さく単価が低いため、機械化に対応できず、頭や内臓を取り除いて店頭に出すと利益が確保できない。つまり、狙って獲るのではなく、他の魚と一緒に網にかかる「やっかいな」魚だった。

こうした利用率が低い、または利用されない「やっかいな魚」は漁獲量の実に9割を占めるとされ、その利用率の向上が関係者の長年の課題だった。

それにしても9割とは…いったいどういうことなのか。

「漁師にとって魚は種類が単一で、サイズが一定であるほうが売りやすい。巻き網などで漁獲する場合、魚種が多く、狙った大きな魚が少ない場合は、船の魚槽に入れる前にそのまま海に戻すことも多い」(石田さん)。こうしたケースや、頭などの廃棄部を含めると未利用率は9割にのぼってしまう。