モノづくりの国となりえるか?

それでは、この投資ブームのなかで、フィリピンは今後モノづくりの国としてプレゼンスを高めていけるのかを考えたい。

フィリピンの優秀なエンジニアは国外就労へ向かう傾向がある。また国外だけでなく、国内においてもBPO産業が躍進しており、欧米系企業の割高な給与が製造業の優秀な人材の離職につながっているという報告もある。

熟練工を鍛えるのに長い時間を要する製造業にとって、海外志向の強いフィリピン人の気質や、BPO産業などの国内サービス産業の発展を考えると、厳しい環境にあり、いかに職場に定着させるかは、多くのメーカーの課題となっている。

筆者が情報交換するメーカーでは、エンジニアが突然辞めた場合にも対応できるよう、手順の文書化を組織的に行うことで、とかく俗人的になりやすい熟練工の作業フィールドを見える化するよう心掛けている。

加えて、インフラ面の脆弱性も昨今フィリピンにおけるモノづくりの難しさの悪因となっている。
2013年12月の台風・ヨランダの被害に対して、世界中から集まった救援物資の取扱いがトラック不足の問題を浮き彫りにした。さらに、2014年2月末より、マニラ市がトラック通行の規制を強化し、マニラ市の物流は機能停止状態となった。

多くの製造業者は、マニラ港揚げから、ルソン島南部に位置するバタンガス港揚げにするなど策を練ったが、以前として港湾の脆弱なシステム、慢性的なトラック不足の問題に頭を悩ませている。物流面のインフラだけでなく、割高な電気代、単発的に起こる通関システムのダウンなど課題は多い。


組立国としてのフィリピン

前述したように、フィリピンは豊富な労働力、そして経済特区のインセンティブを理由として、再び投資国として注目されている。一方で、海外就労者となる傾向や経済的理由で職場の定着率が低い現状を考えると、モノづくりの国フィリピンは、労働集約型の組立をメインとする、従来の電子産業と同じような歴史をたどるのではないかと考えられる。

その特徴を活かすためにも、第三国で生産される中間部品や原料を滞りなく流通させ、フィリピンで組み立てを行い、外国市場へまた輸出していくという一連の物流インフラをいかに充実させるかが、フィリピン政府にとって、現在の大きな課題だろう。


小川晃廣 1981年フィリピン生まれ。中央大学大学院経済学研究科修士課程修了。外資系コンサルティング会社、日系メーカー、総合商社勤務を経て、現在、物流関連の法人設立準備のため、フィリピンに居住。日系調査会社と業務提携を交わし、フィリピンでの市場調査、販路開拓、法人設立サポートも実施。

(ZUU online 編集部)

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